ちょうどそういうときに歯も痛くなってね。歯の痛さも相当に強いストレスでしょう。痛みをこらえながら乗船業務をこなしてたとき、全身に刺青を入れた顔馴染みのトラック運転手に「元気ないね? どうしたの?」って聞かれた。「歯が痛くてどうしようもないんだよ」って答えると、「そんな痛み、覚せい剤を使えばすぐ取れるよ」って言うんだよ。
俺はそれまで注射は大嫌いだったし、覚せい剤を使うヤツはバカだと思ってたんだけど、あのときはいろんなことが重なってすごくストレスを感じてた。歯の痛みもそうだけど見えない心の痛みの方が大きかったな。ストレスも痛みで、人ってやっぱり痛みに弱いからね。
そこにすごくいいタイミングで覚せい剤がやってきた。だからちょっとやってみるかって気になっちゃった。それに元々やりたくて覚せい剤をやるわけじゃないから、ここでやったってハマるはずがないと思ってたしね。
それで軽い気持ちで覚せい剤を打ってもらったら、1週間もずっと続いてた歯の痛みが数秒でなくなっちゃった。これはすごくいいぞ! と思ったね。
今考えると不思議だよな。なんで悪いことが重なるときって、3つも4つも重なるんだろうね。でも悪いことが重なってた時期だからこそ劇的な効果があったんだろうね。痛みが大きければ大きいほど、クスリの薬理効果って大きいんだよ。よく空きっ腹に酒を飲むと五臓六腑に染み渡るっていうじゃないですか。あれとおんなじなんだよ。シャブが体中に染み渡っちゃったんだよ。打ってすぐ、30秒もかからないうちに歯の痛みが取れて、そのとき「これだ!」って思っちゃった。そういう劇的な変化に人間は弱いんだよな。
それで一発でハマっちゃって、それ以降も打ってもらったんだけど、1回打てば2、3日は寝ないで仕事ができたし、徹夜でバクチをやっても連戦連勝するようになった。そういう報酬効果がすごかった。だから1週間後には1日3回、3カ月後くらいには1日5回も打つようになっちゃった。そのハマり方はちょっと異常だったよね。 |