キャリア&転職研究室|魂の仕事人|第1回元アナウンサー・記者 藪本雅子さん-其の1-女子アナ時代に味…

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魂の仕事人 魂の仕事人 第1回 其の一
大量の酒、精神安定剤に依存していた女子アナ失格の日々……それでも辞めようとは思わなかった。辞めたら死んだも同じだから
 
元日本テレビアナウンサーの藪本雅子さんといえば、真っ先に思い浮かぶのがアナドルの先駆けユニット「DORA」。TVカメラの前で歌い踊る姿はまさにアイドルそのもの。しかし本人曰く、「アナウンサーとしてはダメダメでした」。あの華やかな姿の裏にあった「人格崩壊の危機」とは?
  元アナウンサー・記者 藪本雅子
今年5月『女子アナ失格』を上梓した藪本雅子さんは、中学時代:タレント→大学時代:フジテレビのレポーター→日本テレビに入社。女子アナながら「DORA」を結成してレコードデビューまで果たす→報道記者に転身、数々のスクープを飛ばす→防衛庁官僚との結婚を機に退社。現在は優しく頼りがいのある夫と2人の子供に囲まれ、幸せな毎日を送っている。そして本まで出版──と、経歴だけを眺めると、職業人として、ひとりの女性として順風満帆の華々しいキャリアを歩んできたように見える。しかし、最も華々しく見える女子アナ時代、人格そのものが崩壊してしまうような重大な危機に遭遇していたのだ。
 
「DORA」で一躍人気者の仲間入り しかしその直後「地獄」が訪れた
 
 私がアナウンサーを目指したのは、仕事自体に魅力を感じていたからじゃなくて、有名になりたかったからなんです。子供のころからタレントになりたいという夢があった私は中学2年のときに親元を離れ、京都から単身上京して芸能プロダクションに入りました。しかし、ストレスから摂食障害を起こして途中で契約を打ち切られて、田舎へと舞い戻った。挫折してしまったんです。「もう一度スポットライトの当たる場所へ行きたい」。女子アナになろうと思ったのは、リベンジのためだったんです。

 大学卒業後、競争率1000倍以上の難関を突破して日本テレビに入社できました。入社2年目に女子アナ3人ユニット「DORA」を結成して、タレントばりにステージで歌を歌ったり、レコードを出していたころは、とても楽しかったんです。注目されるのがうれしくてしょうがなくて、有頂天になっていました。まさにそのために女子アナになったようなものでしたから。でもそんな楽しい期間はほんの一瞬でした。

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 きっかけは私の実力以上に大きな仕事が来てしまったことです。例えばスペシャル番組の司会。そういう場では大勢のゲストを仕切らなきゃいけないわけですよね。それが私にはできませんでした。元々人当たりもしゃべりも、そして仕切りもうまい方ではなかったので。そこで、アナウンサーってこういう仕事だったんだと初めて気がついたんです。「しまった。これは苦手な商売に来てしまったぞ」と思っていました。

 トチるし、トンチンカンなことをいうし、司会としてはダメダメでした。それでも「DORA」で顔が売れていた分、バラエティの司会には途切れることなく声がかかりました。さらに当時、平行して深夜のニュース番組『きょうの出来事』でお天気コーナーも担当していたのですが、そこでもミスを連発して、たびたびお天気コーナーが台無しになることもありました。

 やはりアナウンサーとしての力が全然付いていなかったんですね。もちろん私なりに努力して、司会として、お天気キャスターとしてうまくしゃべろうと頑張りました。でもなかなかうまくはなりませんでした。努力すればできるというものではなかったのです。

 頑張っても頑張ってもミスの連続。だから毎日、つらくて苦しくて……。現実逃避から、毎日お酒を浴びるように飲んでました。ほとんど依存症に近い状態だったと思います。

 決定打となったのが、あるバラエティの特番での香港ロケ。ゲストに大物タレントさんがいたのですが、私の度重なるミスで「よくそれでアナウンサーやってるな」というキツい言葉を浴びせられたのです。そこをうまくかわしてこそのバラエティなのですが、それをいちいち真に受けて萎縮して、またミスをするの悪循環……。それまでに蓄積されていたものがそこで爆発したというか、パニック状態になってしまって。帰国したときには完全に壊れていました。ある種の適応障害だったのかもしれませんね。

 
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 そしてとうとうカメラの前でしゃべることが怖くなってしまった。アナウンサーなのに。もう仕事に「恐怖」を感じていました。それで2カ月間くらい、毎日精神安定剤を飲んでいました。薬に頼らないと、仕事ができなかったんです……。

 テレビに出るときは別人格を作り上げていました。出演前に一時間くらい別室に籠って別な人格を作り上げてから、カメラの前に立つ。収録が終わったらまた、一時間くらい籠って本来の自分に戻る。そうやって、「カメラの前で陽気にしゃべる自分」を私とは別の人間として作らなければ、仕事ができなかったんです。

 それでも辞めようとは思いませんでした。辞めたら自分には何もなくなってしまうことがわかっていたからです。そうなったらもう死ぬしかない。だからつらくても仕事にしがみつくしか自分を保てなかったんです。辞めていたらもっとひどい状態になっていたでしょうね。

人格崩壊の危機に直面しながら、薬でだましだまし仕事を続けていた28歳の藪本さん。「残るも地獄、辞めるも地獄」のドン詰まり状態だったが、あるとき回復への大きな転機が訪れる。「結婚」と「阪神大震災」だ。
 
酒びたりの日々からの脱出 転機となった阪神大震災の取材
 
 28歳のときに、姉に紹介された人と結婚しました。相手は海外勤務だったので毎日ファックスでやりとりしていました。自分の正直な気持ちを伝えられる相手がいることが大きな支えとなったんだと思います。少しずつ、精神的に安定していきました。その相手とは、その後すぐに別れてしまいましたけど。

 仕事でも大きな転機が訪れました。阪神淡路大震災です。『きょうの出来事』のプロデューサーから現地取材を命じられたんです。

 取材に行けといわれたときは、とても不安でした。まずニュース番組での初めての現場取材。原稿なんか書いたことがないし、ちゃんとした日本語でレポートできる自信も全然ない。さらに多くの方が亡くなった現場に、バラエティのイメージが強い私が行くなんて……。でも、行けといわれたら行くしかないんですよね。

 5000人以上が亡くなった大災害。現場はたいへんでした。初めて目の当たりにする悲惨な状況に泣きながら取材しました。生放送でもアガリまくって、まともにしゃべれませんでした。しかし取材終了後、意外にも社内外からねぎらいやおほめの言葉をいただいたのです。こんなことはアナウンサーになって初めてでした。

 
 これがきっかけでその後も取材をするようになりました。一つひとつの取材の過程でいろいろな人の話を聞き、勉強して知識を得ていくことで、放出する一方のバラエティでスカスカになった自分の中身が少しずつ満たされていくような感じがしました。取材することは「蓄える」ということですから。取材を通じて自分を取り戻していったといえるかもしれません。

 あるディレクターから、『きょうの出来事』でもう一度「半年後の阪神」の企画をやってみろと言われたことも大きな転機となりました。その人が、取材からナレーションまでどういうふうにやったらいいかを教えてくれ、最後まで見守ってくれたんです。初めて達成感を得られた仕事でした。と同時に「取材して番組をつくるのって、こんなにおもしろいんだ」と気づきました。この経験で「アナウンサーだけど企画取材もやるんだ」という新しい目標が見えてきたんです。

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ある仕事を契機に、絶望のふちからよみがえり、少しずつ自信を回復していった藪本さん。次回は、望む方向へ進んだ藪本さんが再び遭遇したカベと、それにどう立ち向かっていったのかについて語っていただきます。
 
 
2005.7.4 1.女子アナ失格の日々
2005.7.11 2.もう逃げたくなかった
NEW!2005.7.18 3.仕事が私を自立させた

 

薮本 雅子
(やぶもと・まさこ)
1967年京都生まれ。1991年日本テレビ入社。『スーパージョッキー』『夜も一生けんめい』などバラエティー番組に数多く出演。永井美奈子さん・米森麻美さん(故人)とともにアナドルの先駆けとなる「DORA」結成、人気を博す。その後次第に報道系にシフト。アナウンサー→企画ディレクター→報道記者とキャリアチェンジ。ハンセン病取材では大きな成果を残す。2001年結婚を機に日本テレビを退社。現在の職業「2児のママ」
ブログも執筆中「yabumoto.net

 
 
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元日本テレビアナウンサー・藪本雅子さんが、日テレ時代に経験した天国と地獄を「ここまで書いちゃって大丈夫なのだろうか?」とつい心配してしまうほどに赤裸々につづった一冊。今回のインタビューではほんのさわり程度しか書けなかったが、テレビ局内でのキャリアチャンジを重ねてきた藪本さんの「告白取材記」だけに、全身全霊をかけて取り組めるテーマ・目標の見つけ方、会社内でやりたい仕事をやる方法、苦しい状況下でも成果を出す方法など、一般のビジネスマンにも使えるヒントが満載。また、藪本さん自身悩み、苦しみながらキャリアを築いてきたので、「このままでいいのかな……」「このカベ乗り越えたい」といった悩みにもガツンと効く。特にキャリア・生き方に悩む女性は必読! ハンセン病問題の教科書としても秀逸。

 
 
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