これまでマスコミや個人から批判を受けたことも意外ですがあまりありません。「古武術による介護」なんて怪しげなこというと真っ先に叩かれそうなものですがなぜか少ない。
あ、でもマスコミ関連でいえば、特にテレビの出演依頼には注意が必要ですね。これまでも10件以上は断ってます。「1分間ですぐできる介護術をやってください」とか無茶言うんですよ。そんなの無理ですから。あとは「アイドルやお笑いタレントと一緒に出て介護をおもしろくやってください」っていうバラエティ色の強い企画も断ってます。おちゃらけに使われるのがわかってますから。だからまずディレクターに、「介護なので、あまりにもおちゃらけすぎるとたいへん傷つく人がいるので、最後の一線を越えないようにしてください」って言ってます。
バラエティじゃなくてもひどい番組はありますよ。少し前に、科学で何でも解き明かしていこうというコンセプトの某番組で、モーションキャプチャを使って古武術介護の動作を分析するという企画に出演協力したのですが、これが本当にひどいものでした。番組が動作分析を依頼した某大学の教授が何でもかんでもテコの原理で説明してしまう先生で。テレビ局としては分かりやすいからいいやって感じだったんでしょうけど、それではある種の捏造になってしまいます。人間の動きの複雑さは単純な原理には収まりきらないですからね。
視聴者には極力正しく伝えないといけないと思って「人間の身体の中にテコの力点、支点、作用点ってどのくらいありますか?」「関節の数だけ、それらがいっせいに同時進行したらひとつの支点ってわけがないじゃないですか」ってガンガンコメントしたら、使える映像がほとんどなくなってしまって。動作分析を中心に構成しようと3日間実験を行った映像が1、2分くらいになっちゃった。もちろん僕の発言は全部カット。あのときはテレビというメディアへの不信感が一気に高まりました。
甲野師範もその番組に出演したんですけど、そういう科学者の横暴みたいなことに関してものすごく怒ってましたね。そういう意味では、最も人間の動作分析に優れているのはロボット工学の研究者だそうです。なぜかというと「人間の身体の動きは単純化できない」ということを一番よくわかっているからです。番組を見た、甲野師範が交流している二足歩行ロボットの研究開発をしている教授からは「ああいういい加減なことを言う科学者は、世の中の人をまやかす科学者だ」っていうものすごくきついメールが送られてきたそうです。
でも逆に誠実なテレビマンも何人かいました。特にテレビ朝日の「報道ステーション」の制作会社の人はすごく誠実でした。たった5、6秒のインタビューのために出張先の北海道まで取材に来てくれたり、自分自身が身体で納得しないと視聴者に伝えられないから、自分とADのために講習をやってくださいって道場を借り切って一緒にやったりとか。10分少々の映像を作るのに、ものすごく丁寧に作る方でした。同世代くらいなんですけど、そういう方もいるんだなあって。だから結局はつくり手次第なんだなって感じましたね。
まぁ時々「え〜?」と思うことはあるんですけど、そのうちに忘れるって感じですね(笑)。
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