でもその映画が大ヒットしたわけですよ。そこで僕には運もないなと痛感したんですね。もちろん佐野さんが主役をやったからヒットしたのは分かってるんですけど。元々僕には演技の才能はないと思ってましたが、その上、運までないかと。これは決定的でしたね。どっちもないんなら、これはどうしようもないなって。
さらに、ちょうどその時つきあってる女性が妊娠したんです。入院してたときに知り合った看護師さんなんですけど。そこで、いい機会だから結婚して、定職に就こうかなと思ったんです。
そのとき、挫折感はあったかって? うーん……「夢をあきらめた」みたいな挫折感は意外となかったかな。当時は芝居を続けることに不安も感じてましたから。どうなっちゃうんだろうこの先っていう。やっぱりゴールデン街とかにたまに飲みにいったりすると、カウンターの中に昔芝居やってたんだよって人がいたりしてさ。そういう人を見たり、話を聞いたりすると、芝居の世界ではほんと一握りしか成功できないんだって実感していましたから。今はまだ四畳半一間でいいけど、50、60になって四畳半一間で銭湯通いはキツいなーって。それに耐えられるだけの情熱があるかっていうと、それはなかったんですね。だからこの先どうなるんだろうっていう将来への不安を常に感じてました。
まあ、結婚、就職、出産、3つのイベントがどっと同じ時期にきたから、挫折感どころじゃなかったですね。彼女もすぐには働けないし、家族を養っていかなければならないわけだから。だからちょうどよかったんじゃないですかね。
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