通常、人材バンクは、企業の人事部から求人の依頼を受けて、その企業のニーズに合う人材を探して紹介しますが、今回の難波さんの転職は少し特殊でした。
というのは、難波さんが転職した会社(A社)の人事部から正式に人材紹介の依頼を受けていたのではなかったのです。つまり、非公開求人どころか、正式な求人募集そのものがされていなかったのです。
私どもアシル技研株式会社の場合、人材紹介業はいわば副業でして、メーカー向けの技術コンサルティングが主業務です。その技術コンサルティングを通じて知り合った方の中にA社の技術者がいたのです。
とはいっても、難波さんにすぐにA社を紹介したのではなく、匿名公開キャリアシートを拝見した段階では、別の企業の求人を紹介するスカウトメールを送りました。実名のキャリアシートを提出いただき詳しいご経歴を拝見して、予定していた企業よりもA社に相応しい人材ではないかと思いました。先に紹介した別の企業は書類選考で落ちてしまいましたが、難波さんもA社のほうが今までの知識や経験を活かせるということで、あらためてA社を紹介することにしました。
その時点でA社から正式な依頼はありませんでしたが、「実はこういう方がいるのですが」と先ほどの技術者の方を通じてA社の研究所長に伝えると「ぜひ会いたい」となり、その後は記事の通り、とんとん拍子に内定が決まりました。
実は面接の前からほぼ100%採用されると確信していました。なぜなら、難波さんが在籍していた会社とA社は同じ業界でしかも特殊な技術分野のため、ここまでぴったりの知識・経験の方はそうそういらっしゃらないからです。
ご経歴以外でも、難波さんは全く問題ありませんでした。遠方だったので電話でお話を伺いましたが、難波さんは相手の話をよく聞き、的確に応答し、お人柄も明るい印象でした。面接時に初めて対面しましたが、お会いしてさらに採用を確信しました。面接での企業側の評価も高く、一次面接開始数分後には採用が決定したようです。
今回の転職は難波さんとA社の両者にとって、とても幸運だったといえるでしょう。なぜなら特殊な業界なので、難波さんのような人材も、A社のような求人も、なかなか求人市場に現われないからです。まさにピンポイントでお互いのニーズが合致した稀有な事例といえます。人材バンクネットを利用する利点はこういうところにもあると思います。お一人での活動ではこのような潜在的な求人の機会を捉えられませんから。
これから転職を考えている人には、まず職務経歴書やキャリアシートを書く際に心掛けていただきたいことがあります。それは「自分のことを全く知らない相手が読む」ということを前提に書くということです。当たり前のことですが、これをきちんと念頭に置いた上で職務経歴書を書くのはなかなか難しいのです。自分をなるべく客観視して、相手が自分の強みやセールスポイントを正しく理解できるように、違う専門の人にもわかりやすく書くことが重要です。そのために、応募する前に、友人や家族など第三者に見てもらうのも有効な手段ですし、もちろん我々のような専門の人材コンサルタントに相談していただければ、さらに確実と思います。
客観視という意味では、自分を過小評価してしまう人も大勢います。長らく同じ業界で同じ仕事をしていると、自分の身につけた技術や能力がそれほど価値の高いものには思えず、折角の魅力がかすんでしまうことが多いのです。しかし、ほかの企業から見ると十分強みになりえることも多々あります。それを知らないと非常にもったいないと思います。自分の客観的な市場価値を測る上でも、沢山の経歴書を読んできている人材コンサルタントに一度相談してみることをお勧めします。