キャリア&転職研究室|転職する人びと|第49回・後編 自分の道は自分で切り開く これまで身につけた力…

TOP の中の転職研究室 の中の転職する人びと の中の第49回・後編 自分の道は自分で切り開く これまで身につけた力を武器に 37歳でキャリアチェンジに成功

     
       
 
一年間に転職する人の数、300万人以上。
その一つひとつにドラマがある。
なぜ彼らは転職を決意したのか。そこに生じた心の葛藤は。
どう決断し、どう動いたのか。
そして彼らにとって「働く」とは—。
スーパーマンではなく、我々の隣にいるような普通の人に話を聞いた。
第49回(後編) 永島栄治さん(仮名)37歳/営業職
自分の道は自分で切り開く これまで身につけた力を武器に 37歳でキャリアチェンジに成功

カナダと日本との働き方の違いで、帰国後就職したフレンチレストランを半年で退職した永島さん(仮名・37歳)。次の転職先のメドすら立っていなかったが、自分を信じ、7度目の転職活動を開始した。

異業種への転職を希望
 

「在職中はとにかく拘束時間が長く(※1)とても転職活動なんてする時間も余力もありませんでした。家に着いたら一刻も早く風呂に入ってベッドに潜り込みたいという毎日でしたので、ネットにつなぐ時間すらもったいなかったのです」

 転職先を決めないまま退職した永島さんは、2008年12月から転職活動を開始。次の転職先は、飲食業とは全く別の業界・職種を志望した。

 そもそもカナダから帰国したときに、そろそろ別のことがやりたいと思い、飲食業からは離れるつもりだった。でも次に何がやりたいのかはっきりとはわからなかったので、とりあえずつなぎのつもりで経験が生かせるレストランに転職した。

「でも日本の飲食業は水に合わないと思ったこともあり、今度こそ、違う仕事をやろうと心に決めたんです。そこで自分の強みは何だろうと考えたときに、人と話すことが好きだし、知らない会社に飛び込んでいって売り込むのも苦じゃない。旅行会社時代の実績もあるので営業職がいいだろうと。また、10年間の外国生活でビジネスレベルの英語力を身につけていたので、英語を使う営業職を目指してみようと思ったんです」

 前職のフレンチレストランに就職した際に利用した大手転職サイトで求人検索したが、あまり魅力的な求人は見つからず、応募したいと思えるスカウトメールも届かなかった。

不動産の営業職に応募
 

 引き続き検索する過程で、【人材バンクネット】に出会った。一度登録してキャリアシートを匿名公開すれば、後は自分のスキルを求める人材バンクからスカウトメールを待つだけというシステムに魅力を感じ、早速キャリアシートを匿名公開してみた。

 同時に【人材バンクネット】内で求人を検索してみたところ、魅力的な求人が見つかった。主に日本在住の外国人に物件を紹介する不動産会社の営業職。不動産業界は全くの未経験だったが、営業力と英語力には自信があったので、早速求人のエントリー先だった人材バンクのコンサルタントの元を訪ねた。【人材バンクネット】に登録してわずか1週間後のことだった。

「コンサルタントは親身になって話を聞いてくれた上に、不動産業界未経験でも大丈夫だと言ってくれました。おかげですごく勇気づけられましたね」

 コンサルタントの「やる気にさせる」面談でモチベーションアップした永島さんは正式に応募、書類選考も無事通過し、12月中旬に一次面接が行われた。

一次面接でほぼ確定
重要なのは自分を信じきること
 

「面接では旅行会社での営業や外国での生活など、これまでの経験から得た能力と実績を、未経験業種である不動産営業につなげるようにアピールしました。面接官だった社長もすごくいい人で、私の長所に積極的に注目(※2)してくれたんですよね。普通の人だったら私の経歴を見て、全部中途半場だなという印象をもつと思うんですよ。私が面接官だったとしてもそう思いますし(笑)。でも社長は“この部分は不動産に生かせるね”といった感じで、武器となるスキルを見つけてくれたんです」

 この一次面接で内定はほぼ確定。意思確認のためクリスマスの日にもう一度会い、正式に入社が決定、2009年1月1日から新天地で働くことが決定した。転職活動開始からわずか1カ月のスピード転職だったが、永島さんにとってはそれでもつらかったようだ。

「待つ時間がつらかったです。応募してから書類審査が終わるまで、面接の日程を決めていただくまでと時間が経つうちにどんどん弱気になっていきました。他の人からは、未経験業種にも関わらずこんなに早く決まったのに何を言ってんだと言われそうですが、根がせっかちなもので(笑)」

 転職活動中に不安になったこともあった。同時並行で応募したいくつかの会社から不採用が届いたときはさすがに落ち込んだ。

「そんなときは『俺を採用しないなんて、この企業は惜しいことをしたな』と自分に言い聞かせていました。不安になったときはとにかく自分を信じ、心の中だけでも強気でいることが時には必要だと思います。もうひとつ、転職活動中の人へのアドバイスとしては、転職活動を始める際に、軸を決めることが重要だと思います。私の場合は志望する業界や具体的な業務内容までははっきりと絞りきれていませんでしたが、『営業職』と『英語』という二つの軸で行くことに決めました。このスタートの時点で軸が決まってないと、途中でブレて、最後はとんでもない場所に行ってしまう危険性が高い。何事も始めが肝心だってよく言うじゃないですか。転職活動もそれと同じですよ」

年収ダウンも気にしない
ただ前だけを見て頑張るのみ
 

 志望していた会社への転職は実現したが、年収は前職から20万円ダウンの480万円。カナダのレストランに勤務していた頃の半分以下にまで落ちこんだ。しかし気分はそれほど落ち込んでいない。

「未経験異業種への転職だから年収ダウンは避けられないと思っていたので、あまり気にしていません。これから頑張って上げていけばいいと思っています」

 そのために入社直後から、不動産業界の知識習得や、宅建の資格取得のための勉強に励んでいる。さらに与えられた仕事だけではなく、やるべきだと思った仕事は先輩や上司に積極的に進言し、自ら行動を起こしている。

「社内の雰囲気もいいし、比較的自由に動けるので今の会社に転職してよかったと思っています。今後は早く業界に慣れ、実績を出すことを目標に頑張りたいです」

 早くも入社2カ月にして、「周囲から認められつつあると思う」と語る永島さん。未経験異業種であっても持ち前の決断力と行動力があれば、カナダ時代の年収に届く日が来るのもそう遠くはないだろう。

通常、未経験の異業界・異業種への転職が可能なのは20代前半までで、30代後半は転職そのものが難しくなる上、キャリアチェンジはさらに困難を極めるといわれています。ではなぜ永島さんの場合は、それが可能になったのでしょうか。取材を通して3つの理由が思い浮かびました。

1つ目は、その都度目の前の仕事に全力で打ち込み、スキルや能力を身につけ、結果を出してきたこと。今回はカナダ在住時代に身につけた英語力と旅行会社時代に培った営業力が武器になりました。

2つ目は、人間力。多くの人は30代後半で全くの畑違いの業界で働くことにはかなりの抵抗感をもつのではないでしょうか。しかし永島さんは、少しの不安も葛藤もなかったようです。その、未経験業種でもなんとかなると思える前向きさや楽観性は、これまでのキャリアで身につけたスキル・能力への自信に裏打ちされたものであるということは言うまでもありません。また、誰にも物怖じせず、自分の思いをはっきりと伝えられるコミュニケーション力もこれまでの経験により獲得した力です。

3つ目はタイミング。企業が人材バンクを通じて応募を開始したとき、ちょうどその求人が永島さんの目に留まりました。応募資格が不動産業界の経験が不問だったことと、ほかに強力なライバルとなる応募者もいなかったこともプラスに作用しました。

そして面接でこれまでの経験で身につけた力は未経験の不動産業界で働く上でも必ず役立つはずだとアピールした結果、応募からわずか2週間で採用となりました。

目の前の仕事に全力で取り組み、あきらめなければ、これほど相性のいい企業に巡り合え、短期間で転職できることもある──。今回の永島さんの転職体験は確かにレアケースかもしれませんが、その中でも学べることはたくさんあると思います。

 

 
プロフィール
photo
※写真はイメージです

旅行ビジネス系専門学校を卒業後、旅行会社に入社。営業職として新規開拓、企画提案などに従事する一方、添乗員としても世界各国を巡る。7年半勤務した後、海外生活と英語習得の夢をかなえるため退社、カナダへ渡航。以後、10年間に渡りホテル、雑貨店、3件のレストラン勤務を経て、2008年帰国。都内の某フレンチレストランに入社するも、働き方に違和感を覚え、転職を決意する。

永島さんの経歴はこちら
 

拘束時間が長く(※1)
前職は毎朝6時に起きて、深夜1時に帰宅するという毎日だったが、仕事自体は激務というわけではなかった。ひまな時間も多かったが、ひまだから疲れないというわけではない。やることがなくただ待っている時間が長いだけでも精神的疲労は大きい。「カナダ時代に勤めていたレストランは“街で一番忙しいレストラン”と呼ばれていたほどで、比較にならないくらい激務でしたが、拘束時間は短く、やりがいもあったので、つらくありませんでした。この点も感じていた違和感のひとつです」

 

長所に積極的に注目(※2)
「社長は、『おいしい料理を作るためには順序立てて作業しなければならないのと同じように、不動産でも順序をよく考えないといい仕事はできない。だから君の能力は未経験の不動産業界でも生かせるはずだ』などと、すべて料理に結び付けつるような感じでポジティブにこれまでの経歴を受け取ってくれました」

 
 

※写真はイメージです

TOP の中の転職研究室 の中の転職する人びと の中の第49回・後編 自分の道は自分で切り開く これまで身につけた力を武器に 37歳でキャリアチェンジに成功