あの本を書いたあの人が教えるキャリアの極意
「こんなはずじゃなかった」にならないための転職者の作法
講師:秋山進氏
自分の力を発揮するための環境作りのステップ
即戦力として期待されているからこそ、「早く成果を挙げなくちゃ」と焦ってしまう転職者たち。でも、その気負いが失敗のもと。転職を成功させるためには、大きく狙うのはNG。小さな成果の積み上げが、まずは何より必要だった。
インディペンデント・コントラクター(IC)とは・・・雇わない、雇われない働き方のこと。複数の企業と契約して、特定の業務遂行を請け負う。
あれもこれも、いっぺんにやろうとすると失敗する
―― 前回、秋山さんは転職後は「焦らずじっくり、段階を踏みながら会社に馴染んでいくことが大切」とおっしゃいました。でも、「段階を踏みながら」って……イマイチ意味がよくわからないんですよねぇ。
転職者が新しい会社に馴染むためにやるべきことは、山のようにあります。でも、あれもこれも、いっぺんにやろうとすると失敗しちゃうんです。どの時期に何をすべきで、また、何をしてはいけないのか。それをきちんと理解し、必要なことをコツコツ実行していくことが、転職成功の秘訣なんですよ。
―― ええーっ! やっていいことと悪いことにタイミングがあるなんて全然知りませんでした。というより知っていたら、私、4回も転職しなかったかも……。秋山さんっ! 教えてくださいっ!
転職先が決まることは、転職成功のための「初めの一歩」を踏み出したに過ぎないんです。社風の違いに直面したり、仕事の進め方がわからなかったり、人間関係に苦労したり……会社は「入ってから」がしんどいんです。入社後、さまざまな過酷な状況を乗り越え、ビジネスパーソンとして会社にきちんと貢献できるようになって初めて、「転職が成功した」といえるんですよ。
―― た、たしかに・・・・・・。実は私、過去に3回転職しているんですけど、転職直後って「即戦力として期待されている」という気負いから、気持ちが空回りしちゃうんですよね。で、出だしでつまずくと、結局最後までその会社に馴染めなかったりして。
まあまあ、落ち着いてください。焦りは失敗のもとです。では、順を追って説明していきましょう。
「ウチに慣れるために一生懸命」な姿勢で
周囲の好感を呼び、将来の布石を打つ
まずは「入社1カ月目」まで。実は、時間に余裕のあるこの時期にこそ、将来の布石をきちんと打っておいてほしいんです。具合的には、社史やグループウエアを熟読して内部に精通する、社内用語をどんどん覚えて積極的に使うなど「アイツはウチの会社に早く馴染もうと一生懸命努力しているな」と周囲に印象づけ、好感を持ってもらうことです。
―― 「早く馴染む努力を見せる」っと。メモしなきゃ。ウチの会社・部署のことを一生懸命知ろうとしている姿勢を見せられると、内部の人間にとっては嬉しいですよね。
さらにこの時期は、なるべく多くの人と会って相手に自分の名前を覚えてもらってください。飲み会などのインフォーマルな場は、社内の人間関係や上司の評判など、転職者が新しい会社で生き抜くために必要な情報を入手するチャンス。特にこの時期は積極的に顔を出してくださいね。
―― なるほど。人間関係を結んでいくってことかぁ。たしかに、ここで躓くと仕事もうまく進まないですもんねぇ。
そうなんです。そしてこの時期、転職者に見つけてほしいのが「メンター」なんですよね。
―― メ、メンター?
支援者のことです。新しい会社では、レポートの書き方やプレゼンのスタイル、稟議の通し方など、その会社なりのルールがあります。でも、社内の人にとってはそれが常識ですから、誰も教えてはくれません。それを教えてくれる存在—仕事ができて社内の信頼も厚く、でもギラギラしていない面倒見の良いメンターを見つけることです。わからないことや初めて行うことは、メンターに聞く。そうすれば転職者にありがちな、独りよがりの失敗を未然に防ぐことができます。
いきなり大きな成果を挙げようと急ぎすぎると
ほぼ間違いなく失敗する!?
続いては「入社3カ月目まで」ですが、おそらく入社して1カ月が過ぎた頃には、少しずつ会社のルールもわかってきて、そろそろ自分で動き出したくなる頃でしょう。「大きな成果を挙げて、みんなをアッといわせてやる」と。
―― 待ってました! ここからが腕の見せ所ですよね? 早く自分の力を社内に知らしめたーい。ウズウズしてきますぅ〜。
いけません。その鼻息の荒さが危険です。なぜなら、この時期に大きな成果を挙げようとすると、ほぼ間違いなく失敗するから。大きな仕事をするにはたくさんの人の助けが必要ですが、入社3カ月目くらいの転職者が何かやろうとしても、社内の人間を巻き込めないから旧知の外部の人間とプロジェクトを進めることしかできず、「何あれ?」と社内の反感を買い、孤立してしまうハメに。
この時期は、大きな成果を挙げようとせず小さな実績をたくさん積み上げることが先決。顧客についてきちんと調べたり、打ち合わせの前に予習をしたり、地道に顧客を新規開拓したりして、周りの人に「今度の人は真面目にやっている」と思ってもらうことが重要です。
―― う〜む、ひたすら受け身に、文句を言わず、与えられた仕事をこなしていく……ストレスが溜まりそうです。
そういうときは、周りの人を「クライアント」だと思うようにしましょう。クライアントは、たいてい無理難題をいうものですよね? でも、お金をくれる人だから納得できなくても相手の要求に応じる。それと同じように、社長、上司、先輩、同僚など、みんなクライアントだと思えば、「ああ、そういう考え方もあるのか」と現実を穏やかに受け止めることができますよ。入社3カ月目までは、まずは配属された部署の「枠」の中でベストを尽くし、「きちんと仕事ができる奴」という評価を得るようにしてください。
さまざまな葛藤に直面することで
会社のルールや文化が身についていく
さあ、次はいよいよ「入社半年まで」です。3カ月を過ぎ、ようやく周囲にも認められ、心身共に調子が乗ってくる頃ですね。この時期は、とにかく自分のポジションを確立すること。いつまでも先輩や同僚と同じように働いていては、会社の期待に応えることができません。わずかでもいいので、自分の得意分野・過去の財産を生かしながら差別化できる部分を打ち出していきましょう。そうすれば、「この件に関しては○○さんだね」と、周囲から一目置かれる存在になります。
―― いよいよ本領発揮ってことか。ああ、腕が鳴るぅ〜。
焦っちゃイケマセンよ! ここまできても、転職者はまだまだ「若葉マーク」。「私はこんな人脈を持っている。こんなことも知っている」といった偉そうな態度は禁物です。この時期に必要なのは、派手な言動や斬新な企画ではありません。自分の個性を少しずつ発揮しながらも、引き続き、小さな実績を積み上げていくことが大切です。仕事が本格的になり始めてくるだけにさまざまな葛藤が生じてくる時期ですが、その1つ1つに対応していく中で、会社のルールや文化を理解していってください。
秋山進氏から学んだ、胸に刻んでおきたい3つのこと
1.早く人間関係を築き、何でも質問できる「メンター」を見つける
2.大きな成果は狙うな!小さな実績をコツコツ積み上げることを最優先に
3.納得いかないことも「相手はクライアント」と思えば穏やかに受け止められる