「いつ私を店長にしていただけるのですか」
上村さんは、しびれを切らしていた。店長とは、仕事の上では昵懇の仲。仕事のことは何でも相談していたし、また時には意見の食い違いでケンカ腰の言い争いをしたことすらある。そんな仲だからホンネの話ができる。そこで、直球で店長に相談することにしたのだった。
「うむ……。もうしばらく、もう少しだけ待ってみてくれ。次はキミだということは、上の者も考えているはずだ。ただ、今は業績が悪い。それだけなんだ」
上村さんが予想していた通り、店長の答えは歯切れが悪かった。
大手食品スーパーの精肉部門の主任を務めていた上村さんは、会社の経営が危ないことを心配していた。親企業の業務悪化のあおりをモロに受け、月に1店舗の割合で閉鎖が始まっていたのだ。それまで店長だった人たちが、こぞって残った店の主任として下ってきた。2005年の暮れも押し迫る頃のことだった。
自分に能力が足りないために昇進できないのなら、評価が得られるまで努力もしよう。だが、今はそうではない。それなりの実績も出しているし、実力も認めてくれているではないか。それなのに先に進めないというこの場所にいつまでも居残ってよいとはとうてい思えなかった。
「だから明確な答えがほしいんです。よいならよい、ダメならダメ。それだけ答えていただきたいのです」
キッパリと訴える上村さんに返ってきた回答は、「後3カ月ほど待ってくれないか」というものだった。会議にはかけているんだ。結論がまだなんだよ……。似たような答えはすでに何度も聞いている。もう決断するほかはなかった。上村さんその晩、退職願を書くことにした。次の就職先が決まっているわけではない。しかし、この道が行き止まりだと知ったのなら、ここにいる意味がない。
「キミは、もともと実力や能力があれば、どんどんステップアップできるという社風が気に入ってウチに来たんだったなあ……」
店長は、上村さんの肩に手を置いて、最後にそうつぶやくように言った。 |