「話が違うって思ったし、そもそもクライアントに電話するのがつらくて。だって、採用状況の良いクライアントばかりじゃないわけですよ。クライアントが入力したキャッチを見て、『こういう言葉の方が、アピールするかもしれませんよ』などと提案することもありましたが、当然、それがすぐに効果につながるわけじゃない。無力感でいっぱいでしたね」
入社前に思い描いていた「正社員として働く」イメージは、忙しいながらも仕事にやりがいを持ち、イキイキとしている姿だった。それなのに実際は、そのイメージからほど遠いばかりか、やりがいも感じられない。
こんなはずじゃなかったのに……。このままだと何も身に付かない——。
チラチラと、鈴木さんの頭の中に、またしても「転職」の2文字が浮かんでは消え始めた。その反面、「まだ入社したばかりだし、もう少し頑張らないと」と、自分の気持ちを抑えていた鈴木さんの背中を、思いっきり押すような出来事が起こった。入社して3カ月後のことだった。
「4半期ごとに、全体会議が開かれるんですが、ここで全社員を前にして社長が、今期の赤字額、未入金額、借入金額などがそれぞれいくらだったかを発表するんです(※4)。そしてこれを回復するためには、来期はこれだけ売り上げが必要だ、売り上げが足りなければ借金することになり、社員のボーナスは出ない!
と赤裸々に言って、ハッパをかけるわけです。会社って、普通こういうものなの? 私は初めて社員になったから知らないだけなの? って、すごくびっくりして戸惑いましたよ」
全体会議のおかげで、会社の経営状態が良くないらしいことがわかり、「ここにいたらヤバいかも」という危機感が、転職への思いに拍車をかけた。
転職活動を始めて意外だったのは、たった3カ月でも「正社員」として働いたことが、「実績」とみなされることだった。つい4カ月前までは、あれだけ望んでも書類選考にさえ通らなかったのに、この「実績」のおかげで、いくつかの会社で面接にまで進んだのだ。
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