退職後、自宅療養に入っても、岡崎さんの体調はなかなか元に戻らなかった。
慢性的な倦怠感、微熱、食欲もない、電車に乗れない、人の多いところに行くと息が詰まるから外出もできない、お風呂に入るのや化粧をするのも面倒に思うくらいの無気力、起きている時間より寝ている時間の方が多い──。
こんな状態が1年半も続いた。生きているのか死んでいるのか分からないような毎日。そんな生活は精神にも悪影響を及ぼした。心療内科の医師は岡崎さんをうつ病と診断した。
「このまま死ぬこともあるかもしれないと思っていました。このまま完治せず、苦しみ続ける人生は嫌だなと……。母に『私が先に死んだらごめんね』と言ったこともあります」
しかし、1年半が経ったころ、徐々に食欲が復活。体重も戻り、精神状態も前向きになってきた。
「理由は自分でもよく分からないのですが、心身ともに限界まで行くと、その反動で体が急に元気になろうとするんじゃないですかね(笑)」
回復の兆しはあったが、やはりいきなり正社員はまだ怖かったので、まずアルバイトを4カ月経験。働きながら体調回復の手ごたえをつかんだ。その後、本格的に仕事に復帰できる自信になると思いひとりで1カ月の海外旅行へ。帰国したのちはほぼ普通の生活に戻ることができた。
帰国後、本格的に仕事に復帰したいと思った岡崎さんは、東京都立技術専門学校(※1)に通い始めた。コースは貿易実務科。高校、大学時代に身に付けた語学を使って、人と接する仕事がしたいと思ったからだ。
勉強はおもしろく、瞬く間に半年が経ってしまったが、就職活動に関してはやる気が起きなかった。
「勉強したことを生かしたいとは思っていましたが、自分が本当にどういう業界に行きたいのか、どういう仕事がしたいのか、分からなかったからです」
そんなとき、同じクラスで授業を受けていた同じ高校出身の先輩に、「こんな会社、いいんじゃない?」と、食品を扱う小さな商社の求人広告を見せられた。募集職種は貿易事務だった。
ほかに行きたい会社もなかったので早速応募。とんとん拍子で採用が決まった。岡崎さんは26歳になっていた。
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