サラリーマン時代、アルバイトの女性から突然「私、もっと仕事したいんです」と真顔で言われたことがありました。でも、彼女は仕事よりもファッションや週末のデートに興味があるように見えたし、実際に毎日定時に上がる人でした。そんな彼女を変えたのは「失恋」。結婚しようと思っていた彼と別れ、将来のことを改めてじっくり考えた結果、もっと自立しようと思い立ったのだそうです。

天職を見つけ、活躍している女性にそのきっかけを聞くと、意外にもネガティブな経験を挙げる方は少なくありません。今回のブログに登場する女性弁護士もそうですが、離婚や病気、金銭トラブルなど、一見チャンスとは正反対に見える出来事で窮地に追い込まれたことが、自分の人生とあらためて真剣に向き合う機会となるようです。また、人間切羽詰まったときの方が力が出るもの。底力ってやつですね。ごちゃごちゃと考える余裕もないので、えいやっ！と一歩を踏み出せることも理由のひとつなのでしょう。

今でもとても記憶に残っているのが、元部下だったY美。ある年の年末、友人が運転する車の助手席で事故に巻き込まれ、大けがをしてしまいました。 連絡をもらって慌てて病院へと行きましたが、ベッドに寝ているY美を見て、事態が軽くないことを知りました。腰と足を複雑骨折しており、まったく身体を動かすことができないのです。顔に怪我がなかったことが不幸中の幸いでした。

しかし、これをきっかけに彼女は運命の仕事を手に入れるのです。

「寝たきり」という状況がもたらしたのは自分と向き合う時間。仕事のこと、結婚のこと、これからの人生のことなど、これまで見て見ぬふりをしていたことに目を向け始めました。

実はY美には結婚を決めていた男性がいたんです。でも、彼との結婚について「もう年だし」「親も気に入ってるし」など、結婚する理由ばかり探していた自分がいました。また、料理が大好きで、美味しいものを食べると、自分流にアレンジしたり、意外な食材のマッチングを考えているときが一番ワクワクする時間なのに、「好きなことと仕事は別」なんて決めつけていた自分にも気づきました。

事故に遭ったおかげで、命が有限であることを意識するようになったY美。退院し、まずは婚約を解消し、会社も辞めました。そして、なんのコネもないまま、尊敬するシェフのもとに押しかけ、アルバイトでなんとか採用を取り付けます。そこでフロアマネージャーまで経験した後、独立。現在は、フリーのフードコーディネーターとして才能を開花させています。

人間とは鈍感なもの。だからこそ、神様は次のステップへと上がるタイミングが来たときに、あえて痛みの伴う出来事で気づかせてくれているのかもしれません。

そして、思い立ったときが適齢期。チャンスには年齢制限はありませんから。