医療コーディネーターとして患者さんと関わるのはさまざまなケースがあります。平均すると実際に会うのは平均1.5回くらいなんですが、中には最期までお付き合いさせていただくケースもあります。肺がんの男性の患者さんで、奥様と2人で暮らしていたAさんもその内のひとりでした。
Aさんは、がんセンターのような大きな病院で治療をされていて、担当の医師から「ここまでがスタンダードの治療です、それに対して効果が出なかったのでこれ以上治療法はありません」と言われたんですね。その医師の言葉に、「私は治療を続けていきたい、絶対あきらめない」と。「医者はあきらめないという患者の気持ちをサポートするべきなのに、医者があきらめてどうするんだ」と夫婦2人で怒ってました。そのがんセンターで治療をしてくれないのだったら、他でやってくれる所を探してほしいという依頼だったんです。
それで、Aさんのご自宅にうかがって、3人で話し合いました。Aさん夫妻は、治療を続けることだけが自分にとって病気と戦うということだと思っていました。しかし私は、「人は誰でも必ず死ぬんですから、死に対して抗うことだけが戦うということではないですよね」という話をしたら、「それはもちろん分かっているし、この病気で自分は死ぬんじゃないかと思ってる。ただ、病気に負けたくない」と言ったんです。
そこで「でも、病気の治療をすることが負けないということではない。治療は体に大きな負担をかけるから、ある時点から、負けないためには体に負担をかけないという方法もある。医師から言われたあなたの状況では、その負担をかけないということも、選択肢の中にある。だから医師はホスピスに行くという選択肢もあると言ったわけで、医師はあきらめたわけでもあなたを見捨てたわけでもないんですよ」と言ったんです。
そして「今、治療しないことが負けることじゃないということが納得できるのであれば、本当は何がしたいですか? 治療がしたいのかそうではないのか?」ということを聞いたら、「本当は家に帰りたい」とおっしゃったんですね。家で好きなことをしたいと。「ただ、ホスピスのような所は、何もすることがないから嫌だ」と。 |