自分の時間を捻出して本を読みまくる生活は、3年以上続いた。読むべき本が見当たらなくなった頃、ぼんやりと自分の軸が見えてきたのだった。
株と聞いたとたんに「うちはじーちゃんの遺言で株はやるなと言われている」など拒否反応を示す人は少なくない。「株は危ない。やると大損すると日本人は洗脳されてきた歴史があるようで」。個人投資家と毎日接する中で、幅広く蓄えた知識が活きるようになってきたのと同時に、株についての正しい知識を多くの人に知ってほしいとの思いが、自分の中に芽生え始めた。
94年に初めて買ったパソコンでniftyの株フォーラムに参加した。「る〜さ〜!です。証券会社の営業マンです」。そう書き込んだだけで非難轟々、叩かれた。証券会社の営業マンに損をさせられた個人投資家たちの格好の餌食になったのだ。しかし、る〜さ〜!には武器があった。株についての正しい知識という武器だ。株に関する誤解を一つ一つ紐解いていくうちに、「こいつはただの証券営業マンじゃない」と次第に受け入れられていく。気づくとNo.1、2を争う量を書き込んでいた。
96年2月に「株式投資の地位向上」「株式投資成果の向上」を目指す『かぶこーネット』を開設。5人ほどの有志で始めた個人サイトだ。97、98年ごろは株のホームページとしてはダントツの人気を博した。そこでもやはり、株についての正しい知識をひたすら伝道し続ける。
当時は大阪在住。『かぶこーネット』人脈に誘われて「いっちょ、東京に出てみるか」と思い立ち、9年勤めた証券会社を退職した。
しかし、3カ月で会社が合わずに退職してしまったのだ。晴れて失業した最初の1カ月は好きなことして過ごしたが、さすがに2カ月目になるとやることがなくなった。辛かった。
30歳過ぎて、妻持ち、家なし、無職。そこで人生、考えた。ホントにやりたいことって何だろう。「『かぶこー』が自分の天職なのかもしれない」。株についての正しい知識の伝道師としてなら、誰にも負けない自信があった。転職に失敗して、天職を得た。
そのわずか1年後、『かぶこーネット』で知り合った齋藤正勝氏とともに、「日本で一番便利なオンライン証券」を標榜する日本オンライン証券(現カブドットコム証券)を立ち上げた。オンライン証券業界が淘汰期を迎えた今も、「損しないこと」を重要視し、「お客さんのため」をしっかり真ん中に持つ姿勢を貫き、個人投資家からの高い支持を得ている。
やっぱりスゴイ人ではないですか——。
「僕はすごい天才なわけでもないし、すごいセンスがあるわけでもない。本当にフツーの人間なんです。株の本を読み、niftyのフォーラムで書き込みをし始めた頃からずっと、同じことを言い続け、やり続けているだけですよ」
その同じことをやり続けること——顧客と同じ目線に立って自分の仕事軸をひたすら突き詰め、究めていったことが大資本にも立ち向かえる最強の武器となった。
「自分の仕事軸が、おぼろげながら見えてくるのに4、5年掛かる。10年経って初めて、これに関してだったら誰にも負けないといえるものが出来てくる。そうなってやっと、何か使えるものになっている。ひたすらコツコツ究めれば、そこにニーズは必ずあるんです。みんなが営業でNO1になれるわけじゃない。ほどほどに仕事を頑張っている人がほとんどでしょう。で、そのほどほどの頑張りの中で、どう成長していけるかが、鍵なんです。ほどほどのまま流されてしまったら、そこで終わっちゃいますけどね」
9年の営業生活は、なくてはならない自分の背骨だ。「まだまだ未熟な自分」を転機として、お客さんのためにできることをコツコツ突き詰めていった一人のフツーの営業マンの体験が、世に新たな価値を生み出した。 |
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「カブドットコム証券」
http://kabu.com/
「普通の個人が株の取引を普通にできるようになるためには、業界の悪い慣習を変えていかなくてはならない」という臼田氏。「損をしないこと」を重要視するスタイルが「儲かること」に繋がるというコンセプトで、「投資家にとって一番便利」を追求し続けているオンライン証券
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「株の世界の歩きかた」
(臼田琢美著/日本経済新聞社)「戦後50年、一番おいしい時期に株をやらずに来てしまった日本人。普通の個人も株をやっていればもっと豊かになっていたはずなのに」ということに気づいてから、株についての正しい知識を伝え続けている臼田さんの渾身の一冊。
「株の自動売買でラクラク儲ける方法」
(ザイ編集部著/ダイヤモンド社)オンライントレードの基本から上級ワザまでカブドットコム証券のサービスを、上手に利用するための実践ノウハウ満載。 |
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正直、いつから「お客様のため」を真ん中にもって働けるようになったのかはわからない。それでもたくさんの個人投資家と会い、まだまだ未熟な自分に何ができるかと考えたことが大きな転機となった |
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営業の踏み絵
出題:臼田氏
1分しか書くことができないボールペンがあったとします。お客さんを騙すことなく売ることができますか?
きっとそんなもの、正直に話したら売れないでしょう。しかし、お客さんを騙すことなくどうやって売るかを必死で考え続けること。この姿勢がものすごく大切なのです。 |
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