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一年間に転職する人の数、300万人以上。
その一つひとつにドラマがある。
なぜ彼らは転職を決意したのか。そこに生じた心の葛藤は。
どう決断し、どう動いたのか。
そして彼らにとって「働く」とは—。
スーパーマンではなく、我々の隣にいるような普通の人に話を聞いた。
第39回 (後編) 川瀬忠司さん(仮名)40歳/販売
高い技術・プロ意識と コンサルタントの情熱で 理想の転職を実現

20代でワインアドバイザーなど酒類に関する資格を取得した川瀬忠司(仮名)さん。実家の酒店を15年間切り盛りするも、大型ディスカウント店が近所に進出してきた影響で、閉店することに。そこで新たに活路を見出したのが、ブライダル会社のマネージャー職。酒類の知識と経験を活かせると期待したものの、実際はホスピタル精神のかけらも見当たらない、ただ「数」をこなすだけをよしとするような職場だった。こんな職場では誇りをもって働けない──。川瀬さんは40歳という年齢に不安を感じつつも、転職活動をスタートした。

登録4か月にして
1通のスカウトメールが
 

 【人材バンクネット】に登録して、4か月ほど過ぎたころ、川瀬さんのパソコンに1通のスカウトメールが届いた。送信元は、エンジェルアソシエイツ株式会社という人材バンクの正田興コンサルタントから送られたものだった。

「最初は、スカウトメールというもの自体のことをよく知らず、私という人材に興味があるので、一度会ってみたいというそのメールの内容も、へえ、そういうものもあるのか、という感じで受け止めた程度でした。また、ちょうど運悪く、そのメールをいただいた直後にパソコンが故障してしまい、返信を送ることができなくなってしまいました。せっかくいただいたメールなのに失礼かなとは思ったのですが、まさか職場からメールを送るわけにもいかず、結局修理から直って帰ってくるまで、メールはそのままにしてしまったのです」

 その間約2週間。戻ってきたパソコンを開いてみると、正田コンサルタントからのメールがいくつか来ている。いずれも、ほぼ同様の内容。興味があればぜひ連絡を、というものだった。これはさすがに失礼だったと、すぐに電話を入れてみた。

「すると、東京を拠点にした酒類の業者向けの卸売りをやっている外資系企業の採用担当者がぜひ私と会ってみたいと言っているので、とにかく1度お話をしてみませんかと熱心に誘っていただきました。私のワインやカクテルの知識を認めていただき、マネージメント経験も期待されてのお誘いだったので、興味をもちました」

 しかし、その申し出を受けたのは11月末。例年、結婚式場はどこも忙しい時期で、仙台から東京へ簡単には行けない時期だった。調整には時間を要する旨を伝えたが、企業は都合のいい日まで待つので、なるべく早めに調整してもらいたいと答えた。

熱意に押され元日に面接
 

 12月になると、いよいよ仕事が忙しくなり、特に現場を任されているマネージャーとしては、自分の思い通りに仕事を抜け出すことができない。その旨を正田コンサルタントに説明すると、最悪の場合、1月1日でもいいので、会ってみてはどうかという連絡を受けた。

「そこまでして自分に興味を持っていただいていることに、逆に驚きました。一刻も早くとは思ったのですが、結局は、12月29日の仕事納めを終えた翌日、やっと東京へ向かうことができました」

 当日は、正田コンサルタントと駅で待ち合わせ、共に面接に向かった。正田コンサルタントと直接会ったのは、このときが初めてだった。しかし、これまでにさまざまな情報交換はメールと電話で交わしていた。

「アドバイスもいろいろと受けましたが、印象的なものとしては、『ヘタな小細工はせずに、そのままの川瀬さんを出せれば大丈夫』というものでした。私の経歴や経験、メールや電話での印象で、先方の会社が求める人材と、私のイメージがマッチしていたのだそうです。コンタクトの回数はそう多くはありませんでしたが、見抜く部分は見抜いていると思いました」

 面接官として登場したのは、人事部長と商品企画部長、それに直属の上司となる店長の3人だった。

「面接でお話をうかがったところ、資格を持っていることなどから、私のお酒に関する専門知識を高く評価していただいているようで、その上で、今後アシスタントマネージャーやマネージャーとしての仕事もこなしていってほしいという話をされました。私にとっては、その2つはいずれも経験があり、自信もあります。新規開拓の部署なので、上に行くポジション(※1)も空いているという話でした」

面接の最後に敢えて強気の質問
 

 面接は最終的に3回行い、その後に採用を決定するということだった。第1回目の面接は順調に進み、ある程度の手ごたえを感じていた。そんな中、川瀬さんは、先方の機嫌を損ねるかもしれない質問をしなければならなかった。面接は、通常であれば30分程度で終わるところ、川瀬さんの場合、すでに1時間半ほど話しこんでいる。ここで思い切って聞いてみることにした。

「仙台から今後も何度か足を運ぶのは難しいと思ったので、もし、興味を頂いているなら、この1回の面接で採用をお願いしたいと申し上げました。すると、先方も少々驚かれたようですが、納得していただきました。それと、もう一つ。私は、今、ワインの会を開催しており(※2)、それは酒のプロとして腕を磨く場として欠かせないことだと申し上げ、これを続けることを会社としても了承いただきたいと申し上げました。これも、業務との調整も任せるので、問題ないように運んでくれればそれでよいと言っていただきました」

 この、応募する側からすれば一見傲慢かもしれない質問を敢えてしてみたのは、いわば自分という人間をプロとして信頼してくれているかを試すものだった。それに会社が応えてくれるなら、自分も全力を持って会社に貢献する意欲が持てる。お互いに最高の関係が作れると考えたからだった。

プロ対プロの真剣なやり取りが
会社の信頼を高める
 

 面接の結果が出るのは思いのほか早かった。礼を言って去り、その足で仙台に戻ったところで、時間を計ったように人事部長から電話が入った。内定の報せだった。

この対応の早さに驚き(※3)、なぜそこまで私を買ってくれるのか、返って心配にすらなりました。ふたを開けてみたら、言っていたことと違うのではないか、何か裏があるのではないかと考えてしいました」

 しかし、その心配は杞憂だった。実際に仕事についてみてわかったのだが、社内にはパートやアルバイトが多く、酒類の専門知識に乏しい人ばかりで、お客の対応が十分に行きわたっていなかった。川瀬さんのような酒のプロフェッショナルを一刻も早く望んでいたのは、そうした理由があったようだ。

「買いに来ていただいているお客様は皆プロの方ですから、生半可な対応ではだめです。通り一遍の商品説明だけでなく、その商品の扱い方から、料理との組み合わせ、旬の時期、価格の見通しといった、あらゆる質問に的確に答えなければなりません。もちろん、私にとっては、それこそ腕の見せ所。時には、そこまで教えてくれちゃ、店の売り上げに影響しちゃうんじゃないの、とお客様に言われるような内緒の情報まで話しています。しかし、そうしたちょっとしたサービスの上乗せは、相手をプロとして敬意を持って接しているから出てしまうことで、そのプロとプロとのやり取りは、いずれ、店への信頼、会社への信頼として返ってくると信じています」

 まさに水を得た魚。入社研修終了後、わずか1カ月で、店の顔として早くもお客の信頼を得るまでになった。営業時間は常にインカムをつけ、手には携帯を握り、店を忙しく歩き回っている。もちろん、大勢の部下を気持ちよく働かせるために気を配っている。

「若い人、お酒や販売の経験が浅い人、パートやアルバイトといろいろな人が集まっている職場なので、現場にいることの少ない上司ではわからないこともたくさんあります。前の職場でも、上と下とのパイプ役を自然にやってきましたから、今の職場でもやっていこうと思っています」

 専門知識と技能は、必要なところで発揮されてこそ、その価値が光り出す。それはよいブドウとよい職人とよい醸造場所がそろって初めてよいワインができるのに似ている。何かが欠けても、よいワインにはならないのだ。もともと優れた能力と専門知識を持っていた川瀬さんの場合、よい醸造場所を得て、急速にその価値を高めているようだ。

「お酒を愛しているという気持ちがあったのがよかったのでしょう。過度に焦りもせず、と言って立ち止まっていたわけでもない。そういう転職活動ができたのは、自分もお酒を愛していますし、世の中の多くの人もやはりお酒を愛しているのを知っているから。自分が働くのにふさわしい場所はどこかに必ずあるはずだと信じていたので、多少時間はかかりましたが、それが実現できたのだと思います」

コンサルタントより
エンジェルアソシエイツ株式会社
正田 興氏
コンサルタント
  タイミングの見極めが重要
   資格は大きな武器になります
 
 

酒類のプロを募集する企業からの案件は、そう多く出て来るものではありません。また、その資格や経験を持っている求職者の方も、普段はそう多くはいません。川瀬さんは、私がスカウトメールを送るずいぶん前から転職を希望されていたようですが、そうした案件がなかなか出てこないことから、すぐにお声をかけることはできなかったのです。

しかし、たまたま求人があった企業の案件は、まさに川瀬さんのイメージにピッタリでした。川瀬さんとお電話でお話してみると、ご本人の希望も、会社が求める人材と一致すると確信ができました。そこで、これはぜひ成立させたいと思い、熱心に働きかけ、面接の調整をしました。実際、企業の方も、川瀬さんも、会って話をしたなかで、お互い求めているものが一致しているという実感をつかんだようです。話はすぐにまとまりました。

特殊な技能をお持ちの方は、それを仕事に活かすのがよいと思います。川瀬さんのように年齢などのハンディキャップを乗り越えた強い武器になります。しかし、技術をお持ちであるにもかかわらず早く妥協して目先の求人に飛びつく人、あるいは、もっとよい職場があるのではないかと、いつまでも決心を先送りにする人がいらっしゃいます。いずれも失敗する危険性があります。

要するにタイミングなのです。その見極めが難しいことなのです。そのために、我々コンサルタントをどんどん活用してほしいと思います。我々は企業と求職者の両方の立場で判断することができますので、両者の間に入って、ある程度の見極めができます。それだけより的確なアドバイスができると思います。資格や特殊技能という宝を大切にしながら、「これぞ」という瞬間をしっかり見定めてほしいものです。

 
プロフィール
photo

東京都在住の40歳。仙台の酒店の息子として生まれる。20代でワインアドバイザーなどの資格を取得、酒類を販売する会社に2年ほど勤め、その後実家の酒店を継ぐ。順調に業績を伸ばしていくものの、引き継いで15年後、近所に大型のディスカウント店が開店したことにより売上が激減、小売店に見切りをつけ、ブライダル会社の披露宴の企画マネージャーに転身。ワインの知識を駆使して、酒のプロとしての活躍を目指したが、その職場は、ただ「適当に数をこなすこと」だけを考えるだけで、仕事に充実感がなかった。そこで、自分の力を生かすことができる職場を求め、転職を考えた。

川瀬さんの経歴はこちら
 

上に行くポジション(※1)
さらに上級を目指すなら、英語を学んでもらいたいというのが先方の意向だった。もちろん、外資系企業でそれは不可欠のことだろう。川瀬さんにとっても、むろん異論はなかった。もともと自ら海外のワイナリーにはたびたび訪れており、外国語の必要性は感じていたのだった。

 

ワインの会を自分で開催しており(※2)
川瀬さんは、ワインの会を主催しており、国内はもちろん、海外にまで足を延ばして、市場の研究調査を進めている。メンバーの業種はバラバラだが、いずれもプロを中心とするワインの愛好家。今の仕事とも相乗的に影響し合えるものであり、さらに深く、さらに広くお酒の世界を極めて行きたいと意欲を燃やしている、いわば川瀬さんのライフワークでもあるという。

 

この対応の早さに驚き(※3)
内定が決まると同時に、すぐにでも入社してほしいという連絡がしばしば入ったが、川瀬さんは、2カ月ほどは、前職を辞めることができなかった。というのは、マネージャーとして多くの部下を使う立場にあって、彼らを困らすような去り方ができなかったためだ。自分がいなくなっても困らないよう丁寧に部下に教え、安心して任せられるまでは、勤務の時間内外で指導したりしていたのだった。「面接の段階から、入社時期に至るまで、今の会社にはわがままばかりをいわせていただきました。その恩義に報いるためにも、今は自分にできることを精一杯やっています」

 
取材を終えて

資格というのは、もちろん就職・転職の強い武器になります。川瀬さんの持つワインインストラクターなどの資格も、高度な技能を証明するもの。ある意味では100の言葉を並べるよりもずっと説得力を持つでしょう。しかし、高度な技能を持っていたとしても、その人材の需要が業界内で足りている場合は、結局仕事を見つけるのは難しくなります。その職場に一人専門家がいれば、二人目を雇うことはなかなかないからです。

ですから、専門資格を持っている方は、チャンスとタイミングが重要になるのだと思います。その職場に専門家が一人もいない場合は、のどから手が出るほどほしい。高給を払ってでもほしい。しかし、その一人を確保してしまったら、いくら安くて構わないといわれても雇うことはないというわけです。

川瀬さんの、いい仕事があればやるし、そうでなければしばらくこのままでも、という、腰を据えた、ある意味悠長な仕事探しのスタイルは、そうした高い技能を持つ専門職には適していると思いました。時間をかけてじっくり探していれば、いつかは欠員が出て、最適な仕事に出会えるという好例だったと思います。

ただし、それには、情報のキャッチだけはしっかりやっておかなければなりません。常にアンテナは張り巡らせておく必要があります。普段仕事に追われ、なかなか求人情報を見ることができないという人は、やはり人材バンクへ登録するのが有効でしょう。川瀬さんの【人材バンクネット】へ登録してからスカウトメールが来るまでの4カ月間は、ワインが醸造するまでの「寝かし」の期間のように、無駄な時間ではなかったのだと思います。こうしたシステムがなかった昔に比べれば、ずいぶん仕事探しもやりやすくなっているなあとつくづく感じたインタビューでした。

 

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