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一年間に転職する人の数、300万人以上。
その一つひとつにドラマがある。
なぜ彼らは転職を決意したのか。そこに生じた心の葛藤は。
どう決断し、どう動いたのか。
そして彼らにとって「働く」とは—。
スーパーマンではなく、我々の隣にいるような普通の人に話を聞いた。
第48回(後編) 井上理沙さん(仮名)33歳/DTPオペレーター
コンサルタントのカウンセリングで 転職の希望条件を見直し 無理なく長く働ける職場へ

人材派遣会社の営業担当となった井上理沙さん(仮名/33歳)は、昼夜を問わずかかってくる電話に悩まされていた。このまま、派遣スタッフやクライアント企業に気を遣って働き続けることは無理と判断。どうせ辞めるなら早いほうがいいと考え、わずか半年で4度目の転職へと動き出した。

カウンセリングで気がついた
「自分が本当に希望していること」
 

 4月に入社したばかりの人材派遣会社に退職の意思を伝えたのは8月だった。
「まだ仕事に慣れてないからそう思うんじゃないの?」
「他の会社に行っても、ウチと同じくらいの給料をくれるところなんてないよ」
上司はいろいろなことを言って引き止めようとしたが、井上さんの心が揺らぐことはなかった。たとえ高収入を得たとしても、無休では何の意味もないとわかったからだ。
10月、同僚たちに笑顔で見送られ(※1)、井上さんは職場を去った。

【人材バンクネット】の存在は以前から知っており、会社を辞める前に登録は済ませていた。すぐにスカウトメールが2通届いたが、そのときはまだ心の準備ができていなかったので、とりあえず株式会社 コベルコパーソネルに登録(※2)しただけにとどまった。
その後、電話のやりとりが数回あり、井上さんが田中コンサルタントとの面談に臨んだのは退職してからだった。

 このとき、井上さんは転職先の希望として、次のようなことを考えていた。
ある程度の収入を確保したいので、職種は内勤営業、年収は350万円。通勤時間は片道1時間半以内。大企業はNG。和気あいあい型の中小企業で業種は人材サービス以外。もちろん、正社員であること——。

 この希望を田中コンサルタントに伝えると、痛いところを突かれた。
「33歳という年齢にしては、営業経験が少ないというのが率直なところです。営業成績など、これまでの経験でアピールできる実績はありますか?」

 営業成績、と聞いて井上さんは答えにつまってしまった。
これまでの営業経験で数字に追われるようなことはなかったからだ。前職の人材派遣会社にしても、目の前の仕事をこなすのが精いっぱい。アピールできる実績などなかった。もちろん、自分でも希望条件を叶えることは厳しいだろうと予想はしていたのだけれど……。

「井上さんが何を希望しているのか、もう一度考えてみましょう」
田中コンサルタントと話をしていくうちに今まで気づかなかったこと、意識してなかったことがわかってきた。それは、印刷会社時代の経験から製作作業に興味があり、できるだけ長く働きたいと思っていることだ。

「営業は体力的にハード。長く働きたいという希望があるのなら難しいのでは? と指摘され、確かにそうかも……と納得しました。田中さんが口先だけで適当に言っているのではなく、私のキャリアを考えた上でアドバイスしてくださっているのがわかったので、カウンセリングを受けてからは、営業にこだわらずに仕事を探してみることを決めました」

 その後、田中コンサルタントが紹介してくれたのは、大手企業の子会社にあたる印刷関連会社でのDTPオペレーターの仕事だ。

「コンサルタントから『今現在、人材を募集しているわけではないのですが、もし興味があるならご紹介します』と言われ、逆に安心感を得ました。私の希望に合わせて、きちんとマッチングしてくださるんだと、信頼できましたね。もちろん、応募を決めました」

なごやかに進んだ面接で
心に残った忘年会の話
 

 面接官は社長と部長の2人。田中コンサルタントも同席してくれた。
実務の話はほとんどなく、会社の紹介や雇用形態の説明のほかは雑談といっていいくらいの内容で、なごやかに話が進んだ(※3)

 そんな中、井上さんが注目していたのは社長の人柄である。
「業務内容や業績など、会社のことを調べるのも大切ですが、中小企業は経営者がどんな人かを知ることが最も大切。社長の人柄が会社の雰囲気を決めるからです。従業員に対する考え方や仕事に対する姿勢は、質問への答え方や言葉の選び方を見ればだいたいわかる。これは私が人材派遣会社の営業でたくさんの経営者とお会いする中で学んだことですけどね」

 井上さんが「この会社は雰囲気が良さそうだな」という感触を得たのは、ある質問がきっかけだった。オフィスが2カ所に分かれているので、双方のコミュニケーションはどのように取っているのか(※4)を質問した。日常のやり取りから社内行事の有無にまで話が及んだとき、社長が忘年会の様子を語ってくれた。社員との会話やその場の様子を楽しそうに話す社長の姿を見て、風通しの良い職場が目に浮かんだ。

「この会社だ! というほどの期待感はありませんでしたが、まあ安心していいかな? と思えるくらいの手ごたえは感じました。私自身、見栄を張ることなく自然体で臨めたので充実した面接だったと思います」

 翌日、コンサルタントを通じて内定の知らせが届いた。井上さんは安堵したが、その場で入社の意思を告げることはできなかった。一つだけ、気になることがあったからだ。

「無理したら続かないぞ」
心に響いた父の言葉
 

 仕事内容も会社の雰囲気も申し分ない。しかし、たった一つだけ、井上さんが引っかかっていたのは年収だった。先方の提示額は300万円。井上さんの希望額350万円とは開きがあり、一人暮らしの生活を維持していくには少し心配だった。

「ねぇ、どうしたらいいと思う?」
一人で考えていても答えが出ないので、井上さんは実家の両親に相談を持ちかけた。娘の話をじっと聞いていた父親が口を開いた。
「たとえ給料が多くても、無理をしたら仕事は続かないぞ。前の職場がいい例じゃないか。いざとなればこの家に戻ってくればいい。これからはゆっくりと働いたらどうだ?」

 確かにその通りだ、と思った。
人材派遣会社を辞めたとき、両親からも友達からも「辞めグセがついてるんじゃないか?」と言われた。自分でもそう思えたが、それは無理をしていたせいだと気がついた。

「自分の希望が100%叶う会社なんてない。一歩譲歩するのも二歩譲歩するのも、たいして変わらないはず。だいたい、この内定をスルーして次のチャンスがいつ訪れるというのか? そう思ったらすんなりと心が決まりました」

 コンサルタントに返事をするため電話をかけると、うれしいニュースが飛び込んできた。なんと、会社側が「年収320万円まで出す」と言ってくれているという。コンサルタントが水面下で交渉してくれていたのだ。

「ありがとうございます。お世話になりました」
電話を切ったとき、井上さんは新しい仕事への意欲が湧いてきたのを感じた。

久々に感じる仕事のやりがい
プライベートも充実
 

 2008年11月、晴れて入社。会社ではパンフレット、伝票、パネルなど、グループ会社が使用する印刷物の製作を一手に引き受けている。井上さんは他のDTPオペレーターに仕事を教えてもらいながら、製作に励んでいる。

「今までの仕事はやらなければならないことに忙殺されていたけれど、今は製作に集中できる環境なので、一つのことを追求する楽しみがあります。わからないことは自分で調べる時間があるし、同僚に相談もできる。久しぶりに仕事のやりがいを感じています。将来はWebデザインにも携わってみたいという目標もできました」

 仕事は月曜から金曜まで。17:30には仕事が終わり、残業もなくしっかり休日がとれる。時間の余裕ができて、私生活も大きく変化したという。まず、イライラすることが減り、ストレスが原因のアトピー性皮膚炎も消えた。

「友達に教えてもらった料理を作ったり、家でくつろいだりしていると、あの忙しかった日々が嘘のよう。私は決してキャリアウーマンを目指してきたわけではないので、今みたいな普通っぽい生活がしたかったんだな、ってつくづく思いました。これからは習い事をしたり、趣味の野球観戦を楽しんだりしてプライベートも充実させたいですね」

 井上さんの表情に、女性らしい華やかな微笑みが浮かんだ。

 

井上さんはまさに「クールビューティー」という表現がぴったりの素敵な女性です。

仕事への責任感が強く、与えられた仕事をきちんとこなす意欲、そして実力を兼ね備えていることがお話をしていてよくわかりました。実際、思いがけずお父様の会社で仕事をすることになったときも、しっかりと結果を残しています。どんな仕事でもやってできないことはないという自信と順応性がありながら、人材派遣会社での仕事内容の見極めが甘くなってしまったのは「早く転職先を決めたい」という焦りがあったからだと思います。

一人暮らしのため、できるだけ高い収入を確保したいという気持ちは強かったものの、コンサルタントのアドバイスを得て、自分自身の今後のキャリアを冷静に考えることができたのが、今回の転職の勝因だと思います。自分にとって大事なものは何か、わかっているようで実は見えていないということは意外と多いような気がします。

そんなときは、井上さんのように親や友人、そしてコンサルタントなど、第三者の意見を聞いてみると視野が広がるはず。何もかもが希望通りとはいかなくても、自分にとって譲れないものがしっかりしていれば、後悔のない転職ができると思います。

 
プロフィール
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※写真はイメージです

兵庫県在住の33歳。地元の短大卒業後、化粧品会社の美容部員として就職。その後、包装資材を取り扱う会社の営業を経て、父が経営する印刷会社へ。8年ほど勤めたが、父の定年に合わせて事業をたたむことになったため、2008年4月、人材派遣会社の営業職に。しかし、想像を絶する激務に耐えかね、すぐに転職を決意。当初は営業職を希望していたが、自身の今後のキャリアプランを再考しターゲットを変更。同年10月、印刷関連会社にDTPオペレーターとして入社した。

井上さんの経歴はこちら
 

同僚たちに笑顔で見送られ(※1)
井上さんが転職の意思を打ち明けると、同僚たちは親身になって相談に乗ってくれたという。転職後の今でも連絡を取り合い、飲み会があれば参加。「辞める日まで、責任感を持ってしっかりと仕事をしておいてよかったです」と井上さんは言う。

 

コベルコパーソネルに登録(※2)
「コベルコパーソネルは大手資本系の人材紹介会社だから、安心かな? と思ったんです。私の偏見かもしれませんが、大手資本系企業のほうが働いている人に余裕があり、親身になってくれるような気がするので」

 

なごやかに話が進んだ(※3)
「面接ではできるだけ多くの引き出しを持って臨むとスムーズに話が進みます」と井上さん。たとえば、会社への質問をたくさん用意しておけば、想定していなかったことを聞かれて答えに困ったとき、逆質問することでうまくかわすことができるし、自分のペースに持っていけるというのだ。履歴書に趣味を書いておくことも、意外に話の幅が広がるという。

 

双方のコミュニケーションはどのように取っているのか(※4)
日常業務では電話のやり取りがほとんどだとしても、それだけでは社内全体のコミュニケーションがスムーズに進みにくいのでは? と井上さんは考えた。そこで、社内行事などで社員全員が顔を合わせる機会を作っているかどうかを確認した。

 

※写真はイメージです

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