応募企業は20社を超え、「ここは」と思える企業もあるにはあったが、そんなところに限って選考をクリアすることができなかった。気がつけば、転職活動を始めて1年以上が経過していた。
そんな2007年夏、ある人材バンクのコンサルタントから電話がかかってきた。
「外資系化学メーカーの求人があります。受けてみませんか」
電話の主はリコー・ヒューマン・クリエイツ株式会社の大久保コンサルタント。ずいぶん前に【人材バンクネット】の求人検索を介して知り合ったコンサルタント(※3)だった。
話を聞いたところでは、その企業の全世界における社員数は約2万人、日本法人だけでも800人はいるという大企業。川上さんの希望とは大きくかけ離れていたが、なぜか心が動いた。職種はサプライチェーンアナリスト。原材料の調達、生産調整、在庫管理、製品の配送など、事業の川上から川下までのプロセスを管理する仕事だ。
「仕事内容が『サプライチェーン全般』だったので、守備範囲が広そうだと思ったんです。社員数は多いですが、ほとんどが工場勤務で管理系の者はさほど多くない。それで、受けてもいいかなという気になったんです」
仕事が多忙で時間を作ることが難しかった川上さんの都合に合わせ、面接は勤務時間後に組まれた。1次面接は所属予定の部署のマネージャー。着席すると、相手は当たり前のように英語で話し始めた。
「てっきり日本人だと思っていたんですが、台湾出身の方だったんですよ。こっちは日本語での自己PRしか用意していなかったのでビックリしました。英語は得意ですけど、面接となるとそれなりの準備が必要ですからね。面食らった勢いで夢中になって話しました。気づいたら1時間くらい経っていました」
面接では、
──どうしてこの会社に入りたいのですか」?
「会社のことは何も知りません。ただ仕事内容に興味を持ちました」
──そんなことも知らないで来たんですか?
というやりとりもあったが、会社側は自分を飾らずに話す川上さんに好印象を持ってくれたのか、次の選考に進むことが決まった。
いきなりの英語面接に軽い疲労感を覚えながらも、川上さんにとってこの会社は魅力的に映った。面接官はとても英語が上手く、会社や仕事内容の説明も的確でレベルの高い会社であることは容易に想像できた。それに、仕事に対する姿勢がアグレッシブで自分のスタイルと近いものがあると感じたからだ。
|
※写真はイメージです |
翌日には所属予定部署の上役や人事担当者による面接、そして筆記試験が行われた。内定の知らせが入ったときには、川上さんの意思は固まっていた。コンサルタントによる給与交渉(※4)もスムーズに運んだ。
「入社の決め手はやはり仕事内容ですね。ルーティンワークが少なく、仕事ごとにプロジェクトチームを組んで当たるのでフレキシビリティが必要。そういう仕事の仕方って面白そうだなと。それに、面接官が『この人と一緒に仕事をしてみたい』と思えるような方々ばかりだったことも要因です」 |