山口さんが新たな職場に求めたのは、安定した収入と自分の力を発揮できるポジション。さまざまな仕事を経験してきた山口さんには、業界や職種などのこだわりはなかった。むしろ、新しいことにチャレンジできる環境こそ望むところ。その希望を満たしてくれそうだと思ったのが、ある業務用機械メーカーだった。
その業務用機械メーカーは他社にはない特殊な技術を持っていた。その技術を応用してさまざまな機械を作り出し、多業界と取引。安定した売上を誇る企業だった。
「業績は好調だが、古い体質からなかなか抜け出せない。これからも勝ち続ける企業になるには改革が必要。私はあと数年で後進に社長の座を譲るつもりだ。そのときがチャンスだと思う。さまざまな企業で仕事をしてきた山口さんに、ぜひ改革を成し遂げてほしい」
面接の場で社長から直々にそう言われ、山口さんはこの会社なら自分の力を発揮できると確信。幹部候補として採用された。
入社早々、意気込んで社内の状況を調べ、改革案を練る山口さんに対し、社員の反応は冷ややかだった(※3)。あちこちでこう言われた。
「あんたも、そのうちわかるわ……」
社員たちの言葉の意味はわからなかったが、かすかな不安を感じた。
その不安が現実のものとなったのは、できあがった改革案を社長に手渡したときだ。社長の意見を聞きながら、どうやって改革案を推進していくかを話し合うつもりだったのだが、返ってきたのは思いもよらない反応だった。
「まぁまぁ、そんなに急ぐことはない」
山口さんは肩透かしをくらった思いがした。その後、何度も改革案の提出を試みるが反応は変わらず、不信感が募っていった。 |