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一年間に転職する人の数、300万人以上。
その一つひとつにドラマがある。
なぜ彼らは転職を決意したのか。そこに生じた心の葛藤は。
どう決断し、どう動いたのか。
そして彼らにとって「働く」とは—。
スーパーマンではなく、我々の隣にいるような普通の人に話を聞いた。
第36回 (後編) 武田弥生さん(仮名)33歳/カスタマーセンター
やっぱり正社員は無理なのか…諦めかけた私を救ってくれたのは 信頼できるコンサルタントだった

自分のキャリアを模索しながらさまざまな会社を渡り歩いてきた武田弥生さん(仮名)。派遣社員として仕事を始めた中小企業向けコンサルティング会社で、晴れて正社員になることができたが、これで一安心とはいかなかった。仕事のやりがいはあったものの、あまりにも横暴な上司の態度にストレスがたまり、ついに体を壊してしまう。退職し、新たな道を模索する武田さんに試練の日々が待っていた。

スカウトメールがきっかけで
信頼できるコンサルタントに出会う
 

 声が出なくなるという事態がきっかけで、武田さんはやっと退職にこぎつけることができた。その後、通院しながら治療に努め、少しずつ言葉を発することができるようになっていった。まだまだ面接を受けられるような状態ではなかったものの、「早く次の仕事を見つけなければ」とインターネットで転職サイトを検索する過程で、【人材バンクネット】に行き当たった。

「サイト内の記事を読んで、最近は求人数が増えていて、多くの方が転職していることを知りました。ここならスキルアップできる仕事が見つかるかもしれないと思いました」

 武田さんは冷静になって今後のキャリアについて考えてみた。期間限定の派遣の仕事も含め、ここに至るまで8社もの会社を経験している。33歳という年齢を考えると、派遣社員のまま仕事をしていくことに不安を感じた。それに、年齢が高くなればなるほど正社員になるのも難しくなっていく気もした。やはり正社員として働ける職場を目指すことにした。

「営業職で年収は300万円程度、自宅から通える職場であることを条件としました。それ以上に譲れないのは経営理念や会社組織がしっかりしていて、長く働ける会社であること。もうこれ以上、転職を重ねるのはイヤだったんです」

 【人材バンクネット】に登録すると、スカウトメールが5通届いた。返信メールを送るとき、困っていることや転職への希望を必ず書くようにした。武田さんからのメールにコンサルタントがどう答えてくれるかで、信頼できるか否かを測った。面談でもさまざまな質問をぶつけてコンサルタントをチェック(※1)した。

 複数のコンサルタントとのやりとりで、最も印象的だったのが株式会社ジェイエイシーリクルートメント 大阪支店の田之上宏氏だった。

「最初のメールに『私は田之上宏(47歳)です』って、年齢を書いていたんです。別にウケを狙ったわけじゃないと思いますが、どういうわけか、私のツボにはまってしまって(笑)。仕事のやりとりで年齢を書く人って珍しいし、ウイットを感じました。私の返信メールに対しても『心配しなくても大丈夫ですよ』と温かい言葉をくださって、信頼できる方だと思いましたね。面談で初めて顔を合わせると、想像通りの誠実な方で、全く緊張せずに肩の力を抜いてお話できました」

やっぱり派遣の道しかないのか……
後ろ向きだった私を変えた温かい一言
 

 田之上コンサルタントをはじめ、複数のコンサルタントの力を借りながら、転職活動をスタート。しかし、武田さんの転職活動は大いに難航した。派遣を含めて勤務経験社数が多く、しかも1社ごとの勤務期間の短かさが、企業側にはマイナスと映ったのだ。

「大手企業での経験が多かったので『ブランド企業好きなんじゃないのか?』とか『辞めグセがついているんじゃないのか?』と思われたようです。正社員になりたいと思っていたからこそ、期間限定の派遣の仕事をしていたわけなのですが……。でも、上司の人間性が悪かったとか、社員のモラルが低くて嫌気がさした、なんて話をしても『そんな会社あるわけない』と受け取られ、私の印象が悪くなるだけ。直前職の転職理由は説明のしようがなく、本当に困りました」

 約半年かけて20社に応募したが、面接に進めたのは半分にも満たなかった。面接を受けてもうまくいかず、悶々とした。

「転職マニュアル通りにするとコミュニケーション力がないとみなされてしまう。逆にマニュアルから離れると、あまり評価してもらえない。30代の人間としてどういう受け答えをすべきか、毎回悩まされました」

 転職活動が長引くほど経済的にも苦しくなり、派遣の仕事ならたくさんあるのだから、もう正社員はあきらめようか(※2)と心が揺らいだ。そんな胸の内を田之上コンサルタントに相談すると、こんな一言が返ってきた。

「あなたを採用しない会社は転職しない方がよかった会社なんですよ。本気でそう思いますよ」。

 心から武田さんを励まそうとする田之上コンサルタントの言葉に、心の底から熱いものがこみ上げてきた。

「もう一度だけ、頑張ってみよう」──そう決意した。

 武田さんは前の会社の営業職で声が出なくなるほどの精神的ストレスを受けたのにもかかわらず、再度営業職を希望していたのには理由があった。

「前職を中途半端な状態で辞めざるをえなかった事が悔しくて、次も営業で!と思っていたんです。声が出なくなった後遺症で人と対面で話ができなくなっており、とても面接を受けられる状態ではなかったのに(笑)」

 しかし、対面は無理でも電話でのやり取りなら可能なのではないか。そう気づいて、田之上コンサルタントに伝えた。すると生命保険会社のカスタマーサービス部門の求人情報を紹介してくれた。多くの女性が活躍している会社(※3)ということだったが、それも長く働ける職場を見つけたいという武田さんの思いを汲んでのことだった。すぐに応募を決め、説明会に臨んだ。

洗練された社員の振る舞いを目の当たりにし
生命保険会社のイメージが一変
 

 説明会に参加して、武田さんはその生命保険会社にすっかり魅了されてしまった。

「他社の悪口を言わないし、大げさな表現もない。社員の立ち居振る舞いも洗練されているなぁと感心しました。実はそれまでは生命保険会社にあまりいいイメージを持っていなかったんです。でも、とても素敵な会社だなぁと印象がガラリと変わりましたね」

 その思いを決定づける出来事が、説明会に続いて行われた筆記試験の最中に起こった。

プルルルル……!

どこかで誰かの携帯電話が鳴ったのだ。辺りに緊迫した空気が流れる。その瞬間、試験官を務めていた社員がさっと試験会場から出て行くのを武田さんは見た。

「携帯電話を鳴らしてしまった本人は『どうしよう!?』と焦って、申し訳ない気持ちでいっぱいだったと思うんです。普通なら注意されても仕方のない場面。ところが試験官をしていた社員はさっと部屋を出て行った。携帯電話を鳴らしてしまった人を気遣って、あえて見て見ぬふりをしたんです。その姿を見て、とても教育の生き届いた会社だな、と。すっかりホレてしまいました(笑)」

 数日後に行われた面接でも、社員の魅力を実感する場面があった。3人の面接官を前にして、これまでの経験や自分の長所(※4)など、聞かれるままに必死に答えていたときだ。面接官が目で合図を送ってくれているのに気づいた。

「圧迫面接があると聞いていたので緊張していて、自分がうまく話せているのか自信がなかったんです。でも、3人の面接官のうちの1人の女性がなぜか『うんうん、それでいいのよ』と語りかけるように目で合図を送ってくれて。その表情に助けられて緊張がほぐれました」

 15分ほどの面接の最後に「この会社でどのように働いていきたいですか」と聞かれた武田さんは堂々と答えた。

「1年で会社から求められる仕事をきちんとできるようになり、3年でみんなに頼られるようになり、5年で『あの人はすごい』と言われるようになりたいです。もちろん、仕事はずっと続けていくつもりです」

 この面接の翌日に内々定、その一週間後に内定が告げられた。ほぼ同時期に他社の内定も決まったが、武田さんの心は今までのキャリアの認めてくれたこの生命保険会社に決まっていた。

あきらめなくてよかった!
異業界からの転身に全力で挑戦
 

 人材バンクを利用しての転職活動は、ビジネスライクなものだと思っていたと武田さんは言う。しかし、入社が決まったとき、不思議な感情が湧いてきたことに気づいた。

「転職って殺伐としたイメージしかなかったのですが、温かい空気の中で決めることができるんだと知りました。やっぱり、田之上さんという信頼できるコンサルタントと出会えたことが大きかったですね。私は前職のことで対人恐怖症のようになっていましたから、信用できる人じゃないと今までの出来事や自分の気持ちをありのままに話すことはできなかったと思います。コンサルタントは貴重な協力者であり、パートナーであり、友情のようなものを感じました」

 異業界からの転身で、保険業の知識が全くなかった武田さんだが、入社後は必死に知識の習得に努めている。面接で語った通りの自分になるために。

「不安がないといえばウソになりますが、教育体制がしっかりしていますから、周りの社員に負けないように前向きに頑張っています。会社の雰囲気にも慣れてきて、ここなら長く働けそうだと安心しています」

 転職活動がうまくいかず、「十数年も働いてきたのに私には何もなかったのか……」と落ち込んだこともあった。でも、今はあきらめなくてよかったと心から思っている。

「妥協して派遣の仕事をしても、長くは続かなかったでしょうね。楽をして職場を得ても、仕事がつまらなかったり、ろくでもない会社だったりするもの。私にはそれがよくわかってますから」

コンサルタントより
株式会社ジェイエイシーリクルートメント
田之上宏氏
マイナス要素があっても
自分を過小評価せず
ありのままをアピールしよう
 
 
田之上宏氏

 武田さんのキャリアシートを拝見した段階では、やはり転職歴が多く在職期間が短い点が目につきました。ただ、営業職として女性を活用している企業はたくさんありますので、転職のチャンスは十分あると考えました。

 面談で初めてお会いしたとき、とても落ち着いた受け答えをされる方で、相手に合わせて柔軟に会話ができる方だという印象を受けました。専門性はないけれど、営業センスは高い。自分を売り込むというよりは、商品の良さをきちんと勧めるような営業に向いている方だと感じました。こういう方なら、苦労を重ねてきたこれまでの経験をプラスとして受け止め、人物面を評価してくれる企業が必ずあるはずだと確信しました。30代前半くらいまででしたら、実務経験よりもポテンシャルを重視して採用する企業もあるからです。

 転職歴が多い方は、どうしても書類選考を通過するのが難しくなってしまいます。在職期間が短いと、企業によっては「辛抱強さが足りない」と判断されてしまうからです。よって、できるだけ人物面を重視してくれる会社を選ぶのがポイントになります。たとえば、最初に書類選考で応募者をふるいにかける会社ではなく、選考会などを開催して必ず面接をしてくれる会社です。今回、武田さんが採用された生命保険会社も、会社説明会を兼ねた選考会を行う企業でしたので、彼女なら必ず内定を勝ち得ると思っていました。

 内定が決まったとき、武田さんは「なぜ採用されたのかがわからない」とおっしゃっていましたが、採用のポイントはまさにそこだと思います。今回はコールセンター部門での募集であり、電話でのやりとりが仕事。落ち着いて自然な受け答えができる人こそ、先方が望む人材像だったのだと私は考えます。

 ただ、もし武田さんが高額な年収を希望したり、業界や職種にこだわりすぎたりしていたら、内定にこぎつけるのは難しかったかもしれません。自分を客観視して現実的な選択をしたことも勝因だと思います。

 転職歴が多いなどのマイナス要素がある方は、自分を過小評価してしまいがちですが、自信を持ってやってきたことをアピールした方がいいですね。ありのままの自分を伝えれば、評価してくれる会社が現れるはずです。

 
プロフィール
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大阪府在住の33歳。短大卒業後、化粧品会社の美容部員として5年半ほど勤務。通信関連会社の営業を経て、福祉施設へ。その後は派遣社員としてさまざまな会社で営業の仕事をした。2007年春、中小企業を対象としたコンサルティング会社に派遣社員として入社、2カ月後に正社員として採用されたが、会社の雰囲気や横暴な上司になじめず、体調を崩したことから、転職に踏み切った。

武田さんの経歴はこちら
 

面談でもさまざまな質問をぶつけてコンサルタントをチェック(※1)
「今までどんな転職希望者に会社を紹介したか」「何人の転職希望者を担当しそのうち何人が入社したか」「紹介企業が希望する人材像は?」「紹介企業の特徴や担当者(または経営者)の人柄は?」など、コンサルタントにはさまざまな質問をしてみたという。「答えにくい質問にも誠実に対応してくれる方がいいと思います」

 

もう正社員はあきらめようか(※2)
生活ために早く働きたかったが、派遣の仕事をすると転職活動ができなくなるので大いに迷ったという。「派遣で今すぐお金を稼ぐほうを選ぶか、それとも正社員として将来的に安定した職場を得るほうを選ぶか? ジレンマに苦しみました」

 

女性が活躍している会社(※3)
「その仕事は残業がなく、定時で帰れるので子育て中の女性も多いと聞きました。田之上さんはただ単に私の希望に合わせるだけでなく、先のことも考えて紹介してくれたんだと感じ、とてもありがたかったです」

 

自分の長所(※4)
「長所を3つ挙げてください」と言われ、武田さんは「忍耐力、根性、誰とでも仲良くできること」と答えた。具体的なエピソードを交え、失敗しても努力し続ける点やコミュニケーション力などをアピールした。

 
取材を終えて

 責任感が強く、どんなにたいへんな状況下でも、きっちりと仕事をこなすタイプの武田さん。「福祉の仕事を始めてから今回の転職が決まるまでの間、私の仕事人生は迷い道に入ったようなものでしたね」と語っていたのですが、その言葉通り、十数年の社会人生活で一貫したキャリアを積むことができなかったのは、とてももったいなかったと感じました。

 でも、さまざまな会社でさまざまな人に出会ってきたことは、決して無駄ではなかったと思います。なぜなら、彼女は今回の転職で、社員や面接官の言動を非常によく見ていて、しっかりと社風をとらえています。その洞察力は今までの経験のたまものではないでしょうか。また、異業界に迷いなく進むことができたのも、さまざまな苦労を乗り越えてきたからこそだと思います。

 武田さんは「私のどこが評価されたのかわからないんです」と話していましたが、本気で選考に臨めば、企業はちゃんとその人の努力の跡や力量、やる気を買ってくれるものだとわかりました。よく「転職歴が多いのはマイナス」だと言われますが、それはあくまでも一般論。あきらめないことが大事だと痛感しました。

photo 第36回(前編)横暴な上司、最悪な人間関係でストレスは最高潮。声まで失われ転職を決意
 

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