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一年間に転職する人の数、300万人以上。
その一つひとつにドラマがある。
なぜ彼らは転職を決意したのか。そこに生じた心の葛藤は。
どう決断し、どう動いたのか。
そして彼らにとって「働く」とは—。
スーパーマンではなく、我々の隣にいるような普通の人に話を聞いた。
第28回(前編) 萩原沙也香さん(仮名)27歳/編集者
本当にやりたい仕事は何なのか コアを見失った苦悩を乗り越え 3度目の転職で夢を実現

編集プロダクションに勤め始めて1カ月で解雇を言い渡された萩原さん。自分でも続けることは困難だと思っていたのでショックは感じなかったが、いざ転職活動を始めようとした段階で大きな壁にぶつかってしまう。私が本当にやりたいことって何なんだろう──。萩原さんの苦悩の日々が始まった。

【前回までのあらすじ】

 萩原沙也香さん(仮名)は大学卒業後、SEとして3年間働いたが、やはり出版業界への夢が捨てきれず小規模出版社にアルバイトとして転職。仕事自体は楽しかったが、正社員昇格への限界を感じ半年後に退職、新天地を編集プロダクションに求めた。雇用形態は正社員だったが、興味の感じられない仕事内容や劣悪な職場環境、雇用条件などでモチベーションは日に日に低下。ついには1カ月後に解雇されてしまった。

私のやりたいことって何だろう
自分のコアを見失う
 

 入社1カ月で突然解雇されてしまった萩原さん。落胆や失意は微塵もなかったが、次の転職先を考えようとしたとき、重大な壁にぶち当たってしまった。それは納得のいくキャリアを構築していく上で、危機的状況と言っても過言ではなかった。

「自分自身のコアを完璧に見失ってしまったんです。私が本当にやりたいことって何なのだろう? 私はこの先も編集がやりたいんだろうか? という感じで、自分の軸がブレてたんです。仮に編集の道をあきらめたとしても、全く新しい仕事を26歳でいちから覚えることが私にできるだろうかという不安も感じてました」

 どちらを向いても壁が立ちはだかる。まさに八方塞りで身動きが取れない状況に陥ってしまった。

「考えれば考えるほど、どうしていいかわからなくなって……。この先私はどうなっちゃうんだろうと不安でしょうがなかったですね」

 こんな苦悩に陥ってしまったのは、前の2回の転職が大きく影響していた。SEを辞めてアルバイトで入社した出版社では、好きな仕事で頑張っていたが社員になれるほどの実績は出せなかった。その後の編集プロダクションでは入社前に聞かされていた業務内容とは違う興味のもてない仕事で、なおかつ職場環境も最悪、その上1カ月で解雇された。

 その結果、SE時代にためた貯金は前2社に在籍中に大幅に減少、無職となった今もみるみるうちに減っていく。あのままSEでいればこんなみじめな生活をすることもなかった。やはり編集を目指したことそのものが間違いだったのだろうか──萩原さんは夢を追いかけた行為自体を悔やむような気持ちになっていた。

「これまでは編集がやりたいという情熱だけで突っ走ってきたけど、やりたい仕事ができるというだけでは生活していけないということがすごくよくわかりました。つまり、自分の本当に好きなことと生活は両立しないということを痛感したんです。こんなに生活がおかしくなるんだったら編集の道はあきらめた方がいいんじゃないか、とも思うようになったんです」

第3者の意見をリサーチ
 

 悩めば悩むほど行き詰まり、自分の中だけでは答えが見つからないと思った萩原さんは、仕事に打ち込んでいる友人に現在の仕事を選んだ理由や、仕事に対する意識を聞いて回った。さらに仕事への取り組みや仕事観について書かれてあるさまざまなブログを読み漁った。そして改めて自問自答した。私は本当は何がやりたいんだろう──。

 するといろいろなことが見えてきた。まずやっぱり編集という仕事がしたいということ。しかしその思いだけで突っ走ればまた同じことの繰り返しになってしまう。好きな編集を仕事にしつつ、人並みの生活を送れる方法を考えたところ、ひとつの結論に行き着いた。それはこれまでに身に付けた知識を生かすこと。

「私には3年間頑張ったSEとしての土台があります。この先も編集という仕事で年齢相応の収入を望むなら、これを生かす方がいいんじゃないかと思ったんですね。わからないことをいちから始めなきゃいけないたいへんさは、前職で身に染みて感じたので」

 ビジネスというジャンルに興味がなくなったわけではなかったが、現実を直視した場合、自分の経歴では大手出版社に採用されることはありえない。よしんば採用されたとしても、雇用形態や収入面などいい条件は絶対引き出せない。そう判断した萩原さんは、「IT系」と「編集」をキーワードに求人を探してみることにした。

 さらに会社の規模にも重きを置いた。あまり小さな会社だと、前職の編集プロダクションのような会社としてのルールや秩序がない可能性が高いと思ったからだ。

 ■次の転職先に求めた条件
  • 仕事内容:IT系の編集の仕事
  • 企業規模:社員数50人以上の規模の会社(会社としての秩序が保たれている)
  • 収入:年収400万円以上
コンサルタントも強い味方に
 

 ある程度キャリアの方向性は見えてきたが、それでもいざ転職活動を始めてみるとグラつくこともあった。しかし、見失っていた自分のコアを確立させるのに、さらに大きな力になってくれた人がいた。

 次の方向性がある程度定まった萩原さんは【人材バンクネット】(※1)で求人を検索してみた。すると「IT系雑誌の編集職」を発見。IT系雑誌といっても専門性の高い雑誌ではなく、一般人でも理解できる内容だった。これならSE時代に身に付けた知識で十分対応できる。その求人の申し込み先は人材バンク・株式会社アトリエコスモスの社長、鋤柄よし子氏だった。

 早速コンタクトをとってアトリエコスモスへ。「IT系雑誌の編集職」の求人に応募すると同時に、これまでの経緯、今、悩んでいることなどを正直に告白した。しかし、鋤柄氏から発せられたのはアドバイスではなく、質問だった。

──あなたは本当に編集の仕事をやりたいと思っているの? 

──どの程度強く思っているの? 

──本当に好きだったら今までどんなことをしてきたの? 

──編集と一口に言ってもいろんなタイプがあるけど、あなたはどういうタイプの編集者になりたいの? 

 自らもクリエイティブ業界で長く経験を積んできた鋤柄氏の言葉はリアリティに富み、一つひとつが胸に突き刺さった。

「まさにグラついていたコアの部分に対する質問だったので、グサリときましたね。どういうタイプの編集をやりたいかについてこれまでの経験から語った(※2)ら、『それでは編集を志望する動機としては弱い』と言われたり。それを聞いて本当にそうだよなあと納得しました。そういうふうに突っ込んで質問してきてくれると、自分で自分のやりたいことを突き詰めて考えられるのでありがたかったですね」

編集から離れることも考えた
 

 これまでの経歴を話すうちに別の考えも浮かんできた。SEから転職したビジネス系出版社では編集の仕事がすごく好きだと思えたけど、前職の編集プロダクションではタイアップ記事の編集があれほどつらく、嫌なものだとは思わなかった。そのせいで編集の仕事自体が嫌いになりそうにすらなった。なぜかと考えたとき、自分は「ビジネス分野の編集がしたい」というこだわりが強すぎるんじゃないかと思った。だからそれ以外の興味のない仕事に当たるとつらく感じる。つまり許容範囲が狭すぎるということだ。

「それはよくないからもっと視野を広げようと、鋤柄さんに『私に合いそうな職種があれば、編集以外でもいいから紹介してほしい』と言いました」

 その後鋤柄氏から広報などの職種も紹介してもらったが、やはりピンとくるものがなかった。やはり私は編集がやりたいのかもしれないと思った萩原さんは、案件に応募すると同時に、求人検索を続けた。

第一志望に落ちたことで
コアがより確固たるものに
 

 鋤柄氏経由で応募した案件は、募集企業がすぐにでも会いたいと言ってくるほど感触は良好だった。やはり「SE系の編集」ではまだ声がかかる。方向性は間違っていなかった。失いかけていた自信が少し回復したが、保留にしてもらった。理由はふたつあった。

 ひとつは、アトリエコスモス経由で応募した後に、某転職サイトから別のIT系出版社の編集職の求人に応募していたのだが、その選考がまだ続いていたこと。この募集企業は外資系の大規模IT系出版社で、当時の第一志望(※3)だった。だからこの選考が終わるまでは他の選考を進めたくなかった。

 もうひとつはアトリエコスモス経由で応募した企業は、やりたい仕事ではあったものの、社員20名以下と規模が小さかったからだ。そこだけが引っかかっていた。

 しかし第一志望の企業は選考から2カ月が経過した3月中旬に不採用となってしまった。だがこの経験が逆に萩原さんのコアをより確固たるものにした。

「選考の過程の面接でその会社の媒体を見せられたとき、私なりに感じた改善点を提案したことがあったんです。すると、『そういう意見がほしかった。次の選考に残ってください』と面接官に評価されて、大きな自信になったんです。結果的には不採用となってしまいましたが、SE時代の3年間は無駄じゃなかった、自分のこれまでやってきたことは、『IT系の編集』という仕事で役に立つと思えたんです。それはひとつの大きな気づきでしたね」

 この第一志望の選考を通じて、IT系の知識と編集の経験を土台にこれからもステップアップしていけると実感。萩原さんのコアが固まった瞬間だった。

スピード内定
 

 そこから内定を獲得するまでは早かった。第一志望の不採用が決まった時点で、鋤柄氏に保留にしてもらっていた求人案件の選考の再開を依頼。するとすぐに面接の日取りが決まり、1次面接、2次面接と順調に通過。2週間後には内定が出た。入社後、一緒に働くことになる面接官の印象もよく、雇用形態も正社員、年収も最低ラインの400万円は保証されたことで入社を決意した。最後まで気になっていた会社規模の問題も入社してみれば何の問題もなかった。

「社員数こそ少ないものの、オフィスはきれいで整理整頓されており、社長をトップに社内秩序が守られてる印象を受けました。社員が気持ちよく働けるようにいろいろ配慮されているのを感じます。業務に集中でき、非常に理想的な環境ですね」

 仕事内容もこれまでの知識が生かせるIT系の編集と、事前情報どおり。やりたい企画も上げられる環境で、先日会議で提案した企画は早速認められた。もちろん仕事のやりがいも感じている。

 これまで味わった苦い思いが嘘のようだが、しかしその経験も今となっては有意義だったと思っている。

「前の2回の転職は失敗に終わりましたが、それでも編集という仕事に挑戦できたことはよかったと思っています。挑戦することで得られたものも大きいですから。おかげで今は日々の生活に感謝するようになりましたし(笑)」

 失敗を失敗のままで終わらせるか、成功につなげるかは本人次第。萩原さんは間違いなく後者の方だろう。あのつらく苦しい時期があったからこそ自分の中のコアが定まったのだから。

 そして今萩原さんは、やりたい仕事、条件、環境などすべてを手に入れ、生き生きと働いている。その要因をこう振り返る。

「やっぱりアトリエコスモスの鋤柄社長にいろいろと突っ込まれたのが非常によかったですね。見失ってた自分のコアを取り戻すきっかけになりましたから。今では『私のコアは編集です』と胸を張って言えます。そして今後もこれでやっていこうと思えています。それが何よりうれしいですね。だから鋤柄社長には今でも感謝してます」

 同じレベルの推進力(=モチベーション)をもつ車輪が組み合わさって初めて、自分という車は前に向いて進む。一時は絶望的な状況に陥ったが、片方は「編集」という職種の車輪、もう片方は「IT系」というテーマの車輪をうまく組み合わせられた萩原さんは、この先どんどんスピードを上げながら目標に向かって進んでいくことだろう。その先には幸せな人生が待っているはずだ。

 
 ■内定を決めた理由
  • やりたい仕事ができる
  • 一緒に働く社員の印象がよかった
  • 最低年収が確保された
   ■転職データ
  • 応募:11社
  • 面接:7社
  • 内定:4社
コンサルタントより
株式会社アトリエコスモス
代表取締役社長 鋤柄よしこ氏
専門知識と人物面が
高く評価されました
 
 
古大工真規氏

今回萩原さんが内定を獲得できた理由は、まずあまり好きではなかったIT業界で3年頑張って身につけた専門知識があったこと。やはり同じ編集でもあまり他の人がもっていないような専門知識があると強いんですね。

加えて人物面。彼女はこれまでのキャリアの中でひとつひとつ目標を立てて取り組んできています。そういう行動力や、自分のやりたいこと、できること、できないことを自己分析できる力、そして正確に伝えることができるコミュニケーション能力も高く評価されました。

これらの点が編集のキャリアの浅さを補ってくれる強力な武器になり、一次面接でほぼ内定が決まりました。

面談時には優先順位を決めるようアドバイス
萩原さんと面談したときに、編集をやりたいとは言っていましたが、ご自身の中で揺れている部分を感じたので、どこまで本気なのか聞いてみました。それと同時に次の転職に何を求めるのか、やりがいなのか、安定なのか、高収入なのか、いろいろありますが、その中で何を最も優先させたいのか、と聞きました。

その中でやりがいと同時にある程度の年収も得たいという気持ちが強かったので、広報などの編集職以外の職種も含め、両者を満たせる案件をとにかく探して紹介し、企業側には萩原さんをかなりプッシュしました。

その過程で、やっぱり編集の道を行くのが、彼女にとっての王道だと思いました。ただし、「編集職」は非常に幅の広い職種で、扱う媒体によって仕事内容も年収も違います。たとえば大手出版社発行の週刊誌と編集プロダクションの広告タイアップ記事の編集は同じ職種とは言いがたいほど大きく違います。

そういうことを説明して、萩原さんにとって一番マッチする転職先を探っていったのです。それができたのは、私自身が出版、Webを含めさまざまな媒体を経験してきた元クリエーターだからなんですね。大手の人材バンクではここまでは細かくはわからないと思います。

だから今回、萩原さんが転職できたのは弊社に来たことが最大の理由と言えるかもしれませんね(笑)。

企業と交渉し年収も確保
年収も最低400万円というこだわりがあったので、企業側と、弊社の取り分を減らしてでも萩原さんの年収を上げてほしいと交渉し、最低ラインを確保しました。

今回の転職は萩原さんにとって、専門知識と編集の経験が生かせ、要求されるレベルも飛びぬけて高くない、等身大の転職になったと思います。

モバイル業界が熱い!
現在、求人数が多いのはWebデザイナーです。業界ではモバイル業界が活況ですね。プログラマー、デザイナー、ライター、ディレクターなどのクリティブ職だけでなく、経理、人事などの事務系職種の求人も急上昇中です。モバイル業界に興味のある方はぜひ相談にお越しください。

 
プロフィール
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東京都在住の27歳。大学卒業後、3年間IT企業のSEとして働いた後、念願のビジネス雑誌編集部の編集アシスタントに。半年間勤めた後、編集プロダクションに編集者として転職。過酷な労働条件や劣悪な環境の中で頑張っていたが1カ月で解雇。その後4カ月の転職活動を経てIT系出版社に転職。現在は最高の職場環境で編集者として頑張っている。

萩原さんの経歴はこちら
 

【人材バンクネット】(※1)
初めて【人材バンクネット】の存在を知ったのはSEを辞めたとき。先に辞職した同期に教えてもらった。しかしその時点では登録はせず、200×年、編集プロダクションを辞めた際に思い出して登録。しかしIT系からしかオファーがこないだろうとの予想からキャリアシートは非公開のままで、求人を検索し興味を引かれた求人に応募していた。しかし第一志望の選考に落ちてしまった時点でキャリアシートを公開したところ、翌日からスカウトメールが届き始めた。「1週間くらいは毎日5〜6通程度来てました」(萩原さん)

 

これまでの経験から語った(※2)
SE時代に自分で考えた企画を発表したところ、かなり評価されたことがあった。そのときやっぱり編集の仕事がしたいと思ったことを話した。

 

第一志望(※3)
保留の理由として、第一志望の企業の選考がまだ続いているからとアトリエコスモスの鋤柄社長に正直に伝えた。すると鋤柄氏は「あんな採用ハードルが高い企業の選考によく残っているわね」と驚いたという。

 
取材を終えて

萩原さんは、高いコミュニケーション能力を持ち、頭の回転の速い人でした。

こちらの質問を的確に把握し、最小限の言葉で完結に応答していただき、そのやりとりに小気味よささえ感じました。

企業はスキルや経験だけでなく、こういった人物面も重視しています。

こんな点も27歳でリベンジ転職を成功させ、好きな仕事と収入の両方を手に入れることができた大きな理由だと思いました。

しかし、萩原さんも簡単に内定を獲得できたわけではありません。そこに至るまでには自分のコアが揺らぐという危機的状況がありました。

「自分の本当にやりたいことって何だろう」「今までやりたいと思ってたけど、本当にこの仕事でいいのかな」──。

萩原さんだけではなく、誰でも一度はぶつかったことのある壁ではないでしょうか。

この問題は、自分自身と正面から向き合わなければならなず、時として非常につらく苦しい作業になりますが、壁を乗り越えるには逃げずにとことんまで自分に問いかけるしかないと思います。

さらに萩原さんが取った行動でよかったのは、自分だけではなく、広く他人の声に耳を傾けたことでしょう。自分の中だけで答えを出そうとすると、どうしても限界にぶつかります。そんなとき他人の意見、考え方を聞くことで自分のコアを再確認できる場合も多いのです。

中でも特に大きな力になったのが、人材バンク、「アトリエコスモス」の鋤柄社長でしょう。自らもデザイナーでクリエーター業界での経験が豊富だからこそ、萩原さんのスキル、モチベーション、適性を正しく判断でき、軸がぶれていた萩原さんに的確なアドバイスができたのです。

それが応募先企業との幸せなマッチングへとつながったのは言うまでもありません。

まさにコンサルタントは転職希望者の強力な味方。直接転職にはない大きなメリットです。

しかしそれも萩原さんが行動を起こしたからこそです。現在、悩んでいる人、自分の軸がぶれている人、何がしたいのかわからなくなってる人などは、とりあえず行動を起こしてみてはいかがでしょうか。自分から動かなければ何も変わらないのですから。

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