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一年間に転職する人の数、300万人以上。
その一つひとつにドラマがある。
なぜ彼らは転職を決意したのか。そこに生じた心の葛藤は。
どう決断し、どう動いたのか。
そして彼らにとって「働く」とは—。
スーパーマンではなく、我々の隣にいるような普通の人に話を聞いた。
第21回(後編) 森田さやかさん(仮名)33歳/法務
33歳からの方向転換 前向きな気持ちと「出会い」が 苦渋の日々をあっさり変えた

入社して間もなく業務上のアクシデントで全治10日の怪我を負ってしまった森田さやかさん(仮名)。謝罪をしない同僚、事なかれ主義の上司。もうこんな職場にいられない。
わずか1カ月の在職期間だが、森田さんは動くことより留まることの方がリスクが高いと判断。転職活動を開始した。

現状が最悪なのだから、今よりはマシなはず!
 

思いのほかストレスの溜まる職場環境、予想以上に低い給料、そして決定的だったのが勤務中にケガをさせられたにも関わらず、なかったことにしようとする上司。さまざまな要因が重なって、転職を決意した森田さん。しかし問題はどこへ向かって進むかだった。

 司法試験の制度が変わり、これまで以上に多くの弁護士が社会にあふれる状況(※1)では、法曹界はよりサバイバルな状態になる。法律事務所も、高名かつ大規模な事務所とごく小規模な事務所の二極化に向かっている。大きな事務所では、そこで働く事務職でも、独立開業ができるほどの有資格者や高度な専門スキルを持つ人の募集しかない。現状の森田さんでは、今すぐに例えば行政書士などの資格を取ろうとしても、無理な話だ。

といって、小さな個人事務所に戻ることもできない。年齢はもう33歳。アルバイトの期間も含めれば10年近く法律事務所で働いてきており、実質的にはそれなりの実務経験はある。しかし、コアスキルといえるようなものを持ち合わせていない森田さんが、思い通りに働ける場所はあるとは考えにくい。なにより、中小事務所のデメリットはこれまでも存分に味わってきたし、将来的にリスクが高すぎる。弁護士であるボスが引退でもしたら、自分も職を失うことになるからだ。

しかし森田さんはあくまでも前向きだった。

 

「考えれば不安はいろいろありますが、もともとが楽天的な方ですし、言ってしまえばこのときが一番悪い状況だと思いましたから、これからさらに悪くなるという気もしませんでした。少なくとも前を向いているという実感がある分だけ、むしろ楽しみがあるのだと思えました」

 2006年8月、転職活動を開始。インターネットでたまたま見つけた人材バンクのサイトに職務経歴書を送ることから始めた。これで、コンサルタントの人と面談をして、求人案件を紹介してもらえるずだ。そう思った森田さんさんだったが、現実はそれほど甘くなかった。

「最初のうちは、紹介できる求人案件がないと、人材バンクのコンサルタントとの面談も設定してもらえませんでした。やはり私にはコアスキルになるものがないという点で、求人案件はかなり限定されてしまうようでした。その後、その人材バンク社ときどき求人紹介のメールをいただいたのですが、どれも私が希望する法律関係のものではない一般の事務の仕事ばかり。枠を広げてご紹介いただいたのかもしれませんが、事実上は役立つところまでは至りませんでした」

企業法務へのキャリア変更で一気に道が開けた
 

 そうした状況で、森田さんが考えたのは、法律事務所への転職はもはや厳しいということだった。高いスキルを要求する大きな事務所には、自分の入り込む余地を探すのは難しい。そこで企業の法務職を考え始めた。もちろん、未経験なので、ゼロからの出発になる。しかし、弁護士について学んだことは、取りあえず企業の中でも活用できることが多いのではないか。とにかく法律の知識を活かした仕事、それも長く勤めることができる仕事と考えた場合、一般企業への転職も視野に入れておくべきだろう。そう考えてまずはキャリアシートの書き直しから始めることにした。

新たに仕切り直しだ。そのときたまたま以前ネットで見つけた【人材バンクネット】の存在を思い出した。サイトに登録してキャリアシートを一度匿名公開すれば、多数の人材バンクが閲覧できる。これならいちいちキャリアシートを作って送信する必要はない。これは便利だと思った森田さんは早速登録して、キャリアシートを公開。ここから状況は劇的に好転していった。

 

「キャリアシートを匿名公開した翌日には、数通のスカウトメールが届きました。最初にくださった株式会社ネオキャリアに返信すると、すぐにでも面談をしたいとまたすぐに返信がきました。以前利用した人材バンクとはちょっと対応が違うようで、これならなんとかなるかもしれないと希望の光が見えた思いでした」

 早速面談に赴いた森田さん。担当についたのが大脇盛弘コンサルタントだった。これまでの職歴について、こちらの望む希望をていねいに聞き出してくれた。

「大脇さんは、対応はきびきびとしていて、ものごとを理詰めですぱすぱと裁いていく人という印象でした。私の考えていた条件(※2)を述べると、すぐさま、『それならこれといってえりごのみするのではなく、どんどんチャレンジしてみるのがよいでしょう』、と、7、8件の企業を紹介していただきました。そこで、その場で応募することにしました。なんだか、いろいろなことがテキパキと進んだ日でしたね(笑)」

 大脇コンサルタントのアドバイスでは、確かにコアスキルがないのはマイナスではあるが、企業法務はスキル面だけで評価されるものではなく、人間性、コミュニケーション能力といったものも含めてさまざまな要素で総合的に評価される(※3)。その点からも、まずはさまざまな企業に挑戦してみるのが得策だというものだった。

「オタク用語」意気投合!?
一気に親密度が増す
 

 それから1週間と空けずにある企業の書類選考が通り、面接へと進むことになった。その企業は、インターネットサービスを扱うベンチャー企業で、ISMS(インフォメーション・セキュリティ・マネージメント・システム)の取得など、ちょうど企業法務部門を強化しようとしている時期にあった。

 1次面接では(※4)、法務部門の責任者と役員の2人が応対。職歴など一通りの説明をした後に面接官に、ある用語について質問された。

「『今北産業』というコトバを知ってますか?」

「もちろん知ってます。こういう意味ですよね」

森田さんはがすかさず反応すると、「ほう、そんなコトバも知っているんですね。それならウチの会社でも大丈夫だな」と、会話はそれを基点に急激にうち解けた雰囲気になった。

「今北産業」とは「今来た私にこれまでの流れを三行で説明してください」という意味で、インターネットの巨大匿名掲示板で使われているコトバ。

森田さんは、もともとインターネットでゲームを楽しむなど、サブカルチャー的な嗜好を持っており、話題のWebサイトなどにも馴染み深い。もちろんネット掲示板の存在も古くから知っていた。

その企業には、ネット文化に親しみの深い社員が大勢おり、職場でもネット用語、サブカル用語が飛び交っている。ネットやサブカルになじみの薄い人だと、そういう雰囲気になじめないかもしれない。しかし森田さんなら、そういった恐れはない。職場にすぐになじめる素養は、少々のスキル面の浅さはカバーできると企業側は判断したようだった。

その数日後、2次面接として、条件面などを話し合ったが、その日のうちに内定が告げられた。驚くほどのスピード内定。これまでの経験とは全く異なるパターン。前を見て階段を上っていったらそこにドアを開けて待っていてくれたというほどのトントン拍子の内定獲得だった。

 

「まさか、そんな部分で急にうち解けるとは思いもよりませんでしたが、結果としては、私なんかより学歴や経験が豊富な方もいらっしゃった中で、私を選んでいただいたのですから、幸運としか言いようがありません。しかも想定する中では最良の結果になりました」

 現在入社して約2カ月。懸念していた経験不足は、いざ現場に入ってみると全く問題なく、業務上も、また人間関係でも何らマイナス要素はない。入社時に3カ月の試用期間を設けていたが、業務に就いてみると、これまでの知識や経験がそのまま役立たせることができ、試用期間はわずか3週間で終了。給与面でも期待以上の結果となった。

「もし最初に仕事に就こうとしたあのころ、【人材バンクネット】のようなサービスを見つけ、企業にも精通したコンサルタントに出会うことができたら……と思いましたね。これまでの苦労はなんだったのだろうと(笑)。ともかく、今は適切な情報とアドバイスのおかげで、快適な職業生活を過ごすことができています」

 今、森田さんは、さらなるスキルアップを目指して、仕事のかたわら法務関係の資格取得やスキルの獲得のための勉強も始めているのだという。

 

「今の会社は、役員の方からして、ひとつの会社にこだわらず、スキルアップして上を目指すことを奨励してます。企業と個人とは良好な状態で、お互いが過度に依存せず、依存されずというお付き合いを通されているのです。これも、新しい働き方のように感じられますし、大いに共感しています。しかし、まずは現在の業務を早く覚えて、完璧にこなせるようになることが第一目標。ここに来て、私の第一章が終わり、今第2章が幕を開けたという、そんな印象で仕事をしています」

コンサルタントより
株式会社ネオキャリア
 マネージャー・キャリアアドバイザー 大脇盛弘氏
明るく積極的な人柄が
経験不足のハンデを補う

滝山一夫氏

 森田さんに初めてお会いした際、それまで法律事務所でのご経験を生かしつつ、これからは企業法務

の仕事をやってみたいというご意向をおっしゃっていました。ですが、法律事務所の業務と企業法務では仕事内容にギャップがあり、事実上、未経験での転職になってしまう点では不利だったかもしれません。一般的には未経験者でのキャリアチェンジは、20代であればほとんど問題になりませんが、年齢が高くなればそれだけ案件が少なくなってくるのは事実です。

しかし、企業はそうしたキャリアだけを見て採用するとは限りません。職場に入ってうまくやっていくことができるかという、その方の人間性、パーソナリティを重視する場合も多いのです。

森田さんとお話をさせていただきまして、私がまず気が付いたのは、コミュニケーションスキルが高い点。つまり、企業法務において不可欠な現場での調整能力をお持ちである点です。相手に対して適切な応対ができ、加えて、積極的に挑戦する意欲があるということで、未経験というハンデを乗り越えてアピールできるのではないかと思い、ともかくいろいろな会社に挑戦してみることをお勧めしました。

幸い、森田さんは各種コンテンツビジネスに興味をお持ちのようで、それが今回紹介させていただいた企業の社風にマッチしていることもあって、双方ともに好感を持って受け入れておられるようです。

我々は、こうした求職者それぞれの人柄、趣味や指向性までを把握して、それを活かせるような案件を紹介することで、より満足度の高い転職が可能になると考えています。こうした微妙な部分での調整は、どうしても個人の情報収集だけでは限界がありますので、企業とリレーションが強い人材バンクなどを利用するのは適切な方法でしょう。

今、企業の採用意欲は全体的に上昇しており、未経験者可の求人も増えてきています。キャリアや年齢など、不利な点があるにしても、ひるまず積極的に行動することで道が開けるケースも増えてきているのです。とにかく前向きな姿勢こそが、最大のアピールポイントなのです。

 
プロフィール
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埼玉県在住、33歳。大学卒業後司法試験に挑み、3年間勉強を続けるも失敗。受験勉強をしていた期間、アルバイトとして働いていた法律事務所の経験を活かし、その後、個人経営の法律事務所に正社員として入社。そこで6年間働くが、個人経営の事務所では、それ以上のキャリアアップは見込めないと弁護士、事務職を含め総勢60人ほどの法律事務所の受付に転職。しかし、職場環境や人間関係になじめず2カ月程度で退社。現在はIT企業の法務職として精力的に業務をこなしている。

森田さんの経歴はこちら
 

これまで以上に多くの弁護士が社会にあふれる状況(※1)
2006年度から新司法試験が開始され、その合格者数は1009名だった。法学未習者が法科大学院を卒業する2007年度の新司法試験の合格者数はこの2倍程度が一応の目安とされている。

 

私の考えていた条件(※2)
今回の転職にあたり、森田さんが考えていたことは、 1.先行きを考えて長く勤めることができる仕事として企業の法務職を希望 2.とにかく法律に関する仕事がしたいということだけで、業界にはこだわらない 3.企業法務は未経験なので、給与などの面での希望は持たない だった。

 

さまざまな要素で総合的に評価される(※3)
実際に面接を受けた企業は、スキル面もさることながら、社内での人間関係がうまく構築できるかどうかという点も重視していた。スキルと人柄のいずれかに比重が置かれるかは、その企業の考えによってまちまちだ。その点で、森田さんの人当たりのよい態度は、この企業に推薦できるのではないかと、大脇コンサルタントは判断したという。

 

1次の面接では(※4)
面接の前日、大脇コンサルタントから電話とメールで「カジュアルな会社なので、気負わず、素直に自分を出せば大丈夫」といったアドバイスをもらっている。「会社の社風など、書面などではわからないところをフランクに聞くことができたという点でも、コンサルタントの存在は大きかったかもしれません」。

 
取材を終えて

 入社前は、給料面などの条件を積極的に詰めて話すことがはばかられ、入社してから、考えていたことと食い違っていることに気づくということはよくあることでしょう。また、職場の人間関係といったことも、入社して初めてわかることです。

しかし、こうしたトラブルが実は就職を失敗と感じる大きな要因であり、入社前にこそ実態を知っておきたいことのはずです。

森田さんも、その点で大変な失敗を経験してしまいました。そんな森田さんが最後に理想的な職場に、それもすみやかにたどり着くことができたのは、やはりご本人が、法曹界の状況を冷静に判断して、法律事務所から企業法務へキャリアチェンジをしようと決めたことと、自分に合った人材バンクと出会え、適切な情報を受け止めることができたことに大きな要因があると思います。

ご本人も「あっけないほど簡単に決まりました」というように、本当に自分に合った仕事は、案外すぐ近くにあるものなのかもしれません。その情報を素早く適切にキャッチすること。これが明暗を分ける大きなポイントであり、その意味で、人材バンクの存在は大きいと改めて実感しました。

 

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