「もう意地になっていましたね。同期の者が休職していく中、自分だけは決して遅刻はしないと決め、毎日朝8時20分までには会社に行っていました」
しかし、そうした奮闘をよそに、経験豊富なチームメイトからは、北原さんたち、外から来た新人たちの仕事の遅延に業を煮やしていた。
「仕事ができないなら、努力して覚えろ。おまえたちの分まで我々が尻ぬぐいをしなければならないということを少しは考えたらどうだ」
──持てる時間のすべてを費やしているのですから、さらに学べ、習得しろといわれても、できることではありません。学ぶ時間をください。
「時間に余裕はない。個人で努力してもらうしかない」
──それではいつまで経っても覚えることはできません。
まさに収束のつかないパラドックス。職場の体制が、崩壊ギリギリのところまで来ていた。そんな中、北原さんが密かに考えていたのは、このプロジェクトから外れることだった。
「正確にいえば、プロジェクトから外れるではなく外されるということです。つまり、自分から動いて別の場所に移ることは難しい状況でしたから、見るに見かねた別の部署の上司に拾ってもらうことを期待していました。実際に私たちはプロジェクトのお荷物になっていましたから、会社の側からも私たちを外して、別の人材を投入した方がよかったはずです。私たちの残業時間もハンパではなかったので、残業代(※5)だけでもバカにならなかったでしょう」
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