キャリア&転職研究室|転職する人びと|第5回・後編 29歳女派遣 貫き通したこだわり

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  普通の人HOTインタビュー 転職する人びと    
       
 
一年間に転職する人の数、300万人以上。
その一つひとつにドラマがある。
なぜ彼らは転職を決意したのか。そこに生じた心の葛藤は。
どう決断し、どう動いたのか。
そして彼らにとって「働く」とは—。
スーパーマンではなく、我々の隣にいるような普通の人に話を聞いた。
第5回 後編 山本絵里さん(仮名) 29歳/営業事務
年収150万円アップで正社員へ復活転職!29歳女性派遣 貫き通した「こだわり」
前職で働くことに前向きになれた山本さんは、再び正社員への道を目指すことを決意。しかし転職活動の過程で派遣社員であることが予想以上にネックに。激しく落ち込むが、最後まで自分を信じた心の強さが幸運を呼び込んだ。
転職活動開始。スカウトメールで
運命のコンサルタントと企業に遭遇
 
 2004年11月、派遣社員の事務員として大学に勤め始めて3年半が経とうとするころ、転職を決意した山本さん。狙う職種は引き続き事務職。この3年半で事務処理能力に磨きをかけ、「英語力(※1)」という新しい武器も身に付けた。事務職として新しい可能性を狙うのもいいと思った。今回は業界・業種のこだわりはなかった。

 「二つの職場を経験した結果、仕事選びには、業界や扱う製品ではなく具体的な業務内容の向き不向きが大事だと感じたからです。ただ業務内容が自分に合ってるか、やれそうか、だけをポイントに転職先を考えました」

 条件面でこだわったのは、まず労働時間。残業を強制する会社は避けようと思った。

 「『働くのが当たり前』という考え方や環境は好きじゃないんですよね。でもただ単に残業をしたくないということじゃありません。残業するかどうかは本人の意識の問題。私の場合、それは仕事が面白いかどうかで決まります。最初から残業を前提にされるのは、私の仕事に対する意識を無視されているようで素直に働くという気になれないんですよね」

 年収面でも基準を設けた。現在の年収より最低でも100万円はアップさせたい。それ以下なら転職するリスクに見合わない(※2)と思ったからだ。

 試しに大手転職サイトが実施している「年収査定」をやってみた。結果は480万円。これまでの年収が200万円台。これならなんとかなるかも。自分の市場価値に自信をもった。

 しかしその自信は転職活動開始後、すぐに打ち砕かれる。ネックになっていたのは「経歴」だった。

 「今回応募した企業は全部で14社、そのうち10社は書類審査の段階で落とされたんです。中には『派遣期間はキャリアとして認められない』とか、『正社員の経験が○年以上ないとダメ』とか、『大学の経理は特殊だから一般企業の経理としては通用しない』などの理由もあって、とってもショックでした」

 やはり自分のキャリアでは一般企業の正社員復帰は無理なのか。心底落ち込み、一時期転職活動も停滞気味になった。しかし山本さんはあきらめなかった。

 「条件的に妥協して『入れる会社』に転職しても、絶対また転職したくなりますよね。不安に押しつぶされそうになったときには、絶対私には正社員になれる能力はあるはずと、自分を信じるようにしました」

 根拠なき自信だったら最後までもたなかったかもしれない。しかし大学で働いた3年半で身に付けたスキル、磨きをかけた事務処理能力に対する自信は確固たるものになっていた。雇用形態に関わらず、私自身を評価してくれる会社が必ずあるはず。そう信じて、続々届く不採用通知にもめげず、キャリアシートのブラッシュアップを続けた。

 そんな中、一通のスカウトメールが届いた。その内容を一読してピンときた。送り主は株式会社 渋谷人材の吉村穣二コンサルタントだった。

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 「まずスカウトメールに書かれてあった求人が、私の希望していた事務職(英語を使う営業事務)だったことが大きいですね。あとはスカウトメールの文面から、私の経歴・スキルをちゃんと読んで評価した上で、求人を紹介してくれていると思えました。実際、メールで『あなたは事務処理能力が高い』と言われたんで

す。ほんの何回かやり取りしただけで、私の強みを見抜いていると信頼できたので、すぐに面談に行きました」

 吉村氏との面談は、紹介する企業、仕事内容についての詳しい説明がメインだった。食品輸入会社の営業事務という職務内容や、小規模だが堅実な経営で業績を伸ばしているという企業情報を聞いて、その場で応募を決めた。なにより衝撃的だったのが吉村氏の口から発せられた次の一言だった。

私がイチオシだといえば、内定は決まったも同然(※3)だから」

 その言葉がハッタリでないことは10日後に明らかになった。

一次面接終了後、その場で内定
コンサルタントもびっくり
 
 2月14日に行われた一次面接。企業側からは、直接の上司となる課長、常務、そして社長の3人が出席。話の内容はほぼ会社や業務の説明だったが、吉村氏が同席して、さりげなくフォローしてくれたこともあり、終始なごやかな雰囲気の中、面接は進んだ。

 山本さんが気をつけたことは、スキルや能力をアピールすることではなく、好印象をもってもらえるような人柄をアピールすることだった。

 
 「まずフランクな会話で、人見知りしない性格を出そうと心がけました。その上で『冷静に物事を考えられ、業務を遂行する事務能力を備えており、また物怖じせず周囲と気さくに接する社交性もある』──。そういう人物像を伝えられるように努めました」

 スキルや経験は職務経歴書を読めばある程度分かる。実際に企業の採用権を握る人物と会って言葉を交わせる面接でアピールすべきは人柄だ。大手人材バンクのあるコンサルタントは「面接でもっとも大事なことは、一緒に働きたいと相手に思わせること」と語る。この点で山本さんは成功したといえる。

 
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 そして40分弱で終了した面接の後、面接官たちはいったん退室。3分後に戻ってくるとその場で「内定」が告げられた。もちろん山本さんもその場で了承(※4)

 「面接の最後に『上司の海外出張に同行できますか?』と聞きました。すると、『まだ女性社員の出張の前例はないが、仕事ぶりを見てできそうだと判断すれば、その可能性は十分にある』という答えが返ってきました。この返答でセクションにこだわらない柔軟な社風を感じ、入社したいと強く思いましたね」

 基本的に残業なし、年収は150万円アップと条件的にも申し分なかった。

 

 「バレンタインデーにお互い振られなくてよかったね」

 面接後、社長が笑って言った。山本さんも微笑みながら同意した。

 
  応募:14社
面接:4社
内定:1社
仕事に派遣も正社員もない
派遣でも得られるものは必ずある
 
 経産省の調査によると、2004年度の中途採用市場におけるミスマッチの割合は6割。4割の転職希望者は応募しても採用にまで至っていないという。しかもそのうち9割以上が、中途採用市場の中心をなす従業員50人未満の中小企業で起こっている。

 そんな中での一発内定。企業と山本さん、双方の希望がぴったりマッチした幸運なケースといえるだろう。事実、担当コンサルタントの吉村氏にとっても、一次面接終了後、その場で内定が出たことは初めてだという。

 かくして派遣から正社員への転職を成功させた山本さんは、その理由をこう振り返る。

 「雇用形態に関わらず、目の前の仕事に懸命に取り組んできたからじゃないですかね。一番やってはいけないのが、自分で自分を、派遣という立場をバカすることだと思います」

 どうせ派遣だから──そんな投げやりな気持ちで誰にでもできる仕事をやり続けていても、スキルは身に付かないし、成長できない。それではいざ正社員になりたいと思ったときに、アピールできる材料が何もなく、面接にすらなかなかたどり着けない。

 
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 最後に山本さんは身を乗り出しながらこう言った。

 「仕事をするのに派遣も正社員もありません。派遣でも得られるものは必ずあります。どんな姿勢で仕事に取り組み、何を身に付けたかを自信をもって語ることができれば、派遣期間が長くても、正社員への転職は十分可能です」

 
   
取材メモ 山本さんにとっての働くということ
  仕事は自分の世界を広げてくれるもの  
働くことで、日常生活では会えないような人と会って交流できるので、自分の世界が広がります。また、プライベートだったら絶対に友達になりたくないと思うような人とも、仕事ならうまく付き合っていかなくてはなりませんよね。そうすることで対人能力などが鍛えられます。
  目標は女性初の海外出張  
転職先の会社では、これまで海外出張を任されたことのある女性はいないので、その第一号になりたいですね。なにせ任されることが好きなので(笑)。仕事の領域が広がれば責任も大きくなりますが、責任から逃れたらおもしろい仕事はできません。仕事をおもしろくするのは自分自身なんですから。
  仕事だけの女にはなりたくない  
 
「仕事だけが生きがい」の女性にはなりたくありません。女性にしかできない誇れる能力は出産。それなのに、子供を産まないで仕事だけに全精力を傾ける女性は、いくら仕事ができて稼げる人でも私から見れば全く尊敬できないし、魅力的にも映りません。私は33歳くらいまでには子供を産みたいと思っています。  
「仕事と家庭の両立が目標」と語るだけあって、『とっておき快適家事術』が愛読書
 
コンサルタントより
株式会社 渋谷人材
 吉村穣二氏
コンサルタントphoto
  事務処理能力の高さと
仕事に対する姿勢が決め手
 
 山本さんは実際にお会いする前からビジネスの基礎能力の高い人だなと思っていました。

 というのは、面談までにメールで10回ほどやりとりしたのですが、その中身がすばらしかったからです。

 まずレスポンスの速さ。こちらがメールを送ったら、即返事が返ってきました。できるビジネスマンは何事においてもスピーディーですからね。

 また、メールの内容も質の高いものでした。まず文章力。伝えたいことが論理的に書かれおり、さらに読み手に内容を簡単にイメージさせる文章で、非常に分かりやすかったです。

 そんなわけで、すでに面談前からかなり好印象を抱いていたのですが、直接会って話をすると、「聴く力がある人」でますます評価は高まりました。自分のことをしゃべることに夢中で、人の話をちゃんと聴けない人って案外多いんです。もちろん、話す内容もしっかりしていました。いわゆるコミュニケーション力が非常に高い人でしたが、ただ上っ面だけまじめに上品に話すだけではなく、正直でユーモアさえあり話していて楽しいと感じました。面接ではここが非常に大きな武器になるんですね。

 山本さんには、香料や食材を扱う商社の営業サポート職を紹介したわけですが、仕事の内容は単純な事務作業ではなく、海外の取引先とのやり取りやデータの集計など、その働き如何で営業マンの売り上げが左右されるほど重要な仕事です。山本さんには商社での営業事務の経験はなかったのですが、事務処理能力の高さ、仕事に対する取り組み方などを鑑みても全く問題ないと判断しました。

 当時山本さんは派遣社員でしたが、そんなことは私にとっても紹介先企業にとっても全く関係なかったですね。大事なのは雇用形態ではなく、「これまで何の仕事をどうやってきたか」「今、何ができるか」「これから何ができそうか」ですから。

 今ちょうど前任者との引継ぎが終わって、独り立ちしたところだと思いますが、山本さんなら将来きっと会社の中心を担う人材に育ってくれるものと確信しています。

 
プロフィール
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東京都出身の29歳。大学卒業後、子供服メーカーに入社。約1年半営業として勤めた後、退職。その後某大学の事務職の派遣職員として3年半務める。今年4月から輸入食材を扱う商社に転職(写真は本人)
山本さんの経歴はこちら

英語力(※1)
職場には留学希望者からの国際電話も頻繁にかかってきたり、海外の研究者を迎えることもあった。そのため入職後すぐ英会話スクールの1カ月の短期集中コースに通い始めた。そのほかにも外国人教授に積極的に話しかけたり、メール交換は英語にしたり、毎年恒例のアメリカから研修生を迎えるパーティにも担当外であるにも関わらず出席したりと、英会話能力を磨いた。そのかいあって、2002年11月に受けたTOEICでは745点を獲得するまでにレベルアップした

転職するリスクに見合わない(※2)
「年収アップ額が100万円以下なら、最高の職場環境を捨ててまで転職する意味がないと思っていました」(山本さん) 年収アップの大きな目的のひとつとして、「英会話スクールに本格的に通いたい」など、自己投資があった


















「私がイチオシだといえば決まったも同然」(※3)
渋谷人材・吉村コンサルタントは、元食品会社の営業マンで、紹介先の企業に人材を紹介した実績をもつだけではなく、営業部員の教育をも請け負っていた。そんな企業と強固な信頼関係を築いていた吉村氏ならではの発言。人材バンクを利用すると、こんな心強いコンサルタントに出会える可能性もある。














          
その場で了承(※4)
■内定を受けた決め手
1.自分の枠を広げられそうな社風
2.興味が持てる事業内容
3.これまで培ってきたスキル、経験を
  生かせそうな仕事
4.社員15名程度の中小企業だから
  全体が見られそう
5.小さいながら歴史のある会社で、
  経営も安定
6.他の社員と話したが、人柄がよさ
  そう。
7.育児休暇など、結婚して子供がで
  きても働けそう
8.残業がほぼない

 
 
取材を終えて

 今回、山本さんに取材を申し込んだきっかけは、送られてきた一通のメールでした。
このときのテーマは「やっててよかったこの仕事」。「一度は正社員の仕事に疲れ果て派遣社員になったけど、そこでの仕事や職場雰囲気が最高で再び働くことに前向きになれ、再び正社員に挑戦する決心がついた」という内容のコメントでした。

 「図書カードプレゼント」の当選メールを送ったところ、「即」返事が返ってきました。そのメールに「転職が決まりました」と書かれてあったので、取材の申し込みをしたというわけです。

 わざわざ編集部までお越しいただいた山本さんは、写真をご覧いただければ分かるとおり、とてもチャーミングで魅力的な女性でした(今回は当企画初の本人の顔写真掲載OKをいただきました!)。

 取材でのやりとりでは、こちらの質問に的確に、ユーモアも交えてお答えいただきました。例によって長丁場の取材になってしまいましたが、終始笑いが絶えることはありませんでした。

 山本さんは正社員での仕事に疲れ、派遣社員になりました。見方によっては「逃げ」のように映るかもしれません。しかし仮に「逃げ」だとしても、いったん逃げたからこそ、再び正社員にチャレンジする気力を得たともいえます。

 耐え難いストレスを感じつつガマンしながら働き続けていれば、または同じような職場、職種を選んでいたら、つぶれていた可能性は高いでしょう。「楽しい職場で仕事をすることで、再び働くことに前向きになれた」との言葉から、職場環境、そして職種との相性はとても重要なんだと再認識できました。

 新天地で今度はどこまで限界を広げられるのか、今後がとても楽しみです。

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