現職に就いて4年。仕事そのものは好きだけど、ずっとこのままというわけにはいかない。そろそろ次のステージに行きたいという欲求が頭をもたげてきた。
考えられるキャリアパスは二通り。ひとつは、システムを動かすオペレーターなど技術系に転進する道。だが顧客に会う可能性は皆無に近くなる。
しかし一度技術を勉強してみるのも今後のプラスになるかもしれない。そんな思いでITエンジニア系のいくつかの資格を取得しようと勉強を始めた。しかし半年で挫折。
「勉強してても全然楽しくなく、苦痛でしかありませんでした」
私には向いていない。そう判断した鈴木さんは資格取得を断念。しかし、このチャレンジが後に効いてくる。
残るもうひとつの道はやはり対顧客の業務。あくまで本命はこちらのコース。基本は現職と変わらない。違うのは、顧客と「直接会って」トラブルの解決に取り組んだり、相談に乗ったりするという点。いわゆるアカウントマネジメント【注3】と呼ばれている仕事だ。アカウントマネジャーは、顧客のところへ自社の代表としていく。プレッシャーもあるが、やりがいも大きい。
「顧客サポートに限ったことではありませんが、やはり人間同士は直接会って話すのが一番ですよね」
しかし、会って直接説明したいと思っても、現状ではヘルプデスク担当者が顧客と会うことは禁じられていた。そこで社内の営業担当者と夜勤明けでも食事に行くなどしてコネクションを築き、顧客に会えるチャンスをできるだけ増やす工夫をしていた。
「一度お会いしたお客様は、その後の応対が全く違うんです。ただ怒鳴り散らすだけだった方が、こちらの話をよく聞いてくれるようになったり。やはり直接会って話したほうが、サポートも格段にしやすくなるんですよね」
会って話せば心も通う。やはり私は顧客と直接会ってサポートする業務【注4】に就きたい──。
そんな思いは日増しに強くなっていった。
だが、社内はオープンポスト制にはほど遠く、周りを見渡しても部署異動願いが通る可能性はほぼゼロに近かった。
やりがいと誇りを感じられる仕事、一方で募る会社への不信感と見えないキャリアパス。その危ういバランスが崩れ、後者が前者を上回ったとき、鈴木さんは転職を決意した。
「できることなら辞めたくなかった。しかし、デメリットがメリットを上回ってしまった。それだけです」
この会社でこの先10年勤めることはありえない──。
鈴木さんは転職を決意した。2004年4月、30歳の春だった。
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