他のみんなはどうやって転職活動をしているんだろう──。
悩んだ鈴木さんは信頼できる会社の同僚に相談してみた。するとその同僚も転職活動中だった。12月の新しい上司の赴任以来、社内には転職活動者が続出。そんな転職仲間の輪が広がっていった。
「社内にこんなにも転職仲間がいるとは想像もしていませんでした。仲間の中には違う部署の人もいたりして、情報をいろいろとくれました」
急速に広がる仲間の輪はメーリングリスト(ML)まで生み出した。その名も「エクソダス=脱出」。会社からの、そしてこの閉塞した状況からの脱出。転職仲間のMLにこれほどしっくりくる名前もないだろう。
この「エクソダス」が鈴木さんに新たな光明をもたらした。メンバーのひとりが困っている鈴木さんに中国人の女性ヘッドハンターを紹介。この出会いで転職に対する意識が180度変わった。
「面談した際に、今のあなたではどんな企業も買ってくれない、商品にならない、市場価値がないなど、ボロカスに言われました。自分は価値がない人間なんだと、家に帰って泣きました」
彼女は年収1,000万円超クラスのビジネスマンしか相手にしないヘッドハンターだっただけに、その言葉が厳しいのも当然だった。会う人を間違ったのでは・・・と思いがちだが、鈴木さんは逆にこの出会いに感謝している。
「彼女に何ができるの? あなたの売りは何? と聞かれたときに、うまく答えられなかったんです。キャリアの棚卸しから売り込みの方法まですべてが甘かった。私のキャリアがどうこうという以前の問題ですよね。おかげで、転職において自分は"商品"なんだと明確に割り切れました。今思えば彼女との出会いが本当の出発点になったんですね」
これまでは書類選考や面接に落ちるたびに落ち込んでいた。経験者なら痛いほどわかると思うが、「選ばれなかった」というショックは結構大きい。しかし、自分は商品だと割り切ればいちいち落ち込む必要はない。落ち込むヒマがあったら、売れるように少しでも工夫しよう。
そう思ったとき、気がついた。自分が商品だとすると、職務経歴書や履歴書は自分を包むパッケージ、もしくはパンフレット【注6】だ。それらが魅力的でないと、だれも商品を購入してみようとは思わない。つまり面接→採用に至りにくいということだ。
でもどうすれば自分をより魅力的にラッピングできるのだろう・・・・・・。インターネットや求人雑誌とにらめっこしたりして、試行錯誤するもやっぱりよくわからない。そんなある日、転職仲間との雑談中にある友人がこんなことを言った。
「転職サイトもいろいろあるけど、私には【人材バンクネット】が一番ね」
【人材バンクネット】? なにそれ?
いつの間にか外からはセミの声が聞こえ始めていた。
(以下次号「後編」に続く)
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