キャリア&転職研究室|転職する人びと|第1回・後編 32歳からの新たなる挑戦

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普通の人HOTインタビュー 転職する人々
第1回 佐藤宏さん(仮名)32歳/経理部
目標を定めてキャリアを構築 32歳からの新たなる挑戦(後編) コンサルタントのアドバイスに従い、軌道修正した佐藤さんは、3度目の転職を成功させる。同時に、税理士試験にも合格。この5年間の平均睡眠時間はなんと3〜4時間。目標をしかと定め、戦略を練り、粘り強く実行することで道を切り開いてきた佐藤さんの現在、そしてこれからを聞いた。
自然体で臨んだ面接 戦略どおり内定ゲット
 経理職も選択肢の中に含め、改めて提示された案件は10件。そのうちの6件に応募書類を提出した。会社選びのポイントはただひとつ。自分のキャリア形成に有益な会社か否か。

 「目標にたどり着くために有益な仕事が、その会社でできるか、できる規模か、可能性があるかという視点で見ていました。単なるルーティンワークしか想像できない会社は考慮外でした」。目標はあくまでもCFO【注1】。単なる経理ではない。

 応募した企業のうち、面接までこぎつけたのが2社。そのうちの一社、カリスマ経営者が指揮を取る大手IT系企業の関連会社に新天地を求めた。2003年も幕を閉じようとする12月のことだった。内定を勝ち取った理由を佐藤さんはこう自己分析する。

 「自分を客観的に売り込んだからじゃないでしょうか。できることとできないこと、これまでやってきたことと、これからどうなりたいかを正直に話しました。自分自身をありのままに語り、背伸びをしなかった。【注2】それで結果的に不採用になってもいいと思ってました。今の実力が分かるから【注3】

 面接後も特に手ごたえは感じなかった。「面接は単なる両者のマッチングの問題と考えていました。

 
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面接では背伸びせず、ありのままを話した佐藤さん。それは開き直りではなく、戦略に基づいての行動だった(写真はイメージ)
“手ごたえ”というのは私の方に“雇ってほしい”という気持ちがあるときに発生するので、面接後も“どうだったかな?”くらいしか考えませんでした」

 さらっと語る佐藤さんだが、この思考・行動を実践するのが困難であることは、実際に転職活動をされた方なら分かるだろう。面接の場ではつい現状よりも自分をよく見せようという意識が働く。また「その会社でこれからどうなりたいか」を明確に答えることも易しいことではない。

 「今までやってきた仕事をすべて話し、面接を受けているこの会社なら自分に足りない部分(具体的には連結決算、株式公開など)を身に付けることができる、だからこの会社でなければだめなんだ、というようなことを話しました」

 年収交渉はコンサルタントを通しても、直接でも全くしなかった。その理由は「まずは入社してキャリアを積むことが先決」と考えていたから。それも目標に確実に到達するためのひとつの戦略だったのだろう。

 しかし内定に至る道のりは決して平坦ではなかった。8月に転職活動をスタートして、内定を獲得したのが12月。かかった期間は5カ月だが、その間も税理士の勉強は継続している。その間、何度か不安に陥ったこともあった。そんなとき、支えてくれたのがイムカ株式会社のコンサルタント・藤崎氏だった。

 「不安を感じたときに藤崎さんに電話したら、じゃあ話を聞きましょう、とすぐに会ってくれました。いろいろと相談したら気持ちが楽になりましたね」。その後も藤崎氏は最後までメールや電話で相談に乗ってくれたという。

 内定を獲得した2003年冬には、もうひとつの努力が実った。税理士試験【注4】に合格。5年越しの「サクラサク」である。

 
5年越しの努力が結実 「男の意地」で税理士資格取得
 最初の転職以来、昼間は会計事務所で経理の業務をこなしつつ、夜と土日は専門学校で税理士コースの授業、さらに自宅に帰って深夜まで勉強と、文字通り寝る間を惜しんで走り続けてきた。平均睡眠時間は3〜4時間だったという。

 「やはりキツかったですね。3時間くらいの睡眠ではどうしても仕事中に眠くなるので、眠気を抑える薬を飲みながら仕事をしていました」

 まさに樋口一葉ばりの根性。しかし、合格を勝ち取るまでに、一度も迷いが生じなかったというわけではない。

 「さすがに5年目の年は、これでダメだったら、税理士資格への挑戦には一度区切りをつけて、事業会社への転職に集中しようかとも思いました。年齢的にそろそろヤバいと思っていたので」

 しかし、資格は仮にあきらめたとしても、勉強そのものをやめるつもりはなかった。「資格はあくまでも資格。形にすぎません。経理・財務職は一生勉強ですから【注5】

 結果的に自分で決めた最後のチャンスで合格を勝ち取ったわけだが、どうしてここまで頑張ることができたのだろう。5年もの間、佐藤さんを支え続けてきたものとは一体何だったのか。

 「給料が激減するのを承知でこちらの道を選んだのは、他でもない、自分自身。自分で決めたことを途中で投げ出しちゃったら、その後もだらだらと不本意な人生を送ってしまいそうな気がして・・・・・・。男の意地じゃないけれど、それだけは絶対にイヤだったんです」

 そんな意思の強い人だから、これまでも自ら高いハードルを課し、乗り越え続けてきたのだろうと思いきや、意外や意外。

 
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5年の月日と男の意地でもぎ取った税理士の合格通知。合格を知った瞬間は「とにかくホッとしました」

 それまでの佐藤さんには「これをやった!」と他人にも、そして自分にも胸を張って誇れるものがなかったという。税理士資格取得は「これまでの妥協だらけのゆる〜い人生」【注6】に決別するための挑戦だったのだ。また、長年応援してくれた妻のためにも【注7】途中で投げ出すわけにはいかなかった。

 5年間の苦しい道のりの果てに得たものは、税理士の資格だけではない。それは自信。

 「これから先、何か困難なことにぶちあたったときでも、たいへんだろうけど頑張れば乗り越えられるだろう、と思えるようになりました」

 もしかするとそれは、今後の人生を歩んでいく上で、資格以上に貴重な収穫といえるかもしれない。

 
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プロフィール
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昭和47年1月、宮城県仙台市生まれの32歳。経理職。過去の転職歴は3回。現在CFOを目指して奮闘中。

【注1】目標はあくまでもCFO
ちなみにその先、例えばCEOを目指す気はないのかとの問いには、「会社全体を見るCEOよりは、職人肌のイメージのあるCFOにこだわりたい」との答えが返ってきた。この辺りに、経理・財務職ならではのこだわりが見え隠れしていて興味深い。

【注2】 自分自身をありのままに語り、背伸びをしなかった
「素直に自分の経験してきたこと、経験していないことを話していたので、できないことを聞かれても動揺はしないし、冷静でいられました。相手に変な疑問は持たせず、雰囲気が悪くなったことも当然ないですね」

【注3】今の実力が分かるから
目的地へ確実に到達するためには、まず現在地が分からなければスタートのしようがない。あやふやなまま歩き出せば漂流か遭難するのがオチだ。まず現時点での実力が把握できれば、目標にたどり着くための戦略が立てられる。また、たとえ不採用になっても、その理由が分かれば自分に足りないものが分かる。ここでひとつ収穫だ。その後は不足分を補うためにはどうすればいいか戦略を立て、実行する。そんなトライ&エラーの繰り返しが成長につながるのだ。ちなみに人材バンクを利用すると、不採用の理由がコンサルタントを通して明確になる。こんな点も直接転職にはないメリットのひとつだ。

【注4】税理士試験
国税庁税理士審査会が実施する国家試験。会計科目2科目(簿記論、財務諸表論)と、法律科目3科目(所得税法、法人税法のいずれか1科目必須、そのほか相続税法、消費税法、地方税法などの中から2科目選択)に合格して晴れて資格取得となる。合格率は、10%〜15%の狭き門。ちなみに佐藤さんが受けた年の合格率は16.7%(受験者数81,170人)

【注5】経理・財務は一生勉強
猫の眼のように変わる商法や税法に加え、国際化や経済構造の変化に伴う金融・会計制度の度重なる改正。経理・財務の仕事はそれらの変化にもろに影響を受け、年を追うごとに複雑化・高度化している。そんな急激な変化に対応していくために、日々の業務に加え、常に新しい知識の習得を余儀なくされるのが経理・財務マンなのだ。その点、「仕事をしながら勉強する」ことを5年間も続けてきた佐藤さんは、半ばそれが習慣化しており、全く苦にならなくなっていたというわけだ。この先キャリアを積んでいく上で大きな武器になるだろう

【注6】これまでの妥協だらけのゆる〜い人生
佐藤さんは大学院で国際法を専攻していたが、そのまま大学に残って研究者を目指す道を断念して、コンサルティング会社への就職の道を選んだ。結婚を考えていたこともあり、研究者を目指しても生活できるレベルになるまで時間がかかることが主な理由だ。それも佐藤さんにとっては「妥協」のひとつになっている

【注7】妻のためにも
妻の協力なしには佐藤さんの成功はありえなかった。年収ダウンが確実な最初の転職から、税理士合格まで転職に反対されたことは一度もない。その都度必ず妻に相談したが、給料についての質問は一切出ず、『どういう仕事なの?』『あなたのやりたいことはできるの?』といったことしか聞かれなかったという。もちろん佐藤さんも「この先こうなりたいから、今こうしたいんだ」という説明はきちんとしていたというが、やはり佐藤さんへの信頼があってこそのことだろう。また、妻自身も病院の臨床検査技師として働いており、勉強しつつ、キャリアを積み上げていくというスタイルに理解があったことも大きい。佐藤さんも「専業主婦ではとてもこうはいかなかったと思います」と語っている

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