キャリア&転職研究室|転職する人びと|第1回・後編 32歳からの新たなる挑戦

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普通の人HOTインタビュー 転職する人々
第1回 佐藤宏さん(仮名)32歳/経理部
目標を定めてキャリアを構築 32歳からの新たなる挑戦(後編) コンサルタントのアドバイスに従い、軌道修正した佐藤さんは、3度目の転職を成功させる。同時に、税理士試験にも合格。この5年間の平均睡眠時間はなんと3〜4時間。目標をしかと定め、戦略を練り、粘り強く実行することで道を切り開いてきた佐藤さんの現在、そしてこれからを聞いた。
5年後10年後の自分像をイメージ 自ら動いてレベルアップ
 税理士資格を取得し、事業会社の経理職への転職も成功させた佐藤さん。
登山に例えれば、頂に立つために必要な道具をそろえ、知識、スキルを身に付け、今ようやくベースキャンプまでたどり着いたというところだろう。費やした時間は5年間。決して短期間ではないが、3年前より一昨年、一昨年より去年と、確実に近づいている。あとは目標を見失わず一歩ずつ歩いていくのみだ【注8】

 2005年も幕を開け、入社してそろそろ1年が経とうとしている。これまで実際に働いてみた感触はどうなのだろう。

 「ほかのスタッフの動きを見ていると、自分のやるべきことや今後のために必要なスキルが分かるので、それを今習得中です」

 教えられるのを待つという受身の体勢ではなく、積極的かつ能動的に自分から動いて、貪欲に吸収していく。自分のキャリアは自分で築くという佐藤さんの姿勢はこんなところにも現れている。

 「今の会社は経理の枠の中だけで仕事をやっていればいいというわけではなく、いろんな部署を巻き込んでいけるのでうれしいですね」

 
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与えられた業務だけでなく、部署の垣根を越えて仕事をこなしていくことは、自分自身のワクを広げ、レベルを上げることにもつながる。佐藤さんはまさに今それを実践中だ(写真はイメージ)

 通常の経理業務以外にも関われる業務が多いので、キャリアを組み立てやすい点に満足しているという。例えば、現在勤める会社はM&Aを頻繁に行っている【注9】ので会社の売買の仕方、また、持ち株会社制のグループ企業の経営の仕方など、これまで関われなかった仕事を身をもって体験できる。将来的には株式公開業務にも関われそうだ。その体験のひとつひとつが血となり肉となる。

 中には経理業務の一部分、たとえば原価計算のみを10数年、という企業もあるだけに、早く経営側にステップアップしたい佐藤さんにとっては、さまざまな経験が積めるまさにうってつけの会社といえる。

 さらに、仕事の進め方ややり方について、従来の会社のやり方ではなく、佐藤さんなりの方法論を確立しているようだ。明らかに非効率的な仕事の指示を出されたら、たとえ上司だろうと安易に従わず、意見し、議論する。「言われたことだけやっていればいい」という態度ではとうてい上など目指せるわけはない。

 佐藤さんはあくまで自分らしく、キャリアを積み上げている。

仕事は今後の人生の座標軸 納得の行く人生を送るための指標
 転職を重ねるたびに自分の枠をガリガリ広げている佐藤さんにとって、仕事とは何か【注10】聞いてみた。
「仕事をすることで、目標が立てられますよね。それに向かって頑張っていると、おのずと成長できます。それがうれしいですね」

 仕事の報酬は成長の実感。確かに自分で成長を感じているときは、仕事は楽しいし、よりやる気も出る。しかし、目標は必ずしも達成できなくてもいいという。

 「自分で設定した目標だから、ここまででいいや、っていうふうに、自分で線引きもできるわけですよ。自分で納得できれば。その後は別の目標、別の仕事に変更すればいいだけのことですよね」

 一度決めた目標は何が何でも達成しなければならない──。努力、根性、忍耐・・・・・・そんな呪縛からも自由だ。

 また、自分が最後までこだわれるのはどんな仕事のどんな目標か。それは、今後どういう人生を送りたいかというテーマと直結している。

 「そういう意味で私にとって仕事とは人生の座標軸のようなものです」
仕事選びは人生選びでもあるということだ。

 現在の仕事は楽しいですか? との問いには、「元々何かを調べたり、勉強したりして、新しい知識を覚えることが好きな性格なので、経理の仕事は楽しいですよ」。

 覚えなきゃいけないことはまだまだ山のようにありますけどね、と笑顔で答えてくれた。

 新しい何かを覚えることによって、自分の限界を広げていくことに喜びを見出す佐藤さんにとって、現在の仕事は天職といえるのかもしれない。だがそれは自分自身と真剣に向き合い、血を流しながらつかんだ天職だ。

 今、佐藤さんの前にはさらに急な上り坂が続いている。もちろん舗装された道ではない。しかしどんなに歩きにくい道でも、重いザックを背負ったまま、汗を拭き拭き楽しそうに登っていくだろう。自ら決めた頂に向かって。

コンサルタントより
イムカ株式会社 人材開発事業部
シニアコンサルタント 藤崎克朗氏
コンサルタントphoto 明確な目標、スタンスが転職成功のポイントです
 1年半ほど前になりますが、佐藤さんと初めてお会いしたときのことはよく覚えています。

 コミュニケーション能力や対人能力がとても高い人でしたね。また、相談に来られる方の多くは、自分の枠の中だけで転職先を考えるものですが、当初佐藤さんも例外ではありませんでした。しかしまずは間口を広げて、いろんな可能性を探ってみましょうということで、希望職種以外の職種も提案すると、すぐに受け入れてくれました。この素直さも大きなポイントだったと思います。

 32歳で事業会社での経理・財務経験がないことに加え、一度一般的な事業会社を長く離れた人が再び戻るのはハードルが高い。一般的な会社員としての適性を疑われてしまうきらいがあるからです。そこを超えられたのは、佐藤さんのものの考え方や税理士取得などの努力があったからこそだと思います。

 つまり、最大のポイントは、転職に対するスタンスがはっきりしていたことですね。まず将来目指したい明確な目標があるから、これまでも場当たり的な転職はしてきていない。ここが転職先の面接官にも好印象でした。

 


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プロフィール
昭和47年1月、宮城県仙台市生まれの32歳。経理職。過去の転職歴は3回。現在CFOを目指して奮闘中。
【注8】一歩ずつ歩いていく
「何年後に、どれくらいのポジションで、どのような仕事をしていたいか、ということは大体見えています」と語る佐藤さんのキャリアプランは以下のとおり。「33歳でマネジャー→35歳で経理部長→40歳で役員→40代でCFO」かなりのスピードが要求されると思われるが、従業員の平均年齢が30代なので決して実現困難ではない。現CFOが36歳、社長も40代という若さ。「あとは自分次第ですね」と自ら語るとおり、今後はどれだけ新しく、幅広いスキルを短期間で身に付けられるかにかかっている。

 

 

 

【注9】M&Aを頻繁に行っている
「M&A関連の業務は死ぬほど大変なんですよ。これは売ってこれは残すという細かい作業を朝から延々やるわけです。でもおかげで会社を買うということ、売るということはどういうことかなどを身をもって体験できるのがいい。税理士でもそれほど関われる仕事ではありませんから」(佐藤さん)


 

 

 

 

 

【注10】仕事とは何か
仕事とは? の問いにはこうも答えてくれた。
「生きていくうえで働くことが必要なら、まずは自分が楽しいと思えることを仕事にしたいと思ってます。その結果、自分の仕事で他の人が喜んでくれればいいですね」


取材を終えて

 転職後間もない多忙な時期、仕事を終え、インタビュー場所に現れた佐藤さん。立ち居振る舞いや言動は非常に落ち着いており、「大人オーラ」を身にまとっている感じがしました。

 今回のインタビューでは、あまりの話のおもしろさに当初の予定時間よりも1時間30分もオーバーしてしまいましたが、嫌な顔ひとつせず、快く協力してくれました。その後も決算の多忙な時期に何度か追加質問をさせていただきましたが、その都度丁寧に答えてくれました。

 インタビューをしていて強烈に感じたのがコミュニケーション能力の高さ。こちらの質問に的確かつ論理的に答えていただいたことはもちろん、なにより、聞かれたことにちゃんと答えようという姿勢が随所に感じられ、その誠実さに心を打たれました。

 話の内容は熱くとも、話し振りはいたって冷静。そのギャップも魅力的でした。自分の軸をしっかりと持ち、それに基づいて行動できる佐藤さん。私自身も学ぶところが多かった今回のインタビューでした。

 3年後、再びインタビューしてみたい。そのとき彼は目指す頂にどのくらい近づけているでしょうか。とても楽しみです。

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