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「花田君、ちょっといいかね」
徹夜明けでもうろうとしていたある日の午前10時、花田マサルさん(46歳・仮名)は社長に呼ばれた。なんなんだ、このクソ忙しいときに。それにしてもこの歳で徹夜は応える。今日は早めに帰ろう……。
そんなことを思いながら社長室に入った花田さんだが、社長のひとことに耳を疑った。
「花田君は、私の求めた結果が出せなかった」
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はぁ? 何を言ってるんだこの人は。これまで明らかにキャパを越える仕事を、血のにじむような思いでこなしてきた。会社のために。今日だって徹夜明けなんだぞ。
怒鳴りたい気持ちをぐっと押さえ、「しかし、限られた時間の中で、精一杯頑張って、最大限の結果を出してきたつもりです」と反論した。
しかし社長から帰ってきたのはさらに信じがたい答えだった。
「もう君に仕事は頼まない!」
もうこれ以上この人には何を言ってもダメだ……。反論する気すら失せた花田さんは、社長室を後にした。
「もう、辞めてしまおうか……」
デスクに着き、ゆっくり目を閉じ、目頭を押さえる。深くついたため息は、デスクの上にあるコーヒーを撫で、大きな波紋ができる。その波はまるで、花田さんの心中を表すようであった。
ある情報サービス会社で総務部長として7年間勤めてきた花田さんは、これまで大きなトラブルもなく仕事を着実にこなしてきた。そのキャリアは順風満帆だったと言っていい。しかし、昨年起こった社長交代劇から歯車が狂い始めた。
それまではのんびりとした牧歌的な会社であったが、社長交代とともに超成果主義のピリピリとした雰囲気に一変した。
「それまで1年に2〜3回しかやらない大きな仕事を、5カ月で3つもやれといわれました。しかも社長命令には必ず結果を出さなくてはいけない……。常識で考えても明らかにキャパを越える仕事量なので、全てに結果を出すことは無理だったんですよね」
そのとき花田さんが抱えていた仕事は、まず本社の移転業務の総指揮。社員1000名超と、決して小さくない規模なのでそれだけでもかなりの大仕事だ。また、株主総会とその後の株主懇親会の仕切り、さらにISOを取得するプロジェクトも並行して動かしていた。その上、社長直々の特命の業務が立て続けに入ってきていた。
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これらをたった5カ月ですべてこなし、結果を出すことは、やはり正気の沙汰ではなかった。
しかし、花田さんはそのすべてに全力で取り組み、精力的に仕事をこなしていたが、社長には褒められるどころか、結果が出ていない! と追い立てられるようになっていった。
そして飛び出した「もう君に仕事は頼まない」発言。これ以上の屈辱はなかった。花田さんは転職を決意した。2004年11月のことだった。
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