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一年間に転職する人の数、300万人以上。
その一つひとつにドラマがある。
なぜ彼らは転職を決意したのか。そこに生じた心の葛藤は。
どう決断し、どう動いたのか。
そして彼らにとって「働く」とは—。
スーパーマンではなく、我々の隣にいるような普通の人に話を聞いた。
第8回 後編 花田マサルさん(仮名) 46歳/総務
転職に年齢なんて関係ない!3度目の転職で証明した46歳
ある一通のスカウトメールで紹介された求人に興味をもった花田さんは人材バンクに赴く。しかし、それは確実に年収ダウンとなる求人だった。にも関わらず応募、そして内定を獲得した。花田さんが年収ダウンよりも優先させたかったものとは……。
最後の転職だと覚悟を胸に
年収ダウンしてもやりたいことを優先
 
 

 「46歳という年齢から、覚悟はありました。これで最後の転職にするぞという覚悟。だから会社選びには妥協はしませんでした」

 花田さんの今回の転職における会社選びの希望条件は、
1.総務・法務・人事などの管理部門の仕事
2.やりたい仕事ができやすい社風、
 ポジション
3.健康を害するほどの忙しさはNO
4.前職と同等レベルの年収
という4つだった。

 人材バンクの集合サイト、大手人材バンク、転職サイトなどを利用して情報を収集、少しでも自分の理想に合う求人を探し、約20社に応募した。書類選考通過の通知が届き始めたころ、【人材バンクネット】からも一通のスカウトメールが到着。差出人は株式会社SMBCヒューマン・キャリアのコンサルタント・三宅博恵氏だった。

 「他のスカウトメールとは違い、きちんと私のキャリアシートを読み込んで、求人を紹介してくれていると感じました。そのとき、すでに平行して7件ほど転職活動が進行していたのですが、三宅さんは信頼できそうだから話だけでも聞いてみるかと思ったんです」

 面談で紹介企業の詳しい情報を聞くと、大規模老舗設計会社で古い体質ながらも新しい制度を積極的に取り入れようとしているとのこと。ここでならこれまでの経験、スキルが活かせそうだと思った。

 だが条件面ではすべて満足というわけではなかった。年収が確実にダウンするからだ。しかし、花田さんにとってはあまり重要な問題ではなかった。

 「確かに家族がいたので、年収ダウンはできれば避けたかったのですが、自分のやりたい仕事ができそうな気がしたので、あまりこだわりませんでした。三宅さんから聞いた企業風土によると、入社して結果を出せばいくらでも昇給のチャンスはあると思いましたし。そもそもあまりお金にこだわるとろくなことにはなりませんからね」

 お金よりもやりたいことを。昇給は自分の手でつかむ──。花田さんは三宅氏に応募を依頼した。

トントン拍子で進んだ面接、そして内定
一歩ずつスキルを積み上げていけば年齢は関係ない
 

 応募してからはとんとん拍子で事は運んだ。6人いた応募者は一次面接(※5)で2人に絞られた。そして2次面接での一騎打ちに勝利。念願の内定(※6)をつかんだ。


 「面接は、三宅さんのおかげでスムーズに行きました。特に2次面接の直前にいただいた助言は効きました。三宅さんは1次面接後、企業の面接官に私の印象を詳しくヒアリングし、2次面接の傾向と対策をアドバイスしてくださったのです。企業の人事と密接な関係をもつ三宅さんならではの対応でしたね」

 

 花田さん自身も面接を通して入社意欲が高まった。最大の決め手になったのは、自分のやりたいようにやらせてくれる「懐の深さ」を感じたこと。

 「すでに決まっていることをそのとおりにやるのではなくて、会社をよくするためであれば、新しい制度も積極的に取り入れていける、そんな社風に魅力を感じました。誰かが決めたことをその通りにやることほどつまらないことはないですからね。ここならまた新しいことにチャレンジできそうだと思えたことが最大の決め手ですね」

 また、会社側も花田さんを迎え入れるに当たって、会社と仕事に慣れてきたら、総務部長の椅子を用意するとのことだった。自分に寄せられる期待を感じると、がぜん燃えてきた。与えられる権限が大きくなるほど、よりやりたいように仕事ができる。それにともない、年収面でも数年後には前職と同等か、あるいは超える可能性も見えた。

 現在は総務次長として就任。長い歴史をもつ会社なので、独特な企業風土・文化がある。今はまず、それに慣れることから始めているという。とはいえすでに人事制度や採用、出勤システムの改革、ITを駆使した新管理プロジェクトなど、精力的に仕事に取り組んでいる。

 「設計士はコンペが近いと徹夜になることも珍しくないので、その辺をどう管理していくかが今の課題です。自分が作った管理システムを利用することで、無駄な労力が削減され、業績が上がり、いずれは社員に還元されていくというのが仕事の上での目標ですね」

 人生の上での目標は? との質問には「一応青写真はできているんですけど、不言実行ということで内緒にしておきます(笑)」と花田さん。23歳で結婚したので、あと5年もすれば子供も手が離れる。

 「長い人生において、あくまで仕事はその一部。10年後には仕事ばかりじゃなくて自分のための時間を大事にして生きていられればいいですね。そのために今頑張ろうと思っています」

 仕事もさることながら、長期スパンで確かな戦略をもち、自分の人生をも冷静に構築している花田さん。

 

 しかしこれまでの職業人生は決して順風満帆というわけではなかった。1社目の学習塾では業績アップに貢献しながらも、内部分裂で倒産。昨日まで一緒に働いてきた仲間が一転して敵に。会社がバラバラになる悲劇を味わった。2社目の不動産関連会社では裏社会の人びととの交渉で、身の危険も感じたこともあった。しかし、花田さんは限界まで逃げずに踏ん張り、戦ってきた。

 その都度、目の前の仕事に全身全霊をかけて取り組み、ひとつずつスキルを積み上げていけば、46歳という年齢のハードルも軽く飛び越えて行けるということを、花田さんは3度目の転職で身をもって証明したのだ。

コンサルタントより
株式会社SMBCヒューマン・キャリア
 三宅博恵氏
  助言に素直に耳を傾け
実行できる柔軟性が大事
 
土田拓己氏
 花田さんのキャリアシートを見たとき、総務、法務、人事、労務と経理以外のほぼすべての管理業務を

経験されており、マネジメント経験も豊富だったので、かなり有望な人だと思いました。特に30代以降ではマネジメント経験・能力は必須ですからね。

ちょうど私の抱えている案件で、管理部門の責任者のニーズがあったので、ぴったりだと思い、スカウトメールを送りました。

 花田さんとの面談でまず感じたことは、論理的思考能力が高いということ。物事をロジカルに捉えることができ、分析しながら理詰めで話せるので、この人は「説得力のある人だな」と感じました。またこちらの目をしっかりと見て話すので、インパクトも強かったですね。

 ただ、不安要素もありました。この「強さ」が裏目に出る場合もあるからです。どういうことかというと、説得力があるがゆえに面接で持論を展開すると、面接官が打ち負かされ、反感を買ってしまうこともあるのではないかと懸念したんですね。また、特にこのような大手設計会社の場合、設計士との接し方が問題になります。設計士は会社員といえども、気持ちは職人、「個人事業主」です。そのプライドの高い設計士たちと、うまく意思の疎通を保ち、かつマネジメントできるかどうかの見極めが、採用の際、一つの重要なポイントであったのです。

 やはり1次面接で企業側が抱いた印象は「実力、実績的には全く問題ないが、設計士とうまくコミュケーションをとっていけるだろうか……」でした。

 ですから、2次面接に臨む前に、花田さんにこうアドバイスしました。

 「個人事業主のようなプライドの高い社員たちともうまくコミュニケーションを取ってやってきたということを自然にアピールした方がいい。言いたいことを全部言うのではなく、『腹八分目』な感じで、謙虚に臨んだ方がいい」と。

 この助言を花田さんは正しく理解、実践したようで、一騎打ちとなった最終面接にも勝ち、内定を獲得しました。

 いくら景気が回復し、求人件数が増加してきているといっても、やはり40代の求人は多いとはいえません。40代で転職を考えたとき、売りになるスキルと今後の方向性を自信をもってはっきりいえるように、20代、30代のころから仕事に取り組むことが重要だと思います。そうすれば、花田さんのように、46歳で3つも内定を獲得することも可能なのです。

 
プロフィール
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岡山県出身の46歳。大学卒業後、大手学習塾で取締役として経営戦略に携わる→不動産関連会社で総務部長代理としてテナントとの契約業務、訴訟、施設管理、人事採用などを兼務→情報サービス会社で総務部長として株主総会運営、予算管理に加え、法務関連業務などを経験。20数年間一貫して管理畑を歩む。社長交代をきっかけにして転職活動を開始。今年4月から大手設計会社で総務部長候補として入社
花田さんの経歴はこちら
 

※5 面接
「面接では、『どのようなマネジメントができますか?、マネジメントのスタイルは?』ということを突っ込んで聞かれました。やはり年齢的にもマネジメント能力がかなり求められていると感じました。それに対してどう答えるかの判断は、コンサルタントにマメに聞いたりして、事前に面接を受ける会社の情報や風土をしっかり勉強した上で、対策を立てる必要があります。会社によって求められるマネジメントのスタイルは違いますからね。敵を知り、己を知らば百戦危うからずということですね」

また、人事の経験も豊富な花田さんは、これまで面接していた数はざっと1万人以上という。だから、面接官のレベルも一発で分かったという。「第一声でどんなタイプの人かだいたいわかりましたね。中には『君じゃなくてもっと上の人と話したいんだけど』って言いたくなる面接官もいました(笑)」

※6 内定
花田さんが内定をもらう会社のそばには、なぜかいつも神社があったという。現在勤めている会社の隣にもご多分にもれず神社があった。
「別にジンクスを信じたり、験を担ぐほうではないんですけど、いつも勤め先の近くに神社があったので、最終面接の会社に行く前に『神社はないかな?』と地図を見たら今回もあったのでびっくりしました。これは内定をもらえる確率が高いぞと思ったりして(笑)」

 
 
 
取材を終えて

新しい職場に移り、早々に新プロジェクトを進行中とのことでしたが、快く今回の取材を受けて下さいました。本当にありがとうございました。

写真をご覧いただいてもわかるように、落ち着きがあり、どっしりと構えた姿。そして口調は穏やかで、ズバリ「紳士」という印象の花田さんでした。最初は慎重にお話なさってましたが、後半は時折笑顔を見せて下さりながら、楽しく語っていただきました。

花田さんの言葉で印象的だったのは「人生は仕事ばかりじゃない」ということでした。20〜30代はどうしても趣味や生活をおざなりにして、仕事が中心の生活になりがちです。確かに、人生の中でそういう時期があるのはしょうがないのですが、花田さんのように「10年、20年先の青写真を作る」くらいの余裕は持ちたいものです。このコメントを受け、目の前の仕事をこなすことばかり考えて視野が狭くなると、自分のキャパも狭くなってしまうのかな? と感じたのでした。

みなさんは10年、20年先の自分像がイメージできますか? 私も目をつむってイメージしてみましたが、薄ぼんやりとしか見えません……。花田さんのお話をおうかがいして、自身を見つめ直し、未来の自分をイメージするきっかけがつかめました。そうやってイメージすることで、仕事における指針や、目標なども見えてくるのではないでしょうか?

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