入社して7カ月が過ぎたころ、一人の女性、Aさんが入社してきた。Aさんは「この会社でシステム開発ツールの販売に携わりながら、輸入事業を手掛けたい」という希望を持った女性だった。英語が堪能で、どんどん自分をアピールするような積極的な彼女を見て、石井さんは「苦手なタイプかも」と感じたが、それでもうまくやっていけるだろうと軽く考えていた。
ある日のこと。顧客へ送る案内状を作成するという仕事があった。石井さんが住所録を作成し、印刷会社とのやりとりはAさんに任せることになった。ちょうど経理業務が忙しい時期と重なってしまったため、石井さんは住所録作成の時間がなかなかとれず「予定の期日までに住所録を作るのは難しそうです」というメールを社長に送った。
印刷会社に住所やデザインを持ちこむタイムリミットが来てしまい、予定通り運ばないことが判明した。そこでAさんが激怒した。
「3人で協力してやっていることなのに、どうして社長にしか知らせなかったの?」
「印刷スケジュールのこと、声を掛けてくれればよかったのに……」
石井さんが思わずそう言うと、Aさんからキツイ言葉が返ってきた。
「あなたはチームで仕事をするときのやり方が全くわかってない!」
コミュニケーション不足から起こったささいな事件。
「これからはちゃんと声をかけて、お互いにフォローし合っていけばいいや」と、石井さんは軽く受け流そうとしたが、そうはいかなかった。この日から石井さんに対するAさんの態度が一変してしまったのだ。石井さんのすることなすこと、すべてを批判するようになった。
入社して1年も経っていないし、やっと手に入れた仕事だから辞めるわけにはいかない。「こちらが気をつければ、分かり合えるようになる」石井さんはそう考えて、Aさんに気を遣ってきた(※3)。
会社のパソコンに、あるソフトを導入するときも、一度はB社製品にしようと決まったが、Aさんの性格や好みを考えてC社製品を購入。それを見たAさんはこう言い放った。
「会社としてB社製品にしようと決めたのに、なんであなた個人の判断で変えるの? あなたに何の権限があるわけ? 交換できないのか、聞いてきてよ」
良かれと思ってやったことも裏目に出てしまう。毎日その繰り返し。いくら気を遣うといっても、納得できないことで攻撃されれば、反発を感じるもの。「こっちにだって言い分はある」とばかりに、意地になって反撃してしまうこともあった。それはだんだんエスカレートし、ときにはメールでキツイ言葉の応酬をすることもあった。
「お互いに傷つけ合ってしまったんでしょうね。私も辛かったけど、彼女も体調を壊して『あんたの顔は見たくない』とほとんど会社に来なくなった。社長は私たちの険悪な仲を知っていながら、仲裁に入ろうとはしなかった。私は疲れ果てて、これ以上我慢してもムダだと思うようになりました」 |