「実は面接を受ける前に、神奈川への長期出張の辞令が出たんです。当時、転職活動のことは誰にも言っていなかったし、そんなに簡単に転職先は見つからないだろうと考え、承諾してしまったんですね」
ところが、あれよあれよという間に、自分の条件にピッタリで、なおかつ好印象を抱いた会社に内定してしまった。
「長期出張は10月から半年間。建材商社が提示する採用希望日は9月1日。ものすごく悩みました。出張については、辞令を受けたことに対する責任というものがあると思っていたんです。岩本さんに、建材商社への入社を、半年先まで待ってもらうことは可能だろうかと相談もしました」
しかし岩本氏は、しばらく考え、こう言ったのだった。「出張の辞令も内定通知も、結局会社が決めたこと。ここからはもう、平沢さんご自身が判断をするところじゃないですか?」と。
「あ、言われてみればそうだな、と。確かに出張の辞令は受けたけど、面接前のこと。それに断ったとしてもそれほど会社に責任を感じる必要はないなと思ったら、開き直れたというか」
平沢さんが何よりも求めていたの——それは、仕事のやりがいだった。たしかに今在籍している会社は、大手という安心感はあるかもしれないが、ここ3カ月はやりがいはおろか、仕事もなく、自分にできることはし尽くしてもなお現状を打開できない。そして仮に、神奈川への長期出張に応じたとして、出張が終わる半年後、自分がどうなるのか全く予想できない。平沢さんの気持ちは決まった。
「いったん受けた辞令を断るからには理由を話さなければならない。というわけで、そこで初めて(※4)、仕事にやりがいを感じられなかったため転職活動を行い、現在、内定をいただいた会社があるということを上司に話したんです」
まず課長が、次いで部長が、慌てて慰留をしてきた。だが平沢さんの説明を聞き、最終的には、退職と転職を納得してくれた。
「私の気持ちがすっかり決まっていたのを上司も感じ、引き止めても無駄だと思ったのではないでしょうか」。
平沢さんの退職は9月末、そして新しい会社には、10月1日から採用されることが決まった。平沢さんの、新たな人生のステージが始まったのだ。 |