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一年間に転職する人の数、300万人以上。
その一つひとつにドラマがある。
なぜ彼らは転職を決意したのか。そこに生じた心の葛藤は。
どう決断し、どう動いたのか。
そして彼らにとって「働く」とは—。
スーパーマンではなく、我々の隣にいるような普通の人に話を聞いた。
第33回(後編) 滝本隆文さん(仮名・32歳) 経理
大手企業で味わった屈辱の日々 意外な方法でたどりついた 自分らしく働ける職場

予想外で大手ソフトウェア会社に転職できた滝本隆文さん(仮名・32才)だったが、勝手が違う仕事に戸惑い、苦戦の日々が続く。上司はついにパワハラまがいの言動まで見せるようになった。いくら大企業といっても、入社半年といっても、この上司の下で仕事を続けることはできない。滝本さんは、新しい職場に活路を見いだそうと転職活動を開始した。

客観的な目で評価する
コンサルタントに期待
 

 もう、二度とこんなつらい思いはしたくない。年齢的にも今回こそ最後の転職にしたい。そう思った滝本さんは、前回の失敗(※1)を踏まえて転職活動をしなければならないと思った。

 前回の転職では【人材バンクネット】経由でコンタクトを取った人材バンクを利用して痛い目にあった。しかし、今回の転職でも人材バンクを使おうと思った。なぜなら企業との新しい出会いにその事情をよく知る人から情報を得、アドバイスを受けることがやはり重要だと考えていたからだった。また、前回、大手ソフトウェア会社での面接で、少し誇大に自分を売り込んだことがミスマッチを招いたともいえる。

「だから今回の転職では企業の内部事情をよく知るコンサルタントを探し、等身大の自分を正直に話そうと思っていました」

 改めて【人材バンクネット】でキャリアシートを更新し、スカウトを待った。すると30通ほどのスカウトメールが届いたので、十分に吟味した。

「スカウトメールの中には、私の経歴の一部だけを見て、ほとんど機械的に送ってくるものもありました。希望職種と年齢で機械的に処理されたようなメールも多いわけです。確かに、多くの転職希望者は、私のようにクセのある人ではないので、こうした機械的なメールで役に立つ場合も多いのだと思いますが、私の場合は、書類審査は通っても面接で落とされるというように、やや特殊でしたし、もう失敗はしたくはありませんでしたから、応募も慎重に行う必要があります。そこで、私のキャリアシートを隅々まで読んでいただいて、私という個性をある程度理解した上で送っていると思われるスカウトメール(※2)のみに、返信するという方法をとりました」

 さらに【人材バンクネット】内で、希望条件に合う人材バンクの絞込み検索をしてみた。前回で失敗しているだけに、今回は求人ではなく、自分にとってよい人材バンクを吟味して選びたかったのだ。1ページから順に閲覧していき、10ページ目で気になる人材バンクを発見、コンタクトをとってみることにした。

「誰でも知っている某大手企業系列の人材バンクだったので、いかがわしい企業は紹介しないだろうという、ただそれだけの理由でした。だから当初はそれほど期待もしてなかったし、可能性を広げるために、前回利用した人材バンクのサブ的に使おうというくらいの気持ちでした」

 今の会社に入る際の面接で、自分をやや誇大にアピールしたことで、会社の要求に応えることができなくて苦しんでしまった失敗を繰り返してはならない。そこで、今回はありのままの自分を伝えることを心掛けた。それは、これまで経験してきた仕事について正直に話し、また経理全般がこなせる職務を希望していることを丁寧に伝えることだ。人材バンクのコンサルタントには、今の会社での状況や転職理由も含め、事情を詳細に説明しよう。それでこちらの話を丁寧に聞いてくれる人であれば、その人の意見を慎重に聞くことにしよう。滝本さんはそう考え、その人材バンクのコンサルタントとコンタクトを取り、登録に行くことにした。

職場の人間関係も良さそう
コンサルタントの言葉で安心
 

 登録初日には詳細な面談とスキルチェック、適性検査などで約半日かかった。時間をかけ、いろいろな面から適性や能力、可能性を見てくれたのだ。このくらい慎重にチェックしてくれるのであれば、妙な行き違いは少ないだろう。滝本さんは安心した。しかしその日は登録のみで、求人案件の紹介はなかった。ここまで丁寧に見てくれて、紹介できる求人が1つもないと言われたらつらいな、という不安を残しつつ、帰途についた。

 しかし早くも登録日から4日後、コンサルタントから求人紹介の連絡がきた。しかも最初は中堅企業でも十分だと考えていたのに、大企業の系列会社の経理部の求人だった。最も重要視していた人間関係も、最初に滝本さんが勤めていた企業のような家庭的な雰囲気(※3)とのこと。コンサルタントの説明は、滝本さんのことを細かく正確に理解した上で話してくれているのだと思え、安心感があった。ほぼ希望していた条件を満たしていたので、コンサルタントに応募を依頼。書類選考も無事通り、面接が行われることになった。

 面接当日、面接官として現れたのは2名の上司になる人と総務部長だった。

「先方が聞きたいのは、何より半年余りで会社を辞める理由でしょう。もちろん『劣悪な人間関係のため』と正直には言えないので、会社の待遇の面での不満についてだけ話しました。昇給は望めず、残業もつかない状況でしたから。それよりも、自分がやってきたことを正確に話し、小さな規模でも経理全般を任せてくれる仕事がしたいということを強く訴えました。前回のように無理な背伸びをした表現もせず、ありのままの身の丈の自分を伝えられたという実感はありました。しかし、これまでの職務経験に自信がなかったので、面接終了後は正直かなり不安でしたね」

 しかし、結果は想定外のものだった。その日の内に早くも内定の連絡が届いたのだ(※4)。驚きの後に徐々にうれしさがこみ上げてきた。ようやく、ようやく入社したいと思える会社から内定が取れた──。滝本さんは思わず拳を握り締めた。

経理全般を担当できる
希望通りの仕事に
 

 出社当日、面接官のひとりだった総務部長が笑顔で声をかけてくれた。「前の会社では、本当にご苦労されたようですが、そんなことは忘れて、ここで新たな気持ちで頑張ってください(※5)」。

「この言葉を聞いただけでも、この会社に入ってよかったと思いました。前の会社での事情は、コンサルタントを通してご存じだったようです。会社が変われば、人もこんなに変わるものなのか。ついこの間までの重苦しい空気が嘘のようだと思いました」

 入社後、グループ子会社の経理全般を任せてもらうことになった。これこそ滝本さんが願っていた通りの仕事で、毎朝仕事に行くのが楽しいという。将来、経理部門の責任者として活躍する自分の姿も、ぼんやりと浮かんでくる。実に1年ぶりの快活な気分だった。

 つい4カ月前は毎朝の上司のパワハラに身も心もすくむ思いだった。人としてのプライドはずたずたにされ、笑うことすら忘れてしまった。しかしそこから立ち上がり、自ら人材バンクを探し、アプローチし、最高の職場を得た。

「思えば、最初の企業で学んだこと、2番目の会社でやらされたこと、あわてて通ったパソコンスクールで学んだこと、そして、転職のたびにお付き合いいただいた人材バンクのコンサルタントの方々とのやりとりで学んだことなど、これまで経験してきたすべてがあったからこそ、今があると思います。今後は一刻も早く一人前と呼べるレベルになるべく、経理マンとしてのスキルを磨いていこうと思っています」

 そう熱く語る滝本さんの顔は、ようやく自分の居場所を見つけられた喜び、そして未来への希望で輝いていた。

(※写真はイメージです)

 
プロフィール
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東京在住の32歳。大学卒業後、中小企業で経理を担当するも、将来に不安を感じ大手ソフトウェア会社に転職。しかし、上司が求める仕事がこなしきれず、毎日終電で帰宅の日々が続く。加え、パワハラともとれる劣悪な人間関係に耐えかねて、1年を待たずに転職を決意した。

滝本さんの経歴はこちら

前回の失敗(※1)
前職も人材バンク経由での転職だったが、そこに至るまでもひどい仕打ちをうけていた。詳しくは前編を参照

 

ある程度理解した上で送っていると思われるスカウトメール(※2)
スカウトメールは、最初は企業名も、求職者名も明かさない匿名の「お見合い」から始まるが、ここで滝本さんに届いたスカウトメールの中には、今まさに退職を決めていた企業の関連グループからと思われる求人も含まれていた。後になってそれがわかったのだが、それを知ったときには、「ただもう苦笑するしかありませんでした」という。

 

家庭的な雰囲気(※3)
滝本さんが最初に入社した社員50名ほどの会社では、年末の仕事納めをオフィスに鍋を持ち込んでみんなで宴会をするような家庭的な雰囲気だった。滝本さんは、給与面では苦しいと思ってはいたが、居心地の良さから、なかなか退職に踏み切れないでいたのだった。

 

内定の連絡が届いたのだ(※4)
実は、この会社の内定が出たとき、他の企業でも面接まで進んでいる状態だった。これを、コンサルタントを通して会社に伝えると、一生のことなので、じっくり考え、自分が納得する方向で決めてくださいという返事だった。入社自体はまだ先の予定だったので、それまでの期間は返事を待ってもよいというのだ。実際に返事をしたのは、それから半月余りも経ったころだった。

 

ここで新たな気持ちで頑張ってください(※5)
会社の規定で、希望年収額には届かなかったが「常務の『それ以外のことでは、最大限の考慮をさせていただきます』という言葉にも、誠意を感じました。その気持ちに応えようと今はやる気いっぱいです」

 
取材を終えて

 滝本さんの話は、採用する企業の側の「成功と失敗」の例としても、興味深くおうかがいしました。滝本さんが最初に転職した会社では、早急な人材募集を行い、面接もソコソコに採用を決め、即座に現場で働かせようとする会社でした。一方、最終的に就職した会社は、人材バンクでの面談から丁寧に人物とそのスキルをはかり、書類ではわかりにくい本人の個性や心のうち(場合によっては転職のウラ事情まで)も聞き出し、その上で採用を決めました。同じ人材でありながら、一方は1年と続かず退職、一方は意欲的に活躍するという結果になっています。企業それぞれに事情はあるでしょうが、一人ひとりを丁寧に見ていくという応対こそが、最終的な結果としてよい方向に向くという実例ではないでしょうか。「人材バンクといえどもひとつの企業」と滝本さんも話されていましたが、これは、人材バンクの場合でも例外ではないのかもしれません。

 滝本さんはもともとコツコツと仕事をこなす堅実派だとお見受けしました。また、ご自身でも面接が苦手とおっしゃるように、ある意味で〈不器用な〉面もおありなのかもしれません。そういう方には、その人の個性を丁寧に見てくれるような人材バンク、コンサルタントの存在は大きいと思います。自分の長所を自身で的確に表現できる人はベストですが、人に推薦してもらえるのであれば、それはそれで強い説得力が生まれるものですから。
(有竹 真/ジャネット・インターナショナル)

次回は12月17日配信予定
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取材・文/有竹 真(ジャネット・インターナショナル)

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