「深沢さん、そんなド素人みたいなこと、やめてくださいよ。みっともないじゃないですか」
自分よりも若い同僚に叱咤されて、深沢さんは頭の中が真っ白になった。
新しい部署に配属された直後、会社生え抜きの人事部の同僚と組んで新人採用の面接官を担当するように上司から命じられた。その面接後、同僚が憮然とした顔で深沢さんに言ったのだった。
最初何を叱られているのか、ピンと来なかった。面接をしているとき、内々に配っているマニュアルを見ながら喋るのはやめてくださいよ。相手が見ている前でメモを取るのも失礼でしょう。彼はそういうのだった。
「いや、そんなつもりじゃ……。まだ、仕事に慣れていないから、きちんと段取りを踏んでやろうと考えただけなんですよ」
確かに同僚の言う通りなのかもしれない。しかし、自分はそれまで行政書士や社会保険労務士の勉強をし、その能力を活かした仕事一筋にやってきた人間で、人事の仕事は全く初めてのことだ。だから、ひとつひとつ物事を丁寧に確認しながら前に進もうと……。
「次からはこんなことしないでくださいよ。まったく……」
同僚の明らかに自分を見下したセリフ。こんなド素人と組むのはいやだと言いたげな顔。しかし、実際に、その同僚の思い通りになってしまった。というのは、そのショックが原因で、深沢さんは、翌日から会社に行くことができなくなってしまったのだから。 |