1次選考の日。最初に、書類の記入を求められた(※2)。それが終わると、事業部長と人事担当者との面接が始まった。
夢を聞かれると、斉藤さんは熱く語った。
「試薬メーカーは外資系が強い力を持っていて、日本国内の事情や研究者の都合を考慮せずにやりたい放題です。それに負けない、強い試薬メーカーを日本で作りたいんです」。
面接官は笑顔で共感してくれた。仕事とは直接関係のない話題も飛び出し、気がついたときには2時間半が経過していた。
1次選考は無事に通過。2次選考までの間に課題提出を求められた。内容は「家庭用健康機器の製造を計画している精密機械メーカーの企画部門への提案」。先方からは「簡単で結構です」と言われていたが、課題に取り組む姿勢は評価に大きな影響を及ぼすだろうと考え、斉藤さんは実際の仕事と同レベルの力を注ごうと思った。
しかし、こんな大事なときに限って、新製品販売促進のための出張や、大きな取引先からの問い合わせなどが相次ぎ、普段以上に仕事が忙しくなってしまった。通勤時間や帰宅後など、わずかな時間を利用して考えるのだが、未知の業界のことは想像もつかず、苦戦を強いられた。「こんなん無理や!」(※3)と何度もくじけそうになりながら、執念で企画書を練り上げた。
そして2次面接。面接官は事業部長と社長だった。斉藤さんの発表に、二人は真剣なまなざしを注ぐ。
「どこが一番難しかったですか」。質問が飛んだ。
「思い描いた企画を書類上に表現するところです。それと、この企画を実行した場合、整合性を確保できるようにするのが難しかったです」
「そうですよね。私たちが苦労するのはそこなんです」。二人で笑顔でうなずいた。
「素人丸出しの企画だったとは思いますが、役員の方は私の考えを真正面から受け止めてくれました。それがとてもうれしかった。あのとき、『この会社でやってやる!』という思いが固まったんです」
最後に、面接官はこう言った。
「斉藤さんには、プロジェクトマネージャーとしての仕事を期待しています。当社では、チームで協力し合って仕事を進めますが、あなたの得意分野を生かしてさまざまなことを手がけてほしい。当社は社員一人ひとりに個人商店でいてほしいと思っているのです」
斉藤さんは思わず笑みがこぼれた。2日後、内定の知らせが届いた(※4)。 |