そして迎えた面接日。水谷さんは急に怖くなり、足がすくんだ。「ダメだと思ったら、帰ってくればいい」と自分に言い聞かせ、なんとか会社の近くまでたどり着くことができた。喫茶店に入り、面接の想定質問と答えを書き出したノートを何度も何度も読み返した。
「大丈夫、大丈夫。……いや、やっぱり怖い。どうしよう……」
そのとき、携帯電話が鳴った。松本コンサルタントからだった。
「水谷さん、気分はどう? 大丈夫? 頑張れる?」
正直にやっぱり怖いと答えると、「せっかく会社の近くまで行ったんだから、そのまま行っちゃおうよ!」と温かく励まし、背中を押してくれた。
「よし、気分を変えよう。どうせ行くなら笑顔で行こう!」水谷さんは笑顔を作り、面接会場に入った。
ありのままを話す——水谷さんは面接でのテーマをそう決めていた。面接官は経理部長で公認会計士の資格も持っている実力者だった。とはいえ、堅苦しさは微塵もなく、さわやかな人柄。
(この人と一緒に仕事をしたら、いろんなことを教えてもらえるかも)
水谷さんの気持ちが落ち着いた。
面接は和やかに進んだが、面接官は最後にこう言った。
「あなたは人柄が素晴らしいし、経歴もすごい。当社としては、ぜひ採用したいと考えますが、経理部門の男女のバランスを考えて決めますので、検討させてください」
それを聞いて「落ちた」と思った。応募者の中には男性もいると聞いていた。今回は男性を採用するつもりなのだろう。残念ではあるが、面接をしてくれたことに感謝の気持ちが湧いてきて、自宅に帰ると、すぐにペンをとった。面接をしてくれた経理部長にお礼を言いたかった。
「忙しい中、私のために時間を割いてくれたことに感謝します、という内容でお礼状を書きました。もし、入社できたら今までの経験を生かして頑張ります、というアピールもちゃんとつけ加えて(笑)」
面接が終わってからしばらく連絡がなかったので、「やっぱりダメだったか」と思っていたとき、電話が鳴った。松本コンサルタントからだった。
「おめでとうございます! 採用が決定しました!(※6)」
思わず安堵のため息が出た。松本コンサルタントは自分のことのように喜んでくれている。それがありがたく、うれしかった。 |