コンサルタントA氏から紹介されたのは外資系の大手金融会社だった。条件・資格欄には、
- できれば弁護士資格を所有していること
- 英語はネイティブレベルであること
と書かれてあった。今井さんにはおよそ手の届かないと思われる高いレベルの内容に思えた。
「私にはちょっと無理じゃないですか……」今井さんは思わず腕組みをしたままうつむいてしまった。いくら多少の法律知識があるとはいえ、司法書士の試験に落ちた自分に弁護士レベルの仕事ができるとは思えない。英語もTOEICの点数は900点をマークしているものの(※3)会話はさすがにネイティブレベルとは言えない。とてもじゃないが務まるとは思えなかった。しかしA氏は動じない。やる気を重視する会社なので条件を満たさなくても応募資格は十分あること、肩書きなどは見ずに人柄を評価してくれるのでトライする価値があることを懇々と説明し、「まずはチャレンジしてみましょう」と励ましてくれた。
不安を感じていた今井さんだったが、A氏の熱心な説得により「もしかしたらやれるかもしれない」と応募することを決意。さっそく職務経歴書の作成に取り掛かった。
「Aさんは『この会社が求めているキャリアはズバリこの部分ですが、それと似たような経験はないですか?』などと細かな質問をして、思い当たることを答えると『それは貴重なキャリアになりますよ。しっかり書きましょう』といった具合に、私自身も気づかなかった強みを掘り起こしてくれました。実際にAさんのアドバイスで書き換えた職務経歴書は見違えるように素晴らしくなりました(※4)」
A氏と面談して2日後、書類選考通過の知らせを受け、その1週間後には1次面接が行われた。応募当初の不安をよそに、意外に面接は盛り上がり、無事通過。その2日後には最終である2次面接へと進むこととなった。A氏との面談から11日という短い期間でのスピーディーな展開だった。
「もちろんその間も何かあればすべて相談していました。Aさんは他の人材バンクのコンサルタントと比べてもべったりしすぎず、適度な距離感があったことが、私には合っていたと思います」
二次面接はアメリカ人の弁護士と一対一で日本語によって行われた。実のところ、1次面接があまりにフレンドリーで良い雰囲気だったために、今井さんは正直「いけるかも」と勝手に手応えを感じていた。しかしさすがに二次面接はそう甘くはなかった。今まで何をしてきたのか? どんなことならできるのか? そんな厳しい質問を矢継ぎ早に浴びせられて、さらには今井さんの能力を試すような場面(※5)もあり、今井さんは最悪の結果も覚悟した。しかし結果は「内定」。あれほど高いと思われたハードルを今井さんはあっけないほどの早さでクリアしてしまったのだ。
しかしそこはまだゴールではなかった。内定が出た後、「選択」の問題で新たに頭を悩ますことになる。 |