やりがいのある仕事をする一方で、村田さんはある心配を抱えていた。数年前から、世間にデジタルカメラが普及し始め、その流れはどんどん加速していた。フィルムの現像需要は激減。デジタルカメラで撮影した写真を自宅でプリントする人が増えたせいか、プリント機械の需要も減っていた。写真を取り巻く環境が激変するのを肌で感じ、うっすらと将来への不安を覚えていた。
こうした状況に危機感を強めた会社はコスト削減に走った。
「物品購入の際はどんなものでもすべて事前に申請し、許可を得ること」
「修理で使う工具はプロ用のものではなく、安い一般用のものを使うこと」
「携帯電話は仕事の用件であっても個人所有のものを使用して、料金も自腹で払うこと」
村田さんは驚いて、会社に抗議した。
「確かに一般用の工具でも使えないことはないが、やはりプロが仕事で使うべきものではない。仕事で使う携帯電話も個人負担にするなんて絶対におかしい」
村田さんをはじめ同僚たちが改善案を提案しても、会社側は全く受け入れようとしなかった。社員の意見に耳を貸そうとしない会社に嫌気が差し、多くのエンジニアが会社を去っていった。
そして、追い討ちをかけるようにこんなうわさが村田さんの耳に入ってきた。
「会社は写真プリント機の修理・メンテナンス事業から手を引くらしい」──。 |