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一年間に転職する人の数、300万人以上。
その一つひとつにドラマがある。
なぜ彼らは転職を決意したのか。そこに生じた心の葛藤は。
どう決断し、どう動いたのか。
そして彼らにとって「働く」とは—。
スーパーマンではなく、我々の隣にいるような普通の人に話を聞いた。
第22回(後編) 進藤祐樹さん(仮名)32歳/SE
この会社にいたらダメになる——自分の可能性を追い求め 2度の転職でつかんだ最高の職場

やりたい仕事を求めて転職した会社は、給料も低ければ、現場の声も門前払い。計画性のない社長と現場の間に横たわる埋めがたい溝、そして仕事への意欲が感じられないしらけきった社内のムードに、進藤さんの転職への意思は強まるばかり。「今度こそは失敗しない!」と心に誓った進藤さんは、前回の転職とはまったく異なる方法を選ぶ。

関わっていた書籍出版も中止の憂き目に
「前回の転職の失敗は繰り返さない」
 

 転職を意識し始めたとはいえ、進藤さんはすぐに活動を始めたわけではない。

「入社して半年くらいしか経ってなかったので、せめて1年間は働こうと思ったんです」

 会社では社員の入れ替わりが激しく、毎月のように誰かが辞め誰かが入社しているような状況だった。その様子を眺めながら、転職はいいけど、また次の会社もイヤな会社だったどうしよう——そんな不安も感じていた。

 1回目の転職では、会社や仕事内容に求めていることを、自分なりに熟考して行動したつもりだった。だが、仕事内容や会社の体質など、どこか「現状から脱出したい」という焦りや衝動が強かったのではないだろうか?

 進藤さんはかつての転職活動を冷静に振り返るようになっていた。だからこそ、次の転職では絶対に今と同じ気持ちを味わいたくない——。

 そんなある日、いつものようにデータをチェックしていた進藤さんは、社長から現在手がけているシステムを利用した投資情報サービス提供を取り止めるようと思ってるんだ、と切り出されて唖然とした。

 取り止めるって……どういうことだ? これまでずっといいシステム・サービスをつくるために頑張ってきたのにいきなりそんな──。

「ほら、データのミスやシステムの高負荷でアクセスできなかったりして、クレームがずっと続いてるだろう? もうウチでは対応しきれないからね」

 

 じゃあ、自分が今も手がけているシステムはムダになるということか——。
まるで他人事のような素振りの社長に一瞬カッと怒りを感じたが、「言っても仕方ない」と、進藤さんはグッと堪えた。

「結局社長が、あまりに多いクレームに嫌気がさしたというところでしょう。やっていた投資情報サービスは競合も増えて年を追うごとに会員数も減り、クレームも多くなっていました。でも開発要員を増やしたり、チェック機能を増設するなどシステムを改善すれば、クレームへの対応もできたはずなんです。なのに何にも手を打たないで(※1)、あっさりとサービスをやめてしまう。社長の計画性のなさや、今後の展望の広がりのなさに、ほとほとうんざりしました」

第三者の客観的視点を求めて人材バンクネットに
膨大なスカウトメールを厳しく選別
 

 入社して1年を前にした4月上旬、いよいよ進藤さんは二度目の転職活動をスタートさせた。手始めに行ったのは、【人材バンクネット】への登録。

「【人材バンクネット】は購読しているメルマガでたまたま知ったんです。前回の転職は直接応募で失敗した。だから今度は、第三者であるコンサルタントの目から見て、自分の能力を生かせ、そして、自分に合う会社に転職したいと思ったんです」

 前回の苦い転職経験から、キャリアシートにはできるだけ細かく自分の希望を書いた。希望する会社は、金融・証券・経済系のサービスを展開しているところ。AJAXなど最新技術も積極的に取り入れていて手がけさせてもらえるところ。そして、将来的にプレイングマネージャーとして働かせてほしい旨を書いた。

「もちろん、条件的なこともしっかり書き込みましたよ。年収は600万以上(※2)で、通勤が1時間以内のところ、とかね。大企業は自分には合わないと感じていたので、少々つらくても、頑張れば自分でプロジェクトを動かせる小規模の会社がいいなぁ(※3)と思っていました。自分の意見や提案に対して、きちんとレスポンスをくれる風通しのよい雰囲気はもちろん外せないポイントでしたね」

 キャリアシートを匿名公開した直後からスカウトメールが続々と届き始めた。ある程度の数は予想していた進藤さんだが、やはり実際に膨大な数のスカウトメールを目にすると自尊心がくすぐられてうれしくなる。しかし冷静な目でスカウトメールをチェックすることを忘れなかった。

「いかにもテンプレートを使って書いたな、と思われるメールは無視。そして、キャリアシートにキーワード的に入れた、証券、経済、AJAX、などの言葉をスルーしているところも、検討から外しました」

 そうした中で、進藤さんの目をひと際惹きつけたのが、株式会社インターワークスの稲田敦司コンサルタントからのメールだった。

 

「稲田さんのメールは、キャリアシートのキーワードがしっかりフォローされていて、しかも、ほかの人材バンクとは違う、まさに僕が希望していた『サービスを展開している』会社が提示されていたんです。この人はキャリアシートを読み込んで、僕の希望を理解してくれているな、と思いましたね」

 メールに返信すると、面談の日は4月中旬と、すぐに決まった。

「稲田さんはとにかく、これまでの経験や将来的な展望まで、僕の話を親身にじっくり聞いて下さったんですね。この人は信頼できそうだと感じました。そして、メールで提示された会社以外にも僕の希望条件に合う会社をいくつか提示して下さったんです」

 その場で検討して、3社に応募を決定。その二週間後、もっとも進藤さんの希望に近い証券系システム開発会社から面接の通知が来た。

「手応え」が「予感」、「確信」へ—
2カ月で待望の内定をゲット!
 

 その会社は、金融・証券系IT企業のグループ会社で、インターネットを通じた証券取引サービスなども提供する、従業員50名ほどのシステム会社だった。

「一次面接の面接官は、3人の現場のリーダーで、これまで僕が何をやってきたか、といったことが質問の中心。構築と保守、どちらもできると話し、技術的な専門用語を使って説明するようにしました。僕はわかってますよ、というアピールのためにね(笑)。面接官はみんな僕と同い年くらいで、僕のアピールは通じた感じがしましたね」

 確かな手ごたえを感じた進藤さんが二次面接に進んだのが、それから1週間後。

「今度は社長面接でした。社長は人当たりのよい人で、話しやすく、勤務条件についてだけでなく、システムトレーディングなど、やりたいこともしっかりと伝えました」

 面接の途中でほかの役員が加わったことで、進藤さんの「手応え」は「予感」に変わっていく。内定への予感。それが「確信」に変わったのは、数日後に行われた会社グループのCEOとの最終面接だった。

「CEOと面接と聞いて、もうほぼ決まったと思いましたね。だって、採用してもいいと思われたから、一番偉い人に紹介されるわけでしょう? 実際、面接で話した感触もよかったですね」

 面接の直後、内定を告げられた。転職活動を始めてから、たった2カ月ほどで手にした吉報だった。

目先のことではなく、将来を
自分の方向性を見定めて—
 

 進藤さんは、この証券系システム開発会社のほかに2社から内定を獲得。強く望んでいた内定通知だったが、それを獲得したと同時にある意味ぜいたくな悩みを抱えることになる。

「そのうちの1社が、仕事内容的に惹かれる会社で……。どちらに行くべきか、ものすごく迷ってしまったんですね。その会社は稲田さんから紹介していただいた会社ではなかったんですが、どうしても他人の冷静な意見を聞きたくて稲田さんに相談したんです」

 稲田コンサルタントは嫌な顔もせず、丁寧に話を聞いてくれた。そして、進藤さんが目指す将来の方向性に近いのは、証券系システム開発会社だと思うと、率直に答えてくれた。

 

「稲田さんの話はすごく説得力があって、なるほどなぁと思いました。迷っていたもう一つの会社は、実は年収にちょっと不満があったんです。最初の条件より金額を上げてくれたのですが、それも現在の会社の年収より低かった。僕が2社目を辞めたいと思った理由のひとつは給料の低さだったので、収入面でも仕事内容でも希望通りで、業績も安定している現在の会社に決めました」

 決断してすぐ、進藤さんは退職願いを提出した。社長は慌てて、「給料を上げるように見直すから、考え直してくれないか」と慰留してきたが、進藤さんは「今ここでしか聞けない」との気持ちから、「3年後もそんな風に考えていただけるんですか?」と率直に切り返した。

「結局、今給料を上げてもらっても、3年後も待遇が変わらないのでは意味がないし、自分が今と同じ不満を抱いて揉めることは想像できましたから」

 引継ぎ業務を行い、有給休暇を消化した後(※4)、進藤さんは、心機一転、新たな一歩を踏み出した。2006年8月1日のことだった。

転職は今後の人生を真剣に考えるチャンス
自分の能力を伸ばして発揮していきたい
 

 証券系システム開発会社に入社して4カ月。現在は、アシスタントマネージャーとして、モバイル向け証券取引用アプリケーションのシステム保守・運用に携わっている。希望していたシステムトレーディングの仕事ではないが、意外にも進藤さんに不満の色はない。

「まだ入社して4カ月ですからね。仕事の引継ぎが終わって、ようやくこれからってところですし。今はシステムトレーディングに関われないけど、将来的にやらせてもらえる可能性が高いとわかっているので、不満ではありません」

 チームのメンバーは5人。年齢も近い彼らとも、すぐに打ち解けられた。

「転職してよかったなと思うのは、今やっている仕事が、この先やりたい仕事につなげられそうなところ。それに今の職場は、雰囲気も居心地がいいんですよ」

 度を越した残業もなく、旅行や仕事に役立てたいと英会話を習い始め、週末は旅行や映画にとプライベートも充実させている(※5)。「でも、システムトレーディングをやれることになったら、残業しまくってるかもしれませんね」と笑う。

 今回の転職で進藤さんは、「自分の将来について真剣に考えた」という。

「5年後10年後に自分がどういうふうに働いているか? どういう分野でどんな成果を出したいのか? ……長い目で将来を考え、方向性を決めないと、幸せなキャリアは築けないんじゃないかと。ただ納期を守ってやみくもに働いているだけでは、給料も思うようには上がらないんじゃないかと思うんですよね」

 では今後のキャリアプランはどういったものなのだろうか?

 

「僕が好きなのは、みんなで団結してひとつのプロジェクトを動かすこと。だからプロジェクトマネジメントのスキルを磨いていきたいし、コーチングも学んでみようかと思っています。システムだけでなくサービス内容にも携われるシステム事業部長のようなポジションが目標です。ステップアップできるなら海外でも働いてみたいし、その意味では、今の会社に定年までいたいというこだわりは薄いかもしれません。でも、選択肢は多い方がいいでしょう?」

 自分の将来像をほがらかに笑いながら語る進藤さん。前向きで、自分の信念と目標に向かって邁進する努力を惜しまない彼なら、きっとたくさんの選択肢を手にすることだろう。そして、自身のキャリアプランを着実に実行していくに違いない。

コンサルタントより
株式会社インターワークスキャリアコンサルタントチーム
 キャリアコンサルティング責任者  稲田敦司氏
転職活動では方向性を
しっかり定めることが重要!

稲田敦司氏

 技術的にはもちろん、業務経験でも非常に高いスキルをお持ちだった進藤さん。ネット系・IT系企業に

強い弊社なら、ご紹介できる会社も多いと思ったのが、スカウトメールをお送りした理由です。また、AJAXなど新技術の動向を敏感に追いかけるなど、ご自身の成長意欲の高さにも注目していましたね。

 実際にお会いしてみると、コミュニケーション能力もとても高く、論理的に物事を考えられる人だなと実感。もともと高いコミュニケーションスキルをお持ちだったのだと思いますが、20代半ばから、チームリーダーとして折衝力や調整力を駆使してチームをまとめてこられた経験により、さらにブラッシュアップされたのではないでしょうか。こちらからご紹介した会社は全部で18社ほどでしたが、それでも、「金融証券スキルを使えて、さらにスキルアップできるところ」という、進藤さんの希望に沿って絞った結果なんですよ。ご紹介した会社は、プライムとして、システムに携われるところがほとんどでしたね。

 実は、現在の会社が内定した時、進藤さんはほかの会社も内定されていて、どちらに決めるべきか悩んで私に相談してこられたんです。私は「転職市場における市場価値」という観点から、今よりもさらに高いスキルを身に付けられそうな現在の会社をおすすめしました。私自身がIT業界で働いていた時の経験と、長年のコンサルタント経験から導き出した、業界の今後の動向や必要とされるであろうスキルなどの話も、進藤さんのご決断のお役に立てたのではないかと思います。

 転職に際して何よりも大切なのは、今後のキャリアの軸をどう定めるかということ。つまり、自分が将来どうしたいのか、何をやりたいのかということをしっかりと決めておかなければ、満足のいく転職にはなりにくいんです。この点は、最初の面談の際にも、進藤さんにアドバイスしましたね。また、キャリアプランを立てると同時に、ライフプランを考えることも大切。転職によって、家族との時間を今よりも持ちたいという希望を持つ方もいらっしゃるでしょう。そのためカウンセリングでは、じっくりとお話を伺い、時にはその方の家庭環境などもお聞きするなどして、キャリアだけでなくプライベートも、総合的に満足のいく転職をお手伝いできるよう、心がけています。

 現在は売り手市場で、IT系の転職は以前よりもさらに活発です。しかし、自分が「やりたいこと」と「できること」のマッチングとギャップをよく見極めることが重要。入社してみると、予想以上に求められることが多すぎて長続きしないケースも発生しています。そのため、キャリアコンサルタントを通して転職する場合、紹介された案件について「なぜこれを紹介したのか?」とコンサルタントに聞いてみるのも一つの手。進藤さんご自身も、将来の方向性や志向をきっちりと定められていたことはもちろん、積極的に質問したり相談してくださったことが、より満足度の高い結果につながったのではないかと思います。

 
プロフィール
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東京都在住の32歳。大学院在学中から、サーバー管理とデータベースに関わって以来、インターネット系システムエンジニアとしてキャリアを築く。6年間勤務したインターネット・プロバイダー(以下ISP)の、保守的で硬直した体質に疑問を感じて退職。投資情報会社に転職するも、社長のワンマン経営ぶりと低賃金に不信感を抱き、再び転職を決意。現在は証券系システム開発会社で、アシスタントマネージャーとして活躍中。

進藤さんの経歴はこちら
 

何にも手を打たないで(※1)
スタッフ増員やシステム見直しのほかに、サービス登録会員数アップのためのさまざまな提案を社長に出していた。「たとえば、サービスのタイトルがちょっとカタくて、とっつきにくい感じだったので、もっとわかりやすいものに変えるのはどうかとか、ユーザーが欲しい情報だけをPDFにして、一画面いくらで売るのはどうかとか。でもどれも取り上げてはもらえませんでした」。

 

年収は600万以上(※2)
600万という年収額については、進藤さん自身で決めた額。「600万円は譲れなかったボーダーライン。それほど高い金額ではないと思いますが、最初に低めで入って後で頑張って上げる方が、精神的にもプレッシャーが少ないと思って、この額に決めました」。実際、現在の会社でも、年収額についてはすんなり進藤さんの希望が通った。

 

小規模の会社がいいなぁ(※3)
「会社の雰囲気がどうなのかは、入社してみないと本当のところはわからないと思います。でも、単純に考えて、中小企業の方が大企業よりも風通しよく、自分の望みを叶えさせやすいのではと思って。今回は人材バンクを通していたので、コンサルタントから、紹介された会社の雰囲気などを聞けたのもよかったです」

 

引継ぎ業務を行い、有給休暇を消化した後(※4)
「会社に有給休暇について問い合わせると、6日残っているといわれたので、会社の退職日までそれを消化したのんですが、あとから明細を見ると、実は有給休暇は5日で、1日が欠勤扱いになっていたんです。残業時間の計算も良く間違われていたし、そういうところがいい加減なのもイヤでしたね。しかし、僕の転職が決まった時、仲の良かった同僚たちが自分のことのように喜んでくれたんです。これは本当にうれしかったですね」

 

プライベートも充実させている(※5)
進藤さんの趣味のひとつは、友人たちと旅行したりイベントを行うことだが、これらの計画から手配、実行までを、すべて進藤さんが取り仕切ることが少なくないという。「もともと人に頼られるのが好きだし、イベントを企画して実行するのが好きなんですよね。プログラミングの段取りとイベントの段取りって、どこか似てるような気がします」。ちなみにこれまで実行したものは、「温泉バス旅行とか、マツタケ狩りとか…。いろいろ企画しましたねぇ(笑)」

 
取材を終えて

 取材開始後、今回の転職の経緯を非常に簡潔に5分くらいで説明してくださった進藤さん。質問にも、同じように簡潔にわかりやすく答えてくださいましたが、かといって、話が途切れて困るいうわけではもちろんなく、「これがコミュニケーション能力の高さというものか」と、妙なところで感心してしまいました。

 進藤さんが持っている技術スキルとコミュニケーションスキルなら、恐らく、もっと年収の高い会社や、規模の大きな会社も望めたでしょう。でも進藤さんのこだわりは、小規模の会社で、何よりも「自分や現場の話を聞いてレスポンスをくれる」会社。自分自身の性格や志向を、よく把握していらっしゃるなという印象を受けました。

 「職場の雰囲気の良さ」はとても重要なポイントなのに、外からはもっともわかりにくい要素です。面接の時の雰囲気や、会社を訪れた印象などで判断するしかありませんが、進藤さんのように人材バンクを利用してコンサルタントから情報を引き出すというのは、とても有効な手段ではないでしょうか。

 「転職するにあたり、今後の人生を真剣に考えた」という進藤さんの言葉には、ドキッとさせられました。ついつい、目先の苦しいことや不満にとらわれて転職を考えがちですが、「5年後、10年後の自分」を想定して行動すれば、たしかに自分の満足度も高くなることでしょう。

 アイディアマンで、それを実現しようとする実行力も持っていらっしゃる進藤さんのパワフルさに、元気付けられたような取材でした。

 

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