キャリア&転職研究室|転職する人びと|第20回(後編)4度目の転職で出会えた天職 32歳でのキャリア…

TOP の中の転職研究室 の中の転職する人びと の中の第20回(後編)4度目の転職で出会えた天職 32歳でのキャリアチェンジ

     
       
 
一年間に転職する人の数、300万人以上。
その一つひとつにドラマがある。
なぜ彼らは転職を決意したのか。そこに生じた心の葛藤は。
どう決断し、どう動いたのか。
そして彼らにとって「働く」とは—。
スーパーマンではなく、我々の隣にいるような普通の人に話を聞いた。
第20回(後編) 上村啓太さん(仮名)32歳/営業
4度目の転職で出会えた天職 32歳でのキャリアチェンジ 年収100万円アップは あくなき向上心が成功させた

常に新しいことにチャレンジすることが仕事のやりがいだと感じている上村啓太さん(仮名)。会社は経営不振で縮小につぐ縮小。能力は買われているものの「会社の事情」でその先へ進めない。仕事は好きなのだが、このままでは自分がダメになる……。8年間働いた食品スーパーを辞め、次のステップを踏み出すしかなかった。

そこが行き止まりなら
次の道をさがすだけ
 

 だれかが喜んでくれる仕事がしたいと「ホスピタリティ」をキーワードに、大学卒業後、大手ファーストフード店に入社した上村さん。入社後はろくに家にも帰れず、1日1・2時間という睡眠をカプセルホテルで過ごす激務に限界を感じて、1年半で退社することになってしまった。

 その後、ホテルマンに転職するが、1日実働2時間という仕事では自分を大きくすることができないと1カ月で退社。県内で店舗拡大のめざましい大手食品スーパーに入社することになった。常に昨日やれたこと以上のことをやりたいというチャレンジ精神の旺盛な上村さんにとっては、成長過程にあるスーパーは、次々に新しい仕事が与えられ、自分を大きくする環境に違いないと踏んだからだった。

 入社後は休日返上でバリバリ働き、通常は7〜8年かかるところをわずか3年で主任に昇格。しかし、入社して8年の間に会社は傾き、店舗は縮小。自分が次に狙うべき店長のポストどころか、入社して何十年というベテラン従業員の行く末すら危うい状況に陥ってしまった。

 それなら、ここにいる必要はない。上村さんにとって、目指すべき目標がない行き止まりの道はあり得なかった。さっそく会社に退職届を出し、新しい道を探し始めるのだった——。

【人材バンクネット】に登録
白紙の手帳もみるみる真っ黒に
 

 食品スーパーの仕事を終わらせ、引き継ぎも済ませたところで、上村さんは、手帳を広げた。2006年2月の頃だ。1月まではスーパーの精肉売り場主任としての業務の予定がぎっしり書き込まれていたが、次のページをめくるとほとんどまっさらだった。

「さあ、これからこれを埋めていかなきゃいけないんだと思ったときは、確かに不安もありましたが、むしろ期待の方が大きかったですね。つまり、今はゼロ地点ですが、ここからどこへでも行ける、何でもやれると思えたわけです」

 さあ、次はどんな会社でどんな仕事をしようか。次の転職先を考えたとき、頭に浮かんだキーワードは「サービス業」、「スーパーの仕事」、「営業」だった。

 

「『サービス業』は、ホスピタリティの精神が求められる業種だから。当然『スーパーの仕事』も、これまでの経験が生かせるから考えました。ただし、積極的な出店計画などこれからの展望があることが条件でした。『営業』は確かに未経験でしたが、コミュニケーション能力に自信があるので、それを生かしてみたいなとも思っていたんです。でもこの段階ではあまり現実的には考えていませんでした」

 おぼろげながら今後の展望が決まってからの上村さんの行動は迅速だった。まずは、インターネットで転職情報を収集。その過程で興味をそそられる転職サイトに出会った。登録してキャリアシートを匿名公開すると、多数の人材バンク、コンサルタントが閲覧でき、求人の紹介、いわゆる「スカウト」を待つことができる。そして応募後も企業と転職希望者の間に入っていろいろと便宜を図ってくれる。そのサイトは【人材バンクネット】といった。これは使えそうだ……。

 早速登録してキャリアシートを公開(※1)すると、すぐに20社ほどのスカウトメールが届いた。もちろんすべてが自分の希望に合ったものではなかったので、半数ほどの人材バンクには断りの連絡を入れ、それ以外はスケジュールが合う限り面談に行くという毎日を繰り返した。つい数日前はまっ白だった手帳はすぐに書き込みでいっぱいになっていった。

 届いたスカウトメールには、応募するにせよ断るにせよ、すべてのメールにできる限り迅速に返事を送った。また、キャリアシートの更新も手間暇を惜しまず頻繁に行っていた。情報のやりとりが密であること、曖昧な部分を残さず、その場その場できちんと確認をしておくことが、なによりも自分自身の情報管理を円滑に行う要領だと考えているからだった。もちろん、社会人としての礼儀を通すという点でも筋が通っている。

「いただいたスカウトメールにすぐ返信することで、その後の対応がスムーズに行きました。また、キャリアシートを頻繁に更新することで、スカウトメールも増えました。もともとただじっと待つということができない性格だということもあるのですが、すぐに行動することで、より多くの可能性を拾うことができたのではないかと思います」

できるコンサルタントは
キャリアシートを読み込んでいる
 

 そうして、数多くの人材バンクとやりとりしてみると、それぞれの会社が持っている情報もシステムも違うことに気がついたという。

「こちらのキャリアシートを見て、単純に過去に経験した業界や職種の求人案件を送りつけてくるような人材バンクのコンサルタントはまずダメでしたね。ただ紹介をするだけでその後の連絡は一切なく、面接に行っても、その後採用、不採用の通知も来ないというように、ただ機械的に求人を紹介するだけなのです。こういう人材バンクはあまり役立つとは思えず、私も利用しなくなりました。逆に、“使える”コンサルタントは、職務経歴書をじっくり読み込み、それまでのキャリアについて、こと細かく質問され、実際にどんなことをやってきて、どんな資質があり、どんな能力を持っているか、つまり職務経歴書に載っていない部分を引き出そうとしていました。そういった面談で細かいヒアリングを行ったのち、ようやく求人案件を紹介してくれるというわけです。これは、大手企業だからよいといったものでもありません。やはり自分で実際に人材バンクに登録して、コンサルタントとじっくり話してみないと分かりません」

コンサルタントから意外な職種が……
 

 数多くこなした面談のなかで最も好印象だったのが、株式会社 アカデミックの栃木コンサルタントだった。

「栃木さんとの面談でまず感じたのが、キャリアシートを丁寧に読み込んでいただいているなということでした。聞かれたこともかなり細かいものばかりで、特に“何をしたか”ではなく“どうやったか”、結果について“どう分析するか”という点に重点が置かれていました」

 そして一通りの面談を終えた後、栃木コンサルタントの口から出たのは意外な「提案」だった。

 上村さん、営業職はどうですか──?

 転職活動を始めた当初、上村さんはこれまでの経験を生かすという意味で、小売りなどの流通やサービス業を希望していた。もちろん、そうした案件もいくつか出してもらったのだが、もし興味があればと出してきたのが営業職の求人だった。

 

「元々私は人と話をするのが好きですし、また人の話を聞いて、それに応じた受け答えをするのにもそれなりの自信があったので、営業も向いているのかもしれないとは思っていました。しかし、なにぶん未経験ですし、キャリアシートに営業職希望とも書いてなかったので、営業職を提案されたことはなかったのです。ただ栃木さんの薦めでしたので、まずは真剣に聞いてみようと思ったのです」

 しかし、栃木氏の薦めてきた求人の詳細を聞いて上村さんは驚いた。その会社は自動車などのオークションをマネジメントする会社だったからだ(※2)

「なぜ驚いてしまったかというと、面談中、単なる世間話のレベルで、自分は自動車が好きで、今乗っているクルマはオークションで購入した物だということを話していただけだったからです。栃木さんはそれを覚えていてくれて、この求人を持ち出してくれたというわけです。私としても、好きな自動車のことですし、またオークション自体にも興味があったので乗り気になりました。ただ、業界も職種も全く経験がないということで、不利ではないかとも思いましたが、栃木さんは、太鼓判を押してくれましたし。それならということで、応募してみることにしたのです」

 面接は想像以上にすんなりと進んだ(※3)。面接官は取締役と副社長だったが、営業経験がないことも、4度目の転職ということも問題としないどころか、的確な受け答えをする上村さんに、すぐに営業ができると見て取ったようだった。結果は即内定。その期待も大きく、未経験ではあまり例を見ないことだが、主事補という役職での採用。提示された年収も、上村さんの期待を上回る前職に比べて100万円ほどのアップだった(※4)

 ほかにスーパーマーケット6社を含め、12社の内定を得ていた(※5)が、この自動車オークション会社を選ぶことにした。自分の能力を高く買ってくれていること、そして興味のある業界で新しい営業という仕事に挑戦できることがうれしかった。

営業職は天職
 

 新しい仕事に就いて4カ月(取材時)。営業という仕事は、実際にやってみてもやはり上村さんにぴったりだった。

 

「今の営業という仕事は、お客様それぞれが喜んでくれるさまが実際に目に見えるものですし、こうした1件1件がそのまま私自身の成績として数字に出てきます。人を相手に、人にサービスする仕事としてのやりがい。自分のがんばりがそのまま評価されるやりがい。その両方があるのです。前職の店舗販売では、店に人が来ないことが業績不振の理由としてまかり通りましたが、今はそれができません。すべてが自分自身の責任ですから手を抜くことはできませんが、自分の出した成果はすべて自分のもの。これこそ私が望んでいた天職だと思っています」

 商品知識や仕事のあらましも自らおぼえる。いちいち聞いていたら先輩も迷惑だろう。そういうことも自分を磨くことだと考えると苦にはならないという。「頭の中の8割以上はいつも仕事のことだけを考えていますね」と上村さんは明るく笑う。前職で昇進の可能性がなくて悩んでいた頃がうそのような晴れ晴れしい笑顔だ。上村さんは、やはり今の仕事でも確たる目標を設定し、実現に向けてまい進している。

「5年で統括マネージャーになりたいと思っています。ふつう20年はかかると言われていますが、私はだれよりも早く5年でなりたい。そんなことを思い描きながら毎日の仕事を頑張っています。今日できなかったことを、明日はやってやろうと思いながら」

コンサルタントより
株式会社 アカデミック
 シニアコンサルタント 栃木誠一氏
栃木誠一氏
  積極的な人柄と
コンサルタントとの
信頼関係が大きな成果に
 

 上村さんは結果として、いくつもの企業の内定を獲得しました。その勝因は、なんといってもその積極性

です。面談をしていて気づいたことですが、上村さんは、何をするにもすぐに行動ができ、積極的に前に進もうという意欲が見えました。これはおそらく上村さんの生まれ持っての性格に由来するものだろうと思われますが、こうしたポジティブさ、行動力は、業種、職種にかかわらず強いアピール力があります。

 上村さんは、当初、それまでのキャリアを考えて、同じ業界に転職を希望されていました。しかし、話を聞いてみると、未知の世界へチャレンジしようという意欲もあるように見受けられましたので、それならばこうした仕事はどうでしょうと、営業職を紹介したのです。ご本人も最初は少しためらいもあったようですが、挑戦したいという気持ちも湧き出てきたようで、受験したところ、すぐに内定を勝ち取りました。これもご本人の積極的な性格から出た結果だといえるでしょう。

 私たちは、履歴書や職務経歴書ではわかり得ない部分を求職者と面談することで理解し、それを踏まえて企業に打診します。またこの面談を通して、一般の求人広告などでは知り得ない情報を求職者に提供しています。こうしたやりとりが求職者にとっても企業にとっても適切なマッチングができると考えているからです。

 例えば、上村さんは、前職で会社の経営に不安を覚え、結局退職することになったわけですが、そのために流通に関わる案件では、その企業が上向きなのかそうでないのかということを気にされていました。我々は、一般的には知り得ない企業の事情もある部分ではつかんでいます。こうしたものも踏まえて相談に乗ることができるのが面談の強みです。その人、その企業の、掛け値のない等身大の価値を双方に伝えることで、何年、何十年と勤めあげる良好な関係ができるというわけです。

 上村さんが成功した理由は、もうひとつ、私どもコンサルタントとのコミュニケーションが密だった点が挙げられます。求職者は皆、過密なスケジュールの転職活動なので何かとあわただしいでしょうが、上村さんはまめに質問を送ってこられましたし、また我々のスケジュールに合わせてご自身のスケジュールを調整してきてくれました。転職活動は日々状況が変わっており、素早い反応と行動が大きく影響します。上村さんは、常に状況の変化に機敏に対応し、我々のアドバイスを取り入れて行動していただいたので、好結果に結びつけることができたのです。

 求職者とコンサルタントとのコンビネーションというのは、さまざまな要因があって、常にぴったり合うとは限らないのですが、それがうまくいくと、おそらくご本人すら想像しなかった結果が出ることがあります。上村さんの場合、そうした幸運な例だったといえるでしょう。

 
プロフィール
photo

大学卒業後、大手ファーストフード会社の新規事業部としてデリバリーの和食店の仕事に就くも、家に帰ることすらできない激務のため退社。ついでホテルマンの仕事に就くが、こちらは1日の実労がわずか2時間という状態に耐えられず1か月で辞め、大手スーパーに就職。約8年間勤めたが、会社の経営が危うくなり、自分の昇進するポストがないということで退社。現在は、自動車のオークションを斡旋する企業の営業マンとして活躍している。

上村さんの経歴はこちら

キャリアシート(職務経歴書)(※1)
ネット上のキャリアシートだけではなく、応募する際に提出する職務経歴書も工夫して書いた。上村さんは、読む相手が何を求めているかという点を常に念頭に置いて書いたという。
「最初に自身の自己アピールを簡潔に書き、それから時系列に沿って職歴を箇条書きにする。職歴も自己アピールの内容の裏付けになるように、業務内容を書き込み、成功したことばかりではなく、失敗したことも、その失敗の分析やその後の対応も含めてきちんと書き込んでおく。また、アピールしたい箇所は面接時に自分の言葉で説明したいので、面接官が興味をもって質問してくるようにあえて含みを持たせて詳しく書かないなど。そのほか、相手から見て、見やすく理解しやすいように部分によって罫線を引き、表のスタイルにしたり、字体を変えたりといったビジュアル面でも工夫をしました」
とにかく、最初に相手に自分を知らしめる重要な書類であり、面接の際の重要な資料として使われるはずなので、書類審査に通ることだけを考えて書くものではないというのが上村さんの意見だ。

 

自動車などのオークションをマネジメントする会社だった(※2)
中古車その他の商品のオークションを運営、マネジメントする会社。売る方も買う方も業者で、参加者は会員限定。新しい形体のオークションということで、業績を伸ばしている。その会員数を増やすのが上村さんの仕事。

 

面接は、想像以上にすんなりと進んだ(※3)
「最初は、PC事業部はどうかねといわれたのですが、それよりもと、オークションで車を買った経験を話すと、では自動車部門がいいと言っていただきました。和やかに話をして、これで概ね決めていただいたようです。その後、自動車の事業部の方とも面接しましたが、それはほとんど顔見せ程度のものでした」

 

100万円ほどのアップだった(※4)
年収の交渉などは、採用面接の場所ではなかなか切り出しにくいもの。しかし人材バンクを利用した転職の場合には、コンサルタントが交渉してくれる。上村さんの場合も、直接聞きにくいことは、すべて栃木氏に相談して回答を得ることができたという。

 

スーパーマーケット6社を含め、12社の内定を得ていた(※5)
上村さんは【人材バンクネット】経由以外でも、転職活動を行っており、内定も早い段階から獲得していた。「時間はまだまだありましたし、今度こそ自分の納得のいく会社で働きたいという気持ちでしたから、内定をいただいても、それで決まりとは思いませんでした。収入についても、当初は前職と同じ程度でもいいかなと思っていましたが、どうせ転職するのだから、もっと上を目指せるのではないかと欲も出てきましたし。実際探せば探すだけ、各企業ともそれぞれに個性があることもわかりましたから、ここはいろいろ相談させていただいて、これだというところが見つかるまでじっくり探していこうと思っていたのです」

 
取材を終えて

 最後に「最終目標は経営者になることですか?」と聞くと、上村さんは「それには興味がありません。あくまでも人にサービスする仕事をやり続けたいのです」ときっぱり答えました。上村さんは、いつも仕事のことばかり考えている「仕事人間」だとお見受けしましたが、出世を狙う野心家というのではなく、仕事を通して自分を高めること、常に新しいことにチャレンジすることに生き甲斐を感じるタイプだと感じました。ですから、人に評価されることを望む以前に、自分自身が納得したくて仕事に打ち込んでしまう。そんな一種の職人タイプでありながら、ホスピタリティに感心があるという方向性は、まさに営業職こそ天職ではないかという気がしました。

 上村さんの場合、そういうパーソナリティを見抜き、それを踏まえて企業を紹介してくれるコンサルタントに出会ったことは大きなポイントだったと思います。優れたコンサルタントに出会うことが転職活動を成功する大きなカギだともいえるでしょう。

 

TOP の中の転職研究室 の中の転職する人びと の中の第20回(後編)4度目の転職で出会えた天職 32歳でのキャリアチェンジ