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一年間に転職する人の数、300万人以上。
その一つひとつにドラマがある。
なぜ彼らは転職を決意したのか。そこに生じた心の葛藤は。
どう決断し、どう動いたのか。
そして彼らにとって「働く」とは—。
スーパーマンではなく、我々の隣にいるような普通の人に話を聞いた。
第16回(後編) 鈴木りささん(仮名) 26歳/Webディレクター
ニート寸前からカムバック! 退職推奨のイヤミもはねのけて ようやく手にした理想の仕事
実績を築くために、転職活動を見合わせた鈴木さん。異動により、意欲的に仕事にも取り組んでいた。だが会社の労働条件について社長に疑問を投げかけたところ、社長や上司から、退職推奨とも取れる言葉を浴びせられるように。その状況に、鈴木さんは——
ユーザーサポートに異動
意欲的に仕事に取り組む日々
 

 転職活動を断念した鈴木さんだったが、入社して半年後、朗報が舞い込んだ。

「会社の体制変更でできたサイト運営専門の部署に配属されることになったんです」

 ウキウキした気持ちで異動した鈴木さんには、求人情報を利用する一般ユーザーのカスタマーサポートと営業管理事務が任された。

 

「ようやく一般ユーザーのサポートにまわることができて、やったー!って感じですよ。それに、異動先の上司や先輩が、とてもいい人だった。仕事の進め方など、学べるところが多くて尊敬していました」

 時にはユーザーからの問合せ内容に、ストレスや無力感を感じることもあった。だが、信頼できる上司や先輩のサポートもあって、自分の中で上手く切り替えられた。

「転職活動をやめた後は、気持ちを入れ替えて、前向きに仕事に取り組むよう心がけていました。でも異動後はさらに前向きになって(笑)、何でもやるしかない!という気持ちで、全力で仕事に対するようになっていました」

 職務経歴書に、「正社員でこの仕事を○年やりました」と胸を張って書ける「実績」を作りたい——。その思いが、鈴木さんを支えていた。

労働条件、システムに高まる疑問
上司たちの嫌味にとうとう……
 

 その一方、鈴木さんの、会社の経営陣やシステムに対する不満や疑問は、解消していなかった。

「すごく離職率が高い会社だったんですが、働けば働くほど、それが納得できるんです。とにかく、労働条件が労働基準法に抵触しそうなほど(※1)、疑問だらけだったんです」

 まず、会社にはタイムカードが存在しなかった。そのため、残業時間が計上されることはなく、当然のことながら残業代は出ない。遅刻をすれば欠勤扱いとされるので、日給月給制の給料からは、「欠勤」とみなされた分だけ、どんどん差し引かれてしまう。その上、有給休暇が不当に消化扱いされていることがたびたびだった。

 

 毎日残業している割に、少ない収入。加えて一番イヤだったのが、昼休憩の電話当番制だった。

「1時間の昼休憩に、全社員が持ち回りで電話当番として会社に残り、昼食を取りながら、かかってきた電話に対応するんです。とにかく落ち着いてご飯が食べられないし、早く食べないといけないから体にも悪い。これってよくあることなの? と試しにインターネットで調べてみたら、どのサイトでも、『電話当番をしている時間は労働時間とみなされるため、休憩時間をずらして取ってよい』と書かれていて……。思わずため息が出ましたね」

 入社して1年が過ぎた頃、結婚したいと思える男性が現れた。結婚後もそのまま働くつもりでいたが、こんなに働いているのなら、もう少し収入を増やせたらいいのに……という思いが、日増しに強くなっていた。

「何か疑問や提案があれば、直接社長に言ってみようという雰囲気が社内にはあったんです。実際社長は、気さくで話しやすいタイプの人柄で、ほかの社員は社長にいろいろ相談していたみたいで。だからある日、思い切って以前から感じていた労働条件の疑問を社長に投げかけてみたんです」

 ところが——。

「2日後、いきなり呼び出されて言われたんですよ。そんなに不満があるのになんでこの会社にいるの? って」

 それからは、毎日のように管理職の上司たちに、何かしら呼び出されるようになった。曰く「キミはこの会社の雰囲気に合わない」「キミは評判が悪いんだよ」「キミにはこの仕事、向いてないんじゃないの」等々。

「それって、退職推奨じゃないの?」

 同僚や友人たちから言われるまでもなく、鈴木さんもそう実感していた。また同じ頃、尊敬していた直属の上司が、鈴木さんのことを心配しながら退職していった。

 もうこの会社で、いろいろ我慢して(※2)がんばる理由なんかない——。

 入社して1年4カ月、そして入社後に転職を思いとどまってから約1年。2005年10月、鈴木さんは、転職活動の再開を決意した。

今よりもいいところに転職してやる!
前向き&行動あるのみの転職活動
 

 鈴木さんの転職活動は、【人材バンクネット】のキャリアシートの更新と、匿名公開からスタートした。

「仕事柄、【人材バンクネット】は以前から知ってはいたのですが、1カ月前にたまたま登録だけしていたんです。希望職種はモバイルかPCのWebサイト運営や企画制作。それに今回は『英語が使える環境であること』も希望しました。日常的な英会話は問題ないのですが、ビジネス英語はまだまだなので、そういう環境の中で習得したいと思いまして」

 公開すると翌日から、多い時は1日に5、6通ほど、ほぼ毎日スカウトメールが届いた。

 

「メールをチェックして、少しでもピンときたらすぐに返信し、どんどん面談に行きました。ちょっとでも疑問があると、コンサルタントに確認するようにしていました」

 コンサルタントから話を聞き、興味を持てば話を進めてもらい、ちょっと違うと思ったら迷わず断った。

「とにかく絶対、今の会社よりいい環境で働くんだ! と、毎日それこそ、お経のように唱えながら、転職活動をしていました」

テンプスタッフ株式会社の杉田正己コンサルタントからのスカウトメールも、匿名公開してからほどなくして届いたメールの一通だった。

「一度面談に来ませんか? という内容だったのですが、返信したら、すぐ面談の日が決められて……。その頃は、休む間もなくいろいろな人材バンクへ面談に行ってたし、しかも面談当日はとても寒い雨の日で、一瞬、キャンセルしようかなと思ったんです。でもまあ、せっかく予約したんだし、行ってみるかと思って行ったんです」

 「やさしそうな印象」の杉田コンサルタントは、鈴木さんのこれまでの職務経歴やスキル、希望する職種や勤務条件について、熱心に聞いてくれた。そして話し終わると、これまでどの人材バンクでも見たことがないほど、たくさんの求人案件を目の前に並べた(※3)。

 

「杉田さんは、案件を一つずつ、とても丁寧に説明して下さいました。その場で応募するところをいくつか決めたんですが、ふと、以前自分のHPを作って運営していたことを話したんです。で、『実は、デザイナーの仕事にも興味あるんです』と、気軽に言ったんです」

 すると「ちょっと待って」と言って、杉田コンサルタントがファイルを持って来た。

 そのファイルはその当日来たばかりだという求人案件で、音楽などのデジタルコンテンツ配信を手がける、外資系企業だった。募集は著作権管理とWebデザイナーの2職種。

「画像編集ソフトの簡単な操作しかできないけど、Webデザイナーに応募できるなら応募したい、と杉田さんに言ったら、じゃあ、進めましょう、ということになったんです」

 それから数日後、杉田コンサルタントから「面接のアポが取れた」という連絡が入る。

「ところが、なんとWebデザイナーの募集は終わっていたと言われて。えーっと思ったんですが、杉田さんが、『興味があるなら、著作権管理の方で応募してみませんか』とおっしゃったんです。私自身、この会社に興味があったので、それで進めて下さいとお願いしました」

面接を受けて、高まる会社への興味
そして結果は……
 

 応募から2週間後、書類選考を難なく突破した鈴木さんは面接に臨んでいた。面接担当者は、社長と募集職種の責任者の2人。「ずいぶん若い社長だなぁ」と内心驚いていた鈴木さんは、社長の言葉にまたしても驚くことになる。

「私の履歴書や職務経歴書を見ながら、『Webデザイナーをやりたいんだね。じゃあそちらからやってもらおうか』って言われて」

「あの、それはもう募集が終わったんじゃないでしょうか…?」

 恐る恐る尋ねる鈴木さんに、社長はニッコリ笑ってこう言った。

「まず最初は運営に入って仕事を覚えてもらい、どんどんいろいろなことをお任せしたいんですよ」

 最初の面接から、いきなり採用が決まったような雰囲気で話が進むのは危ない——。そんな過去の経験に基づいた不安が、ちらりと頭を掠めた。だが、社長のやさしそうな印象や、業務内容についてわかりやすく説明してくれる責任者の話しぶりに、どんどん、この会社への興味が高まるのを感じていた。

 

「面接は最後までいい感触でした。年収額も希望額でOKが出ちゃって。でも、ここで採用されるかも……と期待しすぎると、ダメだった時のショックが大きいなぁ、とも思っていました」

 2次面接まで進めるのだろうか。それとも不採用だろうか——。落ち着かない日々で過ごしていた鈴木さんのもとに、10日後、杉田コンサルタントからの連絡がきた。結果は、採用内定。

「本当にびっくりしました。まさか1回の面接で内定が出るとは思ってもみませんでしたから。でもすごくすごくうれしくて、叫びだしそうでした」

 それから1週間後、鈴木さんは当時働いていた会社を退職した。

「尊敬していた上司はとっくの昔に退職していたし、慕っていた先輩も、同じ日に産休に入ったんです。もう全然未練ナシ! とにかく最高の気分でした」

いろいろな経験を積んで
会社のために自分のために成長したい
 

 12月1日に入社して5カ月。鈴木さんは現在、入社前には想像もできなかったさまざまな仕事を手がけている。

「今、一番比重が大きいのは、携帯電話の着信サイト更新時のキャッチ制作と、海外アーティストの音源を配信できるように整備すること。あと、海外のサイトに掲載されている、アーティストやアルバムの紹介文を翻訳して音楽情報っぽくリライトし、提携している携帯会社に提案もしています」

 転職活動の際に望んでいた、サイト運営、企画、制作の仕事を手に入れたのだ。それだけではない。

「インディーズのミュージシャンの楽曲保護にも携わっています。これって、著作権管理の仕事なんですが、ああ私、結局この仕事もしてるなあと思ったらおかしくて」

 楽しそうに笑う鈴木さん。実際、仕事が楽しくて仕方がないようだ。

「職場の雰囲気も、風通しがいいし、やってみたいと思うことを(※4)やらせてもらえる柔軟さもある。責任を持って仕事をするって、こういうことなんだなぁと実感しています。もう何から何まで大満足! これまでの職場はなんだったんだろう、と思いますよ」

 この転職で、鈴木さんが得たものは、計り知れないほど大きなものだった。

「今回の転職では、どんどん行動に移すべし、と思って活動していましたが、これは転職後も忘れてはいけないなと思います。待っていないで、自分から行動すればこそ、『人生何事もタイミング』『幸運は偶然じゃない』ということが現実になると実感していますし。あ、それから、自分の可能性を狭めないことも大切かな。だってもし私が、Webデザイナーの応募を希望しなければ、この会社にはめぐり合わなかったわけですから」

 入社して1カ月後、鈴木さんは結婚したが、このまま仕事を続けていくつもりだという。

 

「夫も、専業主婦になるよりは、むしろ好きな仕事をしていてほしいと言ってくれるので。将来は自分の部下を持って、一つの企画・運用をハンドリングできるようになりたいんです。そのために、もっといろいろな経験を積んでいきたいなぁと思っています」

 キラキラと目を輝かせて話す鈴木さん。まるで水を得た魚のように、楽しそうに働く姿を見れば、鈴木さんの目標は、きっと近い日に達成されそうに思われる。それも、現在想像しうる以上のスキルを身に付けて——。

コンサルタントより
テンプスタッフ株式会社
 キャリアコンサルタント 杉田正己氏
仕事への熱意と
将来性をアピールすることで
経験不足をカバー!

原田 周作氏
鈴木さんにスカウトメールを送ったのは、その当時、自社サイトの企画・運営を行っていた点に注目したからです。
 

昨今のモバイルコンテンツ市場の急激な拡大に伴い、Webサイトの運営スタッフの求人は増加しているので、紹介できる求人があるのではないかと思いました。また、公開レジュメの書き方が良く、キャリアシートの文面からこれまでの経歴・やってきた仕事がしっかりイメージできました。こういう点は、スカウトメールを送る際のポイントになりますね。

しかし、正直なところ、面談する前は内定を取るのは厳しいかなと思っていました。企業が求める経験・スキルが少しハードルが高いと感じたからです。

でも面談の中で、
1.Webデザイナーに興味がある 
2.ご自身でホームページ作成の経験がある 
3.自社サイトの運営業務を担当している 
4.頭の回転の速さ
などの要素から、「このポテンシャルなら、仕事の環境さえよければ早いタイミングで企業の求めるレベルまで成長するだろう!」と判断し、企業へ強くプッシュしました。

また面談を行う中で、ご自分のこれまでのキャリア、仕事に対する熱意、できること、できないこと、長所、短所などすべて素直にさらけ出してくれましたので、コンサルタントとして第三者の視点からアドバイスをさせていただきました。

そして鈴木さんは私の期待を上回るパフォーマンスで内定を獲得しました。経験不足ではあったものの、それをカバーするだけの業務に対する熱意と将来性が評価された結果だと思います。

面談時のエピソードですが、大まかなキーワードはありましたが、具体的な方向性がまだはっきりと決まってないように感じましたので、キーワードに少しでも引っかかる求人をピックアップして紹介しました。そしてなぜこの仕事を紹介するのか、なぜ可能性があるのか、具体的な理由を説明しました。できる限り可能性を拡げ、選択肢を増やすのも私たちの重要な仕事のうちですから。

人材バンクのコンサルタントは、転職希望者の職務経歴書や履歴書上には現れていない「強み」を見つけ出して企業にプッシュします。こういう点も、我々人材バンクを利用する大きなメリットですね。

そして決定的だったのが、「タイミング」です。面談の30分前くらいに今回の求人案件が来たんです。ちょっと経験的に厳しいかなと思いましたが、これも何かの縁だと思い紹介しました。我々は「転職は縁とタイミングとスピード」とよく言うんですが、まさにこの3つがそろったラッキーなケースでした。

今回は結果として内定を取れましたが、ポテンシャルだけではなかなか希望の転職ができるわけではありません。鈴木さんにしても基本的なスキル・経験に加え、業務に対する「やりたい!」という熱意が企業側にきちんと伝わったことがスムーズな内定獲得につながったのだと思います。

 
プロフィール
photo
東京都在住の26歳。既婚。アメリカ人の父親と日本人の母親をもつハーフ。大学在学中から大手マスコミで働くも、卒業後は正社員として働く意義を見出せず、 派遣社員として官庁関連施設で働く。1年後契約満了で退職後は某人材紹介会社 に正社員として入社。約1年半勤めた後、会社に対する不安と不満と上司による 退職勧告が重なり転職を決意。現在は外資系企業でWebディレクターとして充実 した毎日を送っている。
鈴木さんの経歴はこちら
 

抵触しそうなほど(※1)
「自分のホームページを運営していた時のつながりで、法律事務所に勤めている友人がいるんです。その友人に、いろいろと疑問に思っていたことを聞いていました」。友人から「法律違反」と聞くたびに、やはり会社のシステムはおかしいという思いを強めていた。

 

いろいろ我慢して(※2)
実は鈴木さんは、この4カ月前にも転職活動をしていた。「ちょうど入社して1年経った時、会社の給与システムのおかげで、生活に困るほど収入が少なかったんです。これはどうにかしなければ、と思って」。いくつかの会社に応募し、内定が出たところもあった。「でも直前になって、面接の時に自分を良く見せすぎたんじゃないか、これで入社して、ダメなヤツだと思われたらつらい、と思って断ったんです。なぜそんなに弱気になったのかはわかりませんが……。ただ、4カ月後に退職推奨されてからの転職活動には、いっさい迷いがなかったので、もしかしたら、その時まだ自分はあの会社でがんばらないといけないという思いがあったのかもしれません」

 

たくさんの案件を目の前に並べた(※3)
杉田コンサルタントが提示した案件の中には、経理や秘書など、希望職種ではない仕事も含まれていた。「杉田さんは、私の経歴やポテンシャルと英語ができるということを考えると経理や秘書もご紹介できます、と説明して下さって、なるほどなぁと思いました。お話をうかがっているうちに、それなら挑戦してみようかな、という気持ちになって、経理や秘書の応募も進めていただいたんです」。現在勤めている会社から内定が出たため、結局それらの会社の選考には臨まなかった。

 

やってみたいことを(※4)
「翌月に来日する海外のアーティストのレア音源を配信」など企画提案を行ったり、時には新人ミュージシャンのスカウトやプロモーションを行うこともある。「どれも、やってみたいと希望を出して叶ったことなんです。自分のやりたいことをどんどんやらせていただける環境にあるのは本当にありがたいことだと思います」

 
取材を終えて

 美形なのにざっくばらんな印象だった鈴木さん。お話をうかがいながら、その行動の速さには本当に感心しました。「思いついたらすぐにやってみる」という機動力が、現在の「すべてにおいて大満足」な転職につながったのではないかと思います。「行動を起こさなければ何も始まらない」。取材中に、鈴木さんは何度かこの言葉を言われましたが、本当にその通りだと思います。

 転職活動も、職務経歴書の書き方や自己PRの仕方などを研究したり、コンサルタントのアドバイスを素直に聞くなど、情報をうまく取り入れながら、徐々にパワーアップ(?)させているところは感心するばかり。情報に振り回されすぎるのはよくないけれど、客観的な視点で取捨選択していくことは、非常に重要なことではないでしょうか。

 よくよくお話をうかがってみると、様々な葛藤や屈折があったのに、「そういえばそうでしたね……」と笑っていた鈴木さん。そこに芯のしなやかさを感じました。

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