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一年間に転職する人の数、300万人以上。
その一つひとつにドラマがある。
なぜ彼らは転職を決意したのか。そこに生じた心の葛藤は。
どう決断し、どう動いたのか。
そして彼らにとって「働く」とは—。
スーパーマンではなく、我々の隣にいるような普通の人に話を聞いた。
第13回(後編)六馬さん(仮名)27歳/システムサポート
極悪会社に見切りをつけ 応募から10日で内定ゲット スピード転職の理由とは
社員を使い捨てにする会社の体質やワンマン上司に見切りをつけ、転職を決意した六馬さん。思惑どおり、昨年10月に会社都合での退職にこぎつけ、本格的に転職活動をスタート。動けなかった2年半を挽回するような超スピードで、彼女に幸運が舞い込んだ。
2年半前、上司命令がきっかけで
密かに【人材バンクネット】に登録
 

 何度も「転職したい」と思いながら、2年半も仕事を続けた六馬さんだったが、在職中もただ漫然としていたわけではなかった。表立った行動はできなかったが、水面下では冷静に自分の将来を模索していたのである。【人材バンクネット】にも、実は2年半前の入社当初から登録だけはしていた(※1)
 

 しばらくは放置状態だったが、その後、会社に疑問を持つようになってからキャリアシートの更新をするようになった。

 「当然登録当初は全然スカウトメールが来なかったんですが、新しい経験、実績を積み、スキルを身に付けるたびにこまめにキャリアシートに書き込んでいくうちに、少しずつスカウトメールが届き始めたんです」

解雇宣告をきっかけに、
本格的な転職活動をスタート
 

 六馬さんが本格的に転職活動を開始したのは、社長からの解雇宣告を受けた2005年10月中旬。

 今回の転職に際して、六馬さんが一番こだわったのは、前の会社のように社員を使い捨てたりせず、組織がしっかり安定していて、有休や残業、ボーナスなどの雇用条件がきちんとしている会社であること。仕事内容の第一希望はWebデザイン、第二希望はパソコンが使える仕事。この二つは、絶対に譲れない条件だった。

 Webデザインという仕事内容だけにこだわるなら、デザイン事務所なども考えないわけでなかったが、組織的に小さい会社が多いことと、ワンマン上司が出現しかねない少人数の組織にも不安があった。そこで、ある程度の大きさの規模で、組織的にしっかりしている会社に限定して、応募先を絞り込んだ。

 年収面では、前の会社より上がることが最低条件だった。前職は正社員にも関わらず年収300万円だった。これでは生活していくのがやっとだ。

 これらの条件を満たすスカウトメールに返信、感触のよさそうな人材バンクに行って、コンサルタントに直接会ってみることにした。

 「実際に行った人材バンクは、3〜4社です。直接、話を聞こうと思ったのは、メールの文章がきちんとしていて、条件がしっかり提示されていたところ。また、メールや電話でのやりとりで、紹介された会社以外にも案件を紹介してもらえそうだったり、コンサルタントの方が一生懸命やってくれそうかどうかも決め手になりましたね」

 何人かのコンサルタントには、職務経歴書や履歴書の書き方などの指導もしてもらったが、パソコンの設定や、ブログやメルマガで文章を書くことなど、「できて当たり前」と思っていたことが、特技やスキルになることに初めて気がついた。目からうろこの体験だった。

 六馬さんが、ヒューマンタッチ株式会社(旧・ヒューマンリソシア)の由里朋久コンサルタントに初めて会ったのは、昨年の11月11日。そこで、すぐに「条件に合った会社があるから」といくつかの会社を紹介してもらい、会社概要などを詳しく聞いたうえで応募してみることにした。

 そのうち強く勧められた会社は4日後に一次面接があるという。ゆっくり検討する時間の余裕はなかったが、東証一部上場の100%子会社で経営も安定、仕事内容もパソコンを使え社内SE的な仕事だったのでその場で応募を決意。翌日には書類を提出した。

「馬」で盛り上がった一次面接
あきらめていたら「合格」の連絡が
 

 無事書類選考を通過して、15日の一次面接に出かけた六馬さん。前半は、今まで経験した仕事内容やスキルなどを聞かれ、入社後配属される予定部署の先輩とも話をすることができた。また、前の会社でサービス残業が多かったので、1日の残業時間などもしっかり確認した。

 給与の話になって、六馬さんが電卓代わりにPHSを出したとき、担当者の視線が釘付けになった。そのPHSには競走馬のマスコットがついていた。

 「あれ、君、もしかして馬好きなの? ウチの前会長も競走馬、たくさん持ってるんだよ」
その担当者の一言で、六馬さんの緊張が一気に吹っ飛んだ。

 「前会長は、競馬界ではかなり有名な馬主さんだったんです。実は、私も一口馬主(※2)で馬を何頭も持っているほど、大の馬好き。それで、思わず抑えが効かなくなって、一次面接の後半30分は、馬の話オンリー。メチャクチャ話が盛り上がりました(笑)」

 「これだけ馬の話ばっかりしちゃったから面接はもうダメだ」と思ったが、大好きな馬のことを話のわかる相手と思う存分話せたので、これで落ちても悔いはなかった。しかし、数日後、「一次面接合格」の知らせが届いたのだ。

 大好きな馬の話で最初のハードルを無事越えた六馬さんは、21日の二次面接に臨んだ。内容は条件面の話がメインだった。年収額は希望よりも少なかったが、結果を出せば2年目以降に昇給できるだろうとの確信を得たので先方が出してた条件に対してOKを出した。するとその5分後、内定を告げられた。

 「いやあ、うれしいというよりビックリでしたよ。なんせ応募から10日ですからね」

 まさかその場で内定が出るとは思っていなかった六馬さんは、迷った末に「少し考えさせてください」と、その日は返事を保留して帰った。22日にも並行して受けていた別の会社の面接が終わってからでも遅くないと思ったからだ。しかし結局最初に内定が出た会社に決めた。

 「22日に面接した会社からも内定をもらったんですが、基本給が低かったのと、人事担当の方の印象があまり良くなかったので、今の会社に決めました。自分でもこんなに早く転職できるとは思ってなかったですね。本当に、由里さんのおかげです」

 こうして超スピード転職を成功させた六馬さんだが、転職を決める前に、他の会社ももっといろいろ見てみたいという気持ちは起こらなかったのだろうか。

 「確かに他の会社も見てみたいという欲もあったんですが、ボーナス時期に差し掛かってきて、前の会社から解雇予告手当はもらっていたけど、年末、このまま無職で過ごすのは心もとないという不安があったんですね。また、家でのんびりしてるよりは、とにかく仕事がしたかった。1日も早く仕事に就けるなら、それに越したことはないと思ったんです」

将来もずっと仕事を続けるために
この会社でスキルを身につけたい
 

 現在、六馬さんはシステム部の開発チームに所属し、システムサポートとして新しいパソコンの設定、社員アカウントの作成、社内サーバのチェック、メーリングリストの登録手続などを行っている。仕事内容としては、第一志望のWebデザインではないが、その点に不満はなかったのだろうか。

「現在は直接はデザインの仕事に関わっていないのですが、Webデザインの部署から『デザインができるなら、手伝って欲しい』とは言われているので、将来的に仕事をする可能性はあると思います。他にも記事を書けるかもしれないし、そういった新しい可能性もあるんです。いろいろ面白いことができそうなので、今後が楽しみです」


 六馬さんが今の会社に入社して1カ月が過ぎたが、職場環境や人間関係の良さ、働きやすさは、前の職場とは比べ物にならない。もちろん、人格に問題のある上司なんて、どこにもいない。膨大なサービス残業もなく、自分の仕事が終わったら、誰にも気兼ねなく帰れる。ある意味では、きちんと仕事をするために必要なごく普通の会社員の生活を、ようやく手に入れたのだ。

 「今回の転職は、自己採点で85点。マイナス点は、お給料があと少しでも良ければもっとよかったかなという部分。それ以外は、すごく満足しています。また、仕事の上で上を目指せるのは、前の会社では考えられなかった大きなメリットですね」

 仕事上では今まで未経験だったことも多く、六馬さんにとっては日々勉強の毎日だが、すでにプライバシーマーク取得の際などには、Webの部分的な削除や追加作業も担当した。そういった新しいスキルを身に付けられることもうれしいという。

 「将来の目標としては、仕事は一生ずっと続けていきたいと考えているので、新しい技術をしっかり身につけて、自信を持ってそれで食べていけるようになりたい。自分のしていることが、社会や人々に対して何らかの有効な作用をもたらしていくのが、仕事をする魅力だと思う。自分の人生の中で、仕事の占める割合は大きいですね。もし、宝くじが当たっても、きっと仕事はずっと続けていくと思います」

 初めて正社員になった会社での、ドラマのような信じられない2年半。ただ、だまって耐えるのではなく、言うべきことはきちんと言い、会社や上司とも戦った。そんな会社でも、自分の仕事に自信を持ち、仕事の成果はきちんと出した。転職すると決めたときも、予定通り「会社都合」で退職。在職中から、【人材バンクネット】を活用し、水面下での情報収集も怠らなかった。

 今回の異例のスピード転職も、決してラッキーな大穴が当たったわけではなく、そんな彼女のこれまでのさまざまな経験と努力の賜物なのだ。

 六馬さんが新しいスキルを身に付け、さらに上のステージにチャレンジする日もそう遠くはないだろう。

コンサルタントより
ヒューマンタッチ株式会社(旧・ヒューマンリソシア)
 アシスタントマネージャー 由里朋久氏
決め手はスピードとタイミング
職種の間口を広げる柔軟さも大切

由里 朋久氏
 六馬さんにスカウトメールを送ったのは、年齢とい

い、キャリアといい、企業の求める人材像に、まさにピッタリだったから。

それに、とにかくレスポンスが早く、メールを出したその日のうちに、スムーズに面談の日を決められたんです。

実際に六馬さんにお会いしてみて感じたのは、真面目で信頼感が持てるということ。また、27歳という若さにも関わらず、以前の職場でさまざまな苦労を重ねている上に、「会社都合で退職」となるまでがんばり続けてきた。そういったことも、少々のことではギブアップしない粘り強さや誠実さにつながり、好印象でしたね。

六馬さんの希望職種と実際のスキルに、無理な開きはなかったのですが、「転職活動をする上では、細かな希望職種にこだわって間口を狭めない方がいい」とアドバイスしました。たとえば六馬さんの場合、Webデザイナーを希望されていましたが、彼女の持つスキルとキャリアなら、Webディレクターやプログラマにも十分挑戦でき、その分、エントリーの幅が広げられます。六馬さん自身、このあたりはよく理解できたようで、当初の希望職種に固執しなかったのも、転職がスムーズに進んだ一因だと思いますね。

内定が出た2社のうち、今回入社された企業については、年収額が六馬さんの希望より少し低かったのですが、私も企業側と年収交渉をしつつ、同時に彼女には、「この企業は現在積極的に従業員を増やしているので、これからどんどん業績を伸ばし、2、3年後には、恐らく入社が難しくなる企業だと思う」と助言。実際、業績が伸びれば、給料も増えますからね。企業の将来性という点に、六馬さんの気持ちも固まったのではないでしょうか。

入社して2カ月目ですが、企業側の六馬さんへの評価は高く、「グループの中心となってがんばってもらっている」と、担当者からお聞きしました。ColdFusionという新しい言語を覚えなければならないなど、大変な面もあるようですが、以前の職場で、未経験の仕事やトラブルに粘り強く対応していた彼女のこと、今回もきっとうまく乗り越えられるだろうと信じています。

実は面談の後、六馬さんには複数の案件を紹介したのですが、企業側からの「すぐに会いたい」という反応は、今回決まった自動車関連サービス会社が一番早かったんです。仕事が決まる時には、企業と求職者、お互いのニーズが噛み合う「タイミング」と、そのタイミングを逃さないように素早く動く「スピード」が大切だと常々思っているのですが、六馬さんの場合、この2点がバッチリ機能したといえますね。

 
プロフィール
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東京都在住の27歳。大学卒業後、大学院進学を目指していたが、家族の勧めもあって就業に方向転換。派遣社員としてシステム会社で顧客名簿等のデータ入力作業に従事。その後、ファッション関連卸し会社に正社員として就職。Webデザイナーとして、楽天Web店舗や自社Webの制作・運営・更新業務を行っていたが、2年半後、業績不振により退社。現在は、消費者向け自動車関連サービス会社の開発グループで、システムサポートとして活躍している。
六馬さんの経歴はこちら
 

※1 登録はしていた
「会社に入社した当初、上司がポイントメールに入っていて、新会員を紹介するとポイントがもらえるというキャンペーンのときに、上司命令で全員、会社のアカウントでポイントメールに入らされたんですよ。その後、ポイントメール経由で来た転職系のメールの中に人材バンクネットからのものがあり、良さそうだったので、すぐに登録しました」
登録はしたものの、当時の六馬さんは、具体的に転職を考えていたわけではなかった。一応、簡単な略歴だけ書いてキャリアシートは公開したが、スカウトメールも全然来なかったので、更新もせずにそのまま放置していた。

 

※2 一口馬主
「一口馬主で持っている馬は、現役だけで13頭。菊花賞3着で有馬記念にも出たオペラシテチーも持っています。今まで買った馬で一番高いのは4800万円で、一口12万でした。以前、大好きだった競走馬がいて、その子どもが欲しくて買っているので、もちろん勝てば配当がありますが、収支的には赤字で完全に自己満足の世界ですね。最大の利点は、ウイナーズサークルに入れること! 馬主か競馬関係者でないと入れない特別な場所なので、抽選に当たって入れたときは、メチャクチャ緊張しました 」

 
取材を終えて

一見おとなしそうに見える平山さんですが、言うべきことはきちんと言う芯の強さや、一時の感情に流されない冷静な判断力などを備えた、しっかりした女性でした。

納得いく転職先と出会えるかどうかは、運やタイミングにも左右されます。平山さんが、いざ動き出したときにスピーディに決断できたのは、自分なりにいろいろ考え悩み、絶対に譲れない部分を事前にしっかり把握できていたからこそでしょう。

また、採用も結局は人と人とのつながりですから、その会社や人と相性が合うかどうかも重要です。仕事以外に熱く語れる「何か」を持っていることも、自分という人間をよく知ってもらうための武器の一つになりうる。そんなことを実感した取材でした。

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