無事書類選考を通過して、15日の一次面接に出かけた六馬さん。前半は、今まで経験した仕事内容やスキルなどを聞かれ、入社後配属される予定部署の先輩とも話をすることができた。また、前の会社でサービス残業が多かったので、1日の残業時間などもしっかり確認した。
給与の話になって、六馬さんが電卓代わりにPHSを出したとき、担当者の視線が釘付けになった。そのPHSには競走馬のマスコットがついていた。
「あれ、君、もしかして馬好きなの? ウチの前会長も競走馬、たくさん持ってるんだよ」
その担当者の一言で、六馬さんの緊張が一気に吹っ飛んだ。
「前会長は、競馬界ではかなり有名な馬主さんだったんです。実は、私も一口馬主(※2)で馬を何頭も持っているほど、大の馬好き。それで、思わず抑えが効かなくなって、一次面接の後半30分は、馬の話オンリー。メチャクチャ話が盛り上がりました(笑)」
「これだけ馬の話ばっかりしちゃったから面接はもうダメだ」と思ったが、大好きな馬のことを話のわかる相手と思う存分話せたので、これで落ちても悔いはなかった。しかし、数日後、「一次面接合格」の知らせが届いたのだ。
大好きな馬の話で最初のハードルを無事越えた六馬さんは、21日の二次面接に臨んだ。内容は条件面の話がメインだった。年収額は希望よりも少なかったが、結果を出せば2年目以降に昇給できるだろうとの確信を得たので先方が出してた条件に対してOKを出した。するとその5分後、内定を告げられた。
「いやあ、うれしいというよりビックリでしたよ。なんせ応募から10日ですからね」
まさかその場で内定が出るとは思っていなかった六馬さんは、迷った末に「少し考えさせてください」と、その日は返事を保留して帰った。22日にも並行して受けていた別の会社の面接が終わってからでも遅くないと思ったからだ。しかし結局最初に内定が出た会社に決めた。
「22日に面接した会社からも内定をもらったんですが、基本給が低かったのと、人事担当の方の印象があまり良くなかったので、今の会社に決めました。自分でもこんなに早く転職できるとは思ってなかったですね。本当に、由里さんのおかげです」
こうして超スピード転職を成功させた六馬さんだが、転職を決める前に、他の会社ももっといろいろ見てみたいという気持ちは起こらなかったのだろうか。
「確かに他の会社も見てみたいという欲もあったんですが、ボーナス時期に差し掛かってきて、前の会社から解雇予告手当はもらっていたけど、年末、このまま無職で過ごすのは心もとないという不安があったんですね。また、家でのんびりしてるよりは、とにかく仕事がしたかった。1日も早く仕事に就けるなら、それに越したことはないと思ったんです」
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