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一年間に転職する人の数、300万人以上。
その一つひとつにドラマがある。
なぜ彼らは転職を決意したのか。そこに生じた心の葛藤は。
どう決断し、どう動いたのか。
そして彼らにとって「働く」とは—。
スーパーマンではなく、我々の隣にいるような普通の人に話を聞いた。
第11回 後編 西田 明さん(仮名)39歳/システムエンジニア
このままでいいのだろうか……背中を押した早期退職勧告 38歳で初めての転職を決意
勤めていた会社が合併したことにより大きく体制が変わり、その流れで「早期退職者制度」の対象者に選ばれた西田さん。最初は転職に対する意識も薄く消極的だったが、「会社にとどまるリスク」の方が大きくなり、転職を決意。こうして彼の転職活動は始まったが、そのペースはかなりゆったりとしたものだった。
転職活動はスローペース
語学を生かせる外資系を狙う
 

 転職サイトへ登録していなかっただけでなく、正式に会社を辞めるまで転職活動を開始しなかった西田さん。退社したのは2005年3月だったが、会社が契約していた再就職支援会社へ出向いて情報を集めたり、ネットで【人材バンクネット】を含め数社の人材バンクに登録をしたのは4月になってからのことだった。

 

 「(早期退職者)制度の保証が出ていたので生活に困ることはなかったんです。再就職先は半年以内に見つかればいい……くらいのつもりでいました。4月にインターネットで検索中にたまたま目に付いた【人材バンクネット】に登録してキャリアシートを作って公開したんです。すると一週間もしないうちに2通のスカウトメールが来ました」

 その後もコンスタントにスカウトメールは届き、そのうちの5通のスカウトメールに返信した。

 「返信したのは、自分がやってみたい仕事、できそうな仕事の紹介が書かれてあったスカウトメールです。具体的な紹介がなく、単に『一度会いませんか』的なものや、興味のない仕事、とてもできそうもない仕事を紹介してきたスカウトメールには返信しませんでした」

 その後西田さんは5社の人材バンクに登録に赴き、紹介されたすべての案件に応募。中でも第一希望だったのは、株式会社パワー人材の片山八十彦コンサルタントから紹介してもらった企業だった。

 「外資系のコンサルティング会社系列のシステム会社だったのですが、英語力も磨けるし、同じ業種、職種なので今までの経験も生かせると思いました。仕事の面では、次は単なるコボルのプログラマじゃなく、新しい技術を身に付けたいという希望がかなえられそうだったので(※1)、入社したいと強く思っていました」

コンサルタントを全面的に信頼
スタート時の収入なんて気にしない
 

 書類選考は無事通過。しかし面接が変わっていた。

 「6月末に応募して7月初旬に面接という感じにトントン拍子に事が進みました。ただ面接の方法が変わってました。一次は志望した雇用主の企業の人に面接してもらったんですが、二次は出向先の担当者が面接官だったんです。つまり入社する会社の社員ではなく出

 
向先の社員が面接官だったんですよ。出向先が事前に決まっていたとはいえ、こういうスタイルもあるんだとびっくりしました」

 入社が決定したら、雇用先の会社にはほとんど出社せず、出向先の企業で働くことになる。そうなった場合、当然より多くの時間をともにする出向先の社員との相性が重要になる。それを見越した上での面接だった。

 そして二次面接の1週間後、片山氏を通じて内定が告げられた。

 「第一志望でしたから、そりゃあうれしかったですよ。面接で気をつけたのは『ハッキリとした受け答えをする』ことと『身だしなみに気をつける』こと。事前に片山さんからレクチャーを受けたおかげで本番は緊張しないですみました。手応えはなかったんですが、考えてみると質問に対する回答の内容というより、性格的に職場に合っているかどうかを見ているようでした」

 しかし年収は前職より30万円ダウン、希望額には60万円も届かなかった。しかしまったく気にしていないと西田さんはいう。

 「ずっと働きたい会社かどうかで片山さんと絞り込んだ企業ですから、最初の金額は初期設定くらいに考えました。まずはプログラマからのスタートですが、正式にSEになれば手当も付くし、業績を上げていけば自然に増えると思うので」

 転職活動データ
  応募:5社
面接:2社
内定:1社

 今後の職場での目標を聞くと、西田さんは短期と長期に分けて抱負を語ってくれた。

 

 「5年後にはSEになってマネージメント業務に携わりたいですね。出向先の会社には色々なベンダー企業が入っているんですが、早く仕事で信頼を得たいです。現在私の部署に出向しているのは私ひとり。孤軍奮闘中という感じ。ひとりがいいときもあるんですが、いずれは増員してもらえるくらい業績を上げるのが目標です。それから10年後には今の部署に残っているか不明ですが、日々不安を感じないで働ける今の会社で働き続けたいです。そういう意味でも転職は今回で最後にしたいですね」

 希望通りの職場で再スタートを切った西田さん。出向先で信頼を得るためにも、今は新しい言語を習得しようと積極的に仕事に取り組んでいる。以前のように日々将来の不安を感じながら過ごす必要はない。この環境だから雑念もなく集中できるし、がんばれることも多いと西田さんは言う。彼がSEとして活躍できる日もそう遠くないだろう。

コンサルタントより
株式会社パワー人材
 シニアコンサルタント 片山八十彦氏
  勝因はスキルと人柄がマッチ
転職にもホウレンソウは大事
 
片山八十彦氏
 西田さんにスカウトメールを送ったのは、企業の欲していた人材像と西田さんのキャリア、業界、職種、

仕事の内容がほぼぴったり一致したからです。「ほぼ」というのは、ただひとつだけ合わない点があった。それは年齢。企業側は30代前半の人を希望していましたが、ここまでキャリアが合う人はいないと推薦状を書き、企業の人事を説得して、面接してもらいました。この辺りがコンサルタントの腕の見せ所じゃないですかね(笑)。

西田さんの第一印象は、「誠実」「真面目」でした。SEなど、チームを組んでひとつの仕事をする職種にはぴったりの性格だと思いましたね。キャリアに加え、人間性も推薦できると。この人間性=ヒューマンスキルがよくないと、どこの企業に行ってもダメだと、ここ最近実感しています。企業も明らかに、テクニカルなスキルよりも人間性を重視する方向になっていると感じます。逆に言えば、経験やスキルが少しくらい劣っていても、人間性がよければ、採用になる可能性が高いんです。企業はさまざまな人間が集まって、一緒に仕事をするところですから。いくら仕事ができても、周りの人間とうまくやっていけそうだと思われなければ、まず採用になりません。

面談では転職動機、今後のキャリアプラン、希望する仕事、会社などをヒアリングしました。その上で今回の案件の詳しい説明をすると気に入ってもらえたので、その場で応募することに決めました。

応募以降はトントン拍子に進みましたが、企業側の西田さんに対する印象もとてもよかったですね。やはり彼の人間性が気に入られたようでした。

年収は当初の希望額とかなりの開きがあったので、人事と交渉して少し上げてもらいました。西田さんも納得してくれたのでよかったと思います。

西田さんのよかったところは、経過報告をマメにしてくれたこと。面談に来た際に、同時進行しているほかの案件のことでも相談に乗るからと伝えたところ、逐一報告、本音で相談してくれました。こちらとしてもそれに応えなきゃと思いますし、的確なフォロー、アドバイスができますし、企業側とは交渉もできますからね。この仕事は転職者、企業との信頼関係の上に成り立っていますから。

ちょうど試用期間の3カ月が過ぎたところですが、先日転職先の上司から「西田さんは真面目で仕事も確実にこなしている。今後に期待できる」との感想をいただきました。西田さんも、企業側も、そして私もうれしい。今回はみんながハッピーになれる転職になったと思います。

今年になって弊社に寄せられる求人はかなり増加しています。市場は買い手から売り手に確実に移行しているといって間違いないでしょうね。中でも特にニーズが高いのが営業職。業界ではやはりITですね。エンジニアではJAVA系のエンジニアが引く手あまたです。

ただ、企業も人手不足とはいいつつも、だれでもOKというわけではありません。やはり「デキる人」にニーズは集中しています。なかなか思うような人に巡り会えず、もう何カ月も求人募集をかけている企業もありますからね。今、売り手市場だからといって、安易に転職を考えず、自分に何ができるのか、何をしたいのか、しっかり考えた上で動いたほうがいいと思います。まずは、我々人材バンクのコンサルタントに相談してみるのも有効な手だと思いますよ。

 
プロフィール
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東京都在住の39歳。大学卒業後にコンサルティング会社系列のシステム会社に入社し、情報システム部門に配属。企業向け商品の開発業務を中心に電算運用業務全般に関わる。2004年の会社の合併に伴った社風の変化に不安を感じたのと、自分自身のキャリアアップのチャンスを生かしたいと考え転職を決意。現在は出向会社(希望通り外資系)で活躍中。
西田さんの経歴はこちら
 

新しい技術〜(※1)
「新しい職場ではYPS COBOLを使うということでした。YPS COBOLは未経験だったのですが、同じCOBOLだから頑張って勉強すれば早い時間で習得できると思っていました。さらに片山さんからも職務経歴書には『COBOLの知識と経験があるからYPS COBOLの習得はスンナリいく……それを強調して書いた方がいい』とアドバイスしてもらったんです。確かにその通りで助かりました」

 
 
取材を終えて

何事もなければ以前の生保会社で淡々と仕事を続けたであろう西田さん。そんな彼に降りかかった「合併」という事件。挙式直前に転職活動するという話を聞く限り、前の職場の異常ぶりがうかがえるし気の毒に思う。しかし、転職前より仕事のスキルアップに対して積極さが増強されたようだ。そんな彼が新しい職場で成果を出す日もそう遠くないだろう。

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