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一年間に転職する人の数、300万人以上。
その一つひとつにドラマがある。
なぜ彼らは転職を決意したのか。そこに生じた心の葛藤は。
どう決断し、どう動いたのか。
そして彼らにとって「働く」とは—。
スーパーマンではなく、我々の隣にいるような普通の人に話を聞いた。
第10回 後編 関 勉さん(仮名)30歳/ネットワークエンジニア
俺は社会から必要とされていないのか─薄暗い部屋でひざを抱える日々 年収200万円生活からの脱出作戦
30歳にして年収200万円という劣悪な労働条件のもと、「食べていくこと」に神経を使わざるを得ない毎日を送っていた関さん。転職したくて人材バンクにいっても紹介できる企業はないといわれるなど、状況はまさに八方塞り。しかしある日届いた一通のメールが関さんの未来を照らす一条の光となった。
ネットワークエンジニアとして
腰を落ち着けて仕事がしたい
 
 

 今回の転職活動で関さんがこだわったのは、「職種」と「勤務形態」と「企業規模」。

 「前職の約2年間は、主にインターネットの接続トラブル対応や、ネットワークの監視および障害発生時の復旧作業を経験しました。ネットワークエンジニアの仕事は、障害が起こったとき、どこに問題があるのかを探り当て、解決して正常な状態に戻すこと。いうなればパズルとか謎解きみたいなものです。だから仕事に没頭していると

きは探偵気分です。問題が解決できたらユーザーに喜んでもらえるところも探偵にそっくりですよね。そんな仕事にやりがいと魅力を感じていましたから、今後もネットワークエンジニアとしてさらにキャリアを積んでいきたいと思っていました」

 「またこれまで働いていたのは、エンジニアをいろんな企業に派遣するアウトソーシングの会社でした。案件ごとに違う会社に出向という形で入って仕事をしていましたが、案件は常にあるというわけではなく、ひとつの案件が終了するとしばらくヒマになってしまうこともしばしばでした。20代ならそれでもいいのですが、もう30歳をすぎるとそんな不安定な立場ではなく、案件のあるなしに関わらず腰を落ち着けて仕事ができる会社で働きたかったんです」

 「そして、これまで散々心配と苦労をかけてきた実家の親を安心させるために、少しでも名の知れた企業に入りたいと思っていました」

 前回の転職時はネットワーク系エンジニアを派遣するアウトソーシングの会社にアルバイトとして入社し、そのつらさを身をもって体験したからこその「こだわり」だった。

「そんなに心配しなくても大丈夫」
コンサルタントの言葉にホッ
 

 もちろん、好き好んで前社にアルバイトという雇用形態で入社したわけではない。転職活動時に人材バンクを訪れたが、キャリア不足で紹介できる会社はないと門前払いされたため、経験を積む目的も兼ねて、入社することにしたのだ。

 しかしこれが結果的に吉と出た。アルバイトでも、新しい仕事を経験するたびにキャリアシートに書き込み、更新していたある日、スカウトメール(※1)が届いたのだ。

 「とにかくうれしかったですね。こんな自分でも声をかけてくれる人材バンクもあるんだと思って。経験を積んでいけば、道は開けると信じて頑張ってよかったです」

 その後も複数のコンサルタントからスカウトメールが届くようになったが、返事をしたのは「自分に合ってる求人を紹介してくれているメール」だった。その中でも株式会社パソナ パソナキャリアカンパニーの高橋英輔コンサルタントがくれたスカウトメールにビビッと来た。

 

「スカウトメールでネットワークエンジニアの求人を紹介してくれたのですが、今までの経験を生かせるし、今後もやりたかった仕事だったので、即面談に行きました。面談でもキャリアカウンセリングをしっかりやってくれて、今後のキャリアパスなど、自分でもどうしようか悩んでいたところがはっきりしました。高橋さんのおかげで今後もネットワークエンジニアでやっていこうと思えたんです」

 訪れた求職者の職務経歴を聞いて入れそうな企業を紹介するだけならコンサルタントはいらない。マシンで十分だ。今後のキャリアパスがはっきり描けている求職者は少ない。本人が今までなにを経験してきて、何ができるのか、これから何がしたくて、どうなりたいのか、過去、現在をしっかりと聞き、そして進むべき未来のヒントを示すのもコンサルタントの重要な役目だ。関さんがそんな有能なコンサルタントに出会えたことは幸運だったといえる。また、高橋氏の言ったこんな言葉で関さんは勇気付けられた。

 

 「『普通の人は、10社応募したら、書類選考を通過して面接までいけるのが半分の5社。さらに面接で3割以上は落ちる。結果的に1〜2社受かれば上出来なんですよ』と言ってくれて、とても気持ちが楽になりました。焦らなくていいんだって思えましたから」

 関さんは高橋氏から紹介された某大手システム会社のネットワークエンジニア職に応募。これまでのアウトソーシング系の会社と違い、別会社に出向させられることもなく、一社でエンジニアとして働ける。会社は某有名大手企業の100%子会社で年収も今までより100万円アップは確実。すべてにおいて、関さんの希望を満たしていた。なんとしてもこの会社に入りたい。強くそう思った。

とんとん拍子に進んだ面接
第一志望会社から内定ゲット
 

 高橋氏の推薦もあり、書類選考は難なく通過。面接は人材開発部の部長との一対一。まずは会社の説明を受けてから、これまでの職務経歴、志望動機などを聞かれた。直前の高橋氏による面接対策が奏功し、慌てることなく自分の意欲を伝えることができた。

 「面接官はフレンドリーな人柄で話しやすかったですね。高橋さんに事前にやってもらった、こんな質問にはこう答える、転職理由や志望動機のアピールの仕方などのロープレが非常に役立ちました」

 手ごたえを感じていたとおり、一週間後二次面接へ。次はネットワーク部の部長が出てきた。この部長の話を聞きながら、内定は確実だと思った。

 「話の内容が仕事の細かい内容や、今後の事業展開の方向性などでしたから。それに加え、空気でわかりました(※2)。言葉ではうまく説明できませんけどね(笑)」

 その予感は的中し、二次面接から1週間後、高橋氏を通して内定が告げられた。

 年俸も希望額満額というわけにはいかなかったが、それでも150万円アップなので満足している。何より、給与配分を把握した上で誠実に金額提示してくれた上司と現在の会社に信頼感を持った。

 転職活動データ
  応募:10社
面接:6社
内定:2社

 今後の夢は? という問いに関さんは目を細めながらこう答えた。

 「将来は実家のある広島に帰りたいと思っています。地元のIT企業から呼んでもらえるような人材になりたいですね。そのためには今以上にネットワークエンジニアとしての経験や知識を身に付けなければなりません。障害発生時の問題解決のパターンをさらに増やして、多様なトラブルに対応できるエンジニアになることが目標です。ネットのセキュリティは今後さらに求められていくはずなので、あらゆるニーズに対応できるような高いスキルを身に付けたいです」

 

 そこにはもう、薄暗い部屋でひざを抱えながら将来の不安に打ち震える若者の面影は微塵もなかった。

コンサルタントより
株式会社パソナ パソナキャリアカンパニー
 キャリアアドバイザー 高橋英輔氏
  経験していた仕事に加え
タイミングもよかった
 
高橋英輔氏
 正直、最初は関さんが希望する会社から内定を獲得することは難しいと思っていました。企業が求める

スキルに対して、関さんのもつスキルでは少し心もとないかなと。でもここ最近、IT業界では内定のハードルが下がってきているような気がしていたので、関さんと話し合って思い切ってチャレンジしてみることにしました。

 ハードルが下がってきているというのは、ここ最近の業績好調により、IT業界では求人市場が売り手市場に移行しつつあるので、少々のスキル、経験不足ならやる気と将来性で採用になるケースが増えているのです。ちなみに特に求人が集中しているのはJAVAによるWebアプリケーションのエンジニアです。

 面談では、今までのキャリアと今後の希望などを聞いて、関さんにとってはネットワークエンジニアとしてキャリアを積んでいくことが最善なのではと提案しました。もちろんその当時の状況では、キャリア的にどん詰まり状態だったので、こういう企業でこういう経験を積んでいけば、プロのネットワークエンジニアとしての道が開けるというようなことを話しました。

 人柄の印象は「まじめで誠実そう」でした。ただ、コミュニケーションスキルに少々難ありだと感じましたので、面接前にはロールプレイングをみっちり行って、礼儀から、しゃべり方、受け答え方などを指導しました。関さんもまじめに取り組んでくれて、私のアドバイスをよく聞いて忠実に実行してくれたのも内定につながったひとつの理由だと思います。

 スキル的にはテスターやヘルプデスクのほかにネットワーク障害対応なども経験していたので、ここで押すしかないと思い、アピール方法などをアドバイスしました。

 また希望年収とスキルのバランスが取れていたことも大きいですね。もし関さんが高額な年収を希望していたなら採用にならなかったかもしれません。ですから私も敢えて年収交渉はしませんでした。何事もバランスが大事なのです。

 そして、今回はタイミングがよかった。ちょうどいいときに募集があり、ちょうどいいときに応募したということです。同じような案件で、関さんよりもスキル・キャリアのある人が不採用になっていますからね。もし応募するタイミングがずれていたら、採用にならなかったかもしれません。転職は縁によるところが大きいですからね。

 転職をぼんやりとでも考えている人は、【人材バンクネット】などでキャリアシートを匿名公開したり、弊社のような人材バンクに登録だけでもいいので、しておいた方がよいと思いますよ。特にIT業界の求人は常に動いています。いつなんどき、あなたにぴったりな求人が出てくるかわかりませんからね。本当に転職活動をするかどうかはそれから決めてもいいわけですから。

まとめ〜関さんが採用になった理由〜

  • 応募のタイミングがよかった
  • コンサルタントのアドバイスを素直に従った
  • 希望年収とスキルのバランスが取れていた
  • 誠実、まじめな性格がマッチした
 
プロフィール
photo
神奈川県在住の30歳。大学卒業後に菓子卸業社に入り、約1年半働く。その後IT企業2社でプログラマ、ネットワーク・エンジニアを経験。契約社員という雇用形態に不安を感じて転職を決意。現在はシステム会社でネットワークエンジニアとして活躍中。
関さんの経歴はこちら
 

スカウトメール(※1)
「【人材バンクネット】ほか転職サイトに始めて登録したのは2年前。同じ時期に他社からの数通のスカウトメールが来ましたが、条件が一番良かったのは【人材バンクネット】でした」

 

空気でわかりましたけどね(※2)
「何回も面接を受けていると次第に空気で(試験官が自社に)来てほしいと思っているかどうかわかるようになるんです。そうやって空気が読めるときとダメなときがあって、夜勤明けの回らない頭で受けた面接はまったくダメでした。体調の維持も大切な転職スキルだと思いました」

 
 
取材を終えて

年収200万円というかなりの極貧時代を経験している関さん。侘びしい経験をした人は「こんな生活は二度とイヤだ」と考える人と「このくらいの収入でも生きていけるんだから、額に汗して働かなくてもなんとかなる」と考える人に別れるらしい。彼は前者側の人間で、転職活動中も仕事に対するレベルアップを真剣に考えていたと思う。その結果、あえてアルバイトという冷遇を受けても現場での経験を積める道を選択したのだ。現在の会社に採用されたのも、彼のそんな前向きさ、勤勉さを担当者が感じ取ったからだろう。

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