経営コンサルティングの醍醐味のひとつに、通常なかなか垣間見ることのできない経営の本質を見ることができる点が挙げられます。
以前、僕が担当していたプロジェクトのひとつに伝統的な大手日本企業の人事改革プロジェクトがありました。クライアント企業の新人事体制の発表が、その年の4月1日にあったのですが、前年度何の功績も挙げていない取締役がなぜか専務取締役に昇進しました。
外資系企業の「結果主義」「実力主義」に慣れ親しんでいる僕からは、まったく理解のできない人事でした。
日本企業の人事システムは、まさに摩訶不思議な世界で非常に政治的です。昇進・昇格の基準は、結果を出したかどうかではなく、派閥の中で政治的にどのように上手く立ち振る舞えたかということが大きなポイントを占めます。
そうすると、中にはビジネス上における成果を出すためにエネルギーを注ぐのではなく、社内の情報収集に力を注ぎ、相手派閥の弱点を探すことに専心するスパイのような奴も出てきます。
「課長島耕作」という弘兼憲史さんの漫画で、「今野輝常」という人物が登場します。彼は、僕がこれまで述べてきた所謂「情報屋」で自分の派閥に属さない島耕作を陥れるため腐心します。このようなことは漫画の世界の話だろうと思っていたのですが、僕自身実際にそういう事態になりました。
先にあげたクライアント企業の専務は、僕が行っていた人事改革プロジェクトの「反対派」でした。僕が考えている合理的な人事制度が導入されれば、彼及び彼の派閥の人たちのようにビジネスの本質で勝負しない人たちは、出世の目がなくなるからです。
その専務に金魚の糞のようにくっついている部長が「情報屋」で、一生懸命僕の個人情報を収集していました。そして、グループウェアのスケジュール管理から、僕が仕事が終わった後、GC(合コン)に行っていることを知り、「告げ口」をするわけです。
「牧田は、プロジェクト期間中にしょっちゅう合コンに行き、そのたびに女の子と仲良くしているらしい。けしからん」(←尾ひれがつきまくっている)(笑)
専務に呼び出されて、「牧田君、プロジェクト期間中の合コンはいかがなものかねぇ」と言われたとき、僕は開いた口が塞がりませんでした。
僕は、プロジェクトの「結果」「品質」には非常に厳しい判断をし、クライアントの責任者である管理担当副社長からはお褒めの言葉を頂きました。したがって、今回のクライアントとの契約である「コンサルティング業務」に関してはまったく瑕疵のない状態なわけです。にもかかわらず、ビジネスの本質から離れたところで、いろいろ口を出してくる奴がいる。このようなシステムが平気で成り立つ日本企業はなんと面白いんだろうと痛感しました。
このように実際にビジネスの最前線で経営コンサルティングをしていると、いろんな発見があります。『ハーバード・ビジネス・レビュー』の格好よい理論や、MBAで勉強する論理的なケースなんか簡単に吹っ飛びます。
クライアントから「使えるコンサル」「使えないコンサル」という言葉をしばしば頂きます。
「使えない」コンサルとは、先に述べたような机上の空論だけで、理想論で話を片付けてしまうコンサルタントです。これでは、現場は何も変わりません。
「使える」コンサルとは、理論や正論をベースとしながらも、その理論や正論をクライアント企業に導入し根付かせるために、力を発揮できるコンサルタントです。現場を変えるコンサルタントです。