ホームシアターを構築して、僕にとって最大のメリットだったことは、映画や音楽を楽しむようになったことです。自分の職業を、学者から戦略コンサルタントに替え、僕の生活は一変しました。
学者だった頃は、自由な時間が有り余るほどあり、仕事以外にも、小説を読んだり、映画館に行ってのんびり映画を見たり、寺社仏閣を巡ったり、仕事以外の「自分の時間」を持つことができました。「自分のペース」で生きることができました。僕は当時の生活を、誰にも縛られない「豊かな時間」であり、価値のある生活だと思っていました。
戦略コンサルタントになると、「自分の時間」はほぼなくなりました。平日はほぼ毎日日付が変わるまで働き(時には朝日が昇るまで働き)、週末も半分以上働いていました。そして、働いていない時間でも、ビジネス書を読み、過去の様々なコンサルティング・ケースを読み、頭の中も心の中も全てビジネスで一杯でした。「自分のペース」で生活することは全く考えられず、絶えず何かに追われる生活でした。
確かに、コンサルタントとしての実力は飛躍的に向上しましたし、その結果として、ポジションは次々に上がり、この数年で年収は数十倍になりました。物質的には「豊か」になりましたが、精神的には全然「豊か」になれない数年間でした。
合コンに行って、女性の皆さんから「好きな音楽は何ですか?」「趣味は何ですか?」「最近感動した映画は何ですか?」と聞かれても、僕はいずれも答えることができません。ここ数年、音楽にも興味を持たず、趣味はラーメンを食べることくらいで、映画も見ていないからです。
今年に入ってから、ずっと仕事で忙しくしていますが、夜どんなに遅く帰ろうとも、DVDで映画を見るようにしています。登場人物のモノの考え方に共感したり、コメディを見て笑ったり、恋愛モノを見て泣いたりしています。ようやく人間らしい生活を少しずつ取り戻しているような気がします。
以前、京都大学で経済学の第1回目の講義に出たときに、ある教授から心に残るコメントがあったことを思い出しました。
「君たちは、京大に入って一生懸命勉強しようと思っているやろ。それは、それでええ。勉強したい奴は、一生懸命ここで講義を受けなはれ。でも、君らはまだ不完全であることをよう覚えとき。君らは机の上の世界はよう知っとる。でも、教室の外の世界をどれだけ解っとるんや。今の君らにほんまに必要なのは、外の世界を知ることや。遊びの心を知ることや。遊びの心のわからん人間は、そりゃ底の浅い人間や。授業出たない奴は出んでもええよ。そのかわり、外で一生懸命学んで来ーや。そして、最後試験の日に、君らの経験したことを教えてくれ。テスト用紙に書いてくれ。私が満足したらそれは花丸や。合格や。学問も遊びも極めなはれ。その価値は両方一緒や」
ここ数年僕は、仕事にばかり価値を見出し偏った人間だったと思います。その意味で、ホームシアターを構築し、再びいろんな映画を見るようになたことで、仕事以外の知見を深めることができました。
次の僕の目標は、仕事も遊びもプロフェッショナルとして付加価値を付けることができるようになることです。