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第2回「出会い」で開いた突破口 希望の職へのエクソダス(後編) Page2
企業へのアタックの前に まずはコンサルタントを動かすべし
 応募する意思は固まっていたが不安もあった。企業の求めるスペックのハードルが少し高すぎると感じていたからだ。扱う製品もこれまでと全く違う。採用されたとしても、短期間で未経験のシステムを顧客に説明できるレベルまで深く理解できるだろうか。

 それは佐藤氏も感じているはずだ。

 さらにもうひとつ不安要素があった。希望の求人にめぐり合えた佐藤氏との面談の日、鈴木さんは39度の熱があった。しかし激務のため、次はいつ時間を取れるか分からない。高熱を押しての面談だったが、やはりいつもの元気が出せなかった。佐藤氏にやる気や熱意を疑われた恐れがある。企業との面接の前に、まず自分を推薦してくれる人をやる気にさせなければ。

 そう思った鈴木さんはその後も毎日のように佐藤氏とコンタクトを取った。面談当日は体調を崩していたため元気がなかったこと、この応募にかける意気込みなどを電話やメールで【注9】伝えた。

 この行動が佐藤氏を動かした。

 応募先企業からの質問に対する答え方のアドバイスをくれたり、企業には鈴木さんがいかに魅力的な人間であるかなどをアピールしてくれたりもした。

 佐藤さんがそこまでいうなら会いましょう──。鈴木さんの熱意は佐藤氏を動かし、企業をも動かした。

 書類選考突破、面接日が決まった。佐藤氏との出会いから二週間後のことだった。

「どうしてもこの会社に入りたい」3時間にも及んだ一次面接

 面接の前日に佐藤氏からさまざまなアドバイス【注10】をもらったこともあり、当日はリラックスして臨めた。

 面接会場に現れたのは直接の上司になる女性課長のみ。一対一の面接は、これまでのキャリア、志望動機、質疑応答と進むにしたがって盛り上がり、気がついたら2時間が経過していた。

「へんな小細工をするよりも、とにかく、『どうしてもこの会社で働きたい』この一点を真摯にアピールしました。また、言いたいことは論理的に伝えるように心がけました」

 退職理由では、あまりの激務で体を壊したことや上司・会社に対する不信感など、現在在籍する会社の批判・悪口になるようなことは一切口にしなかった【注11】。自分にはやりたい仕事、なりたい自分が明確にあって、それが現在の会社ではほぼ実現不可能であることを伝えた。

 自己アピールも万全を期した。鈴木さんは過去に業務の優秀さを認められ、何度か社内表彰されていた。そのときもらった賞状を持参【注12】し、いかにしてこの賞を取ったか、取ったときのうれしさなどを生き生きと語った。

 だがピンチの場面もあった。一番のウイークポイント、IT技術に関する知識を突っ込まれた【注13】のだ。ここでいったん技術系に進もうと思って勉強していたこと(「前編を参照)が効いた。

「IT関係の資格を取得するために勉強していたころの参考書(原書)を見せて説明【注14】したんです。私は資格は持っていないけど、参考書がこんなにボロボロになるまで勉強しました。これからも勉強しますって」

 このボロボロになった参考書を見たとたん、女性課長の顔つきが変わった。彼女はエンジニア出身だった。

 途中で挫折した技術の勉強がこんなところで生きてくるなんて。鈴木さん自身も予想だにしていなかった。この参考書は、弱みをカバーするばかりか、強みにも変換した。「勉強する姿勢あり」という強みに。

 2時間の白熱した面接終了後、人事部長が登場。部長との話は雑談レベルだったが、ここでも一時間があっという間に過ぎた。そして帰り際に、二次面接の日程が告げられた。一次面接突破。心の中で飛び上がった。

「最初はちょっと無理かな〜と思ってましたから、とてもうれしかったですね」

 鈴木さんもまた、面接官の女性課長に対して好印象をもった。話の端々に部下を守る姿勢が垣間見られ、会社としても社員を大事にしているように感じた。ここなら長く働けそうだ。ますますこの会社に入りたくなった。

外資系ならでは?とんとん拍子でスピード内定
 その後はとんとん拍子で話が進んだ。

 一次面接の6日後に行われた二次面接ではアカウントマネジメント部の部長が登場。話の内容は一次面接とほぼ同じ。答えに窮するような質問も出ず、終始和やかな雰囲気だった。またしても終了後、その場で三次面接の日時が伝えられた。

 三次面接は4日後だった。出てきたのは副社長COO。

「あなたの採用に関しては、私がどうこういう問題ではない。あなたを採用してくれと部下から言われているから」

 副社長の開口一番のこの言葉で、内定を確信した。

「採用は内定していたけどどんな人物かを見に来た、そんな感じでしたね」

 その後は小一時間ほど雑談して終了。その10日後【注15】、佐藤氏を通じて正式に内定通知が届けられた。

 年収などの諸条件も希望通り。佐藤氏が企業側と交渉した結果だった。

「給料を含め、雇用条件になんの不満もありませんでした。その点でも佐藤さんに感謝しています」

 初めてキヤリアプロセスを訪れてから1カ月のスピード内定【注16】

「これもあの苦しかった暗闇の半年間があったからこそです」

 転職活動スタート時は何をどうしていいか分からず、全く先が見えなかった。どういう人が転職できるのだろう? 私などでは無理なのではないか。毎日が不安の連続だった。

 突破口は出会いだった。転職仲間に出会い、【人材バンクネット】に出会い、キヤリアプロセスの佐藤氏に出会い、そして自分を生かせる企業に出会った。

 傷つき、涙を流しながらも行動し続けたことが出会いを引き寄せた。試行錯誤の過程で転職に対する心構え、情報収集の方法、職務経歴書の書き方、自己アピールの方法など、転職に必要な武器を一つひとつ獲得し、磨いてきた。それが内定につながった。

「でもすべてはこれからです」

 自分が本当にやりたかった仕事、理想のキャリアパスへの第一歩を間近に控え、鈴木さんの目はきらきらと輝いていた。

「社会の第一線で活躍する方々を陰で支えることに働き甲斐を感じてきました。これまでもそうですし、今後もその姿勢は変わらないと思います。前職でも、日本や世界経済の背骨を担う企業をお客様としてきましたので、その方々の責務の大きさを痛いほど感じてきました。そんなお客様に自社の商品・サービスを提供することで、私も世の中のお役に立てると自負しています。本当の意味でお役に立てるようゆるぎない実力をつけていくことが、今後の夢であり目標です」


 2005年2月。冬の朝独特の抜けるような青空の下、駅へ急ぐ人波の中に鈴木さんの姿があった。今日から新しい人生が始まる。朝の冷気も、身が引き締まる思いがしてなんだか心地よい。鈴木さんは前を向いてさっそうと歩いていた。新天地に向かって。

 
なりたい自分へ、新たな一歩を踏み出した鈴木さん。その前には無限の可能性が広がっている(写真はイメージ)

(※追記:このインタビュー記事の前編がリリースされた日は、鈴木さんの初出勤日だった)
 
   
 
どうすれば自分を魅力ある「商品」に見せられるか、買ってみようという気にさせられるか、この視点で考えればおのずとやらなければならないことは見えてきます。
 
転職仲間を作り、定期的に情報交換をすると二倍三倍の情報量が得られます。ひとりではすぐ行き詰り、精神的に弱気になります。転職仲間は弱気になったときに元気と勇気をくれます。
 
転職仲間や経験者以上に転職に関する貴重な情報をもっているのが人材バンク。単独転職では絶対に得ることのできない貴重な情報、アドバイス、ノウハウを提供してくれます。しかも無料で。利用しない手はないでしょう。
 
相性のいいコンサルタントを見つけると転職のスピードは飛躍的にアップします。人間的に合うと思えるコンサルタントが見つかるまで、積極的にコンタクトを取り続けましょう。
 
内定を勝ち取るには、企業側が望んでいる人物像に自分は限りなく近いと思わせることが肝要です。募集要項と自分のスキル・能力をすり合わせ、自分に何が足りないか、足りないところは補う努力をします。
 
私は企業との面接時はもちろん、コンサルタントとの面談の際にも服装、髪型、メイクに気を配りました。面接の直前には必ず美容院へ行ったり、デパートの化粧品売り場などで美容部員にメイクしてもらいました。
コンサルタントより
株式会社キヤリアプロセス
コンサルタント 佐藤いづみ氏
明確な目標、スタンスが転職成功のポイントです
鈴木さんは私にとってもかなり印象深い方でした。
最初に面談したときは、すごくおとなしい方だなと思たのですが、当たり前ですよね。39度も熱があったのですから。

第一印象はとても外見がいい方だと思いました。単に容姿がいいということではなく、身だしなみにきちんと気を配っているという感じでした。この点を、特に女性で顧客対応の職種では、求職者が思う以上に企業側は重要視します。いくらスキル・キャリアがマッチしても、身だしなみが悪いために不採用になってしまうケースは多いのです。

しかし実は、最初に鈴木さんと面談した時点では受かる見通しは五分五分だと思ってました。単純に書類上だけでのスキルやキャリアマッチングでは、分が悪かったでしょう。採用された企業とは付き合いが深かったので、とにかく会うだけ会ってくれと鈴木さんの人物面をアピールしてプッシュしました。

採用に至った理由のひとつは、コミュニケーション能力。鈴木さんはただ会話のキャッチボールが正確にできるだけではなく、自分の言いたいことを論理的に語れるし、話に説得力を持たせることができる人でした。かといって話しぶりはキツく勢いがあるというわけではなく、どちらかといえばソフト。鈴木さんと話して好感を抱かない人はいないのでは、と思うほどです。

特にポストセールスは、会社の代表として顧客に会いに行くのに加え、社内の各部署の人間とも密にコミュニケーションを取らねばならない職種なので、ビジネス上の対人、調整、折衝能力が最重要視されるわけです。

面接官に好感を持たせるのはそれほど難しいことではありません。ポイントは気遣いと本音。面接といえども人間同士の会話ですからね。また、技術面についても勉強していることをアピールするなど、やる気を前面に出したのもよかったですね。応募したのは勢いに乗っている企業だったので、そんな鈴木さんのマインド面も大いに気に入ったようです。

とにかく一次から最終面接まで、面接官だった現場の上司や人事担当者は鈴木さんのことを絶賛していました。だからこそ年収も、企業が用意できる最大限の額で合意できたのでしょう。いい人を紹介してくれたと感謝されて、私もうれしかったです。

彼女なら新天地でさらに一回りもふた周りも大きくなれるでしょう。期待しています。



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【注9】電話やメールで

転職活動が会社にばれると即解雇を言い渡されるので、日中はすべて自分の携帯電話でコンタクトを取った。そのため、通話料やパケット代が通常の月の3倍に跳ね上がった。これが約5カ月続いた







【注10】面接の前日に佐藤氏からさまざまなアドバイス

一次面接を間近に控えたある日、佐藤氏から「面接対策をやりましょう」と連絡が入った。佐藤氏は企業側はどんな人物像を求めているか、面接で口にしてはいけないこと、自己アピールの仕方などを詳細にレクチャー。また、「今の鈴木さんなら絶対大丈夫」と太鼓番を押した。企業と人事を知り尽くしている佐藤氏からのこの言葉に、大いに勇気付けられ、自信をもって面接に臨めたという。また、二次面接の直前にも同じくアドバイスを受けた

【注11】一切口にしなかった
面接ではおろか、人材バンクのコンサルタントにもいわなかった。「実は今回の取材で話すのが初めてなんです」と聞いたときには取材者も驚いた

【注12】賞状を持参
「同じ『表彰』の事実でも職務経歴書に書くだけよりも、証拠となるものを見せてアピールした方が、より相手に好印象を与えられると思ったので」

【注13】IT技術に関する知識を突っ込まれた
顧客に自社製品やシステムについて説明しなければならないアカウントマネジャーには技術的な知識は必須。知識保有の証明となる資格をもっていない場合、少なくとも勉強をしているという姿勢は示さねばならない

【注14】IT関係の資格を取得するために勉強していたころの参考書(原書)を見せて説明
「募集要項をじっくり読んで自分に何が足りないかを徹底的に研究した結果、技術的な不足を問われるだろうと推測しました。それをカバーするためには、企業側が安心できるような材料を、口頭だけでなく、第3者から見てもはっきりと分かる材料を持ってアピールすることが一番だと思いました」



【注15】その10日後

応募した企業ではバックグランドチェックという身辺調査があり、興信所を使って内定者の学歴、職歴をチェック。その中に詐称が見つかったり、金融会社のブラックリストに載っていたり、自己破産した経験のある者は内定取り消しになることもある。外資系大手企業や金融系企業ではほぼ実施しているという

【注16】スピード内定
人材バンク経由では異例の早さ。人材バンクを使うと時間がかかるという定説を覆した。さらに一次から三次面接までの間隔がとても短いと感じるが、それも外資系ならでは。外資系企業の場合、実質的な人事権をもつのが直接の上司であり、直接の上司が出てくることの多い一次面接が最も重要だということを、鈴木さんは経験上知っていた。すべてを出し切り、課長に好印象を与えることに成功した一次面接の時点で、すでに内定は決定的だったといえる

 
取材を終えて

新天地でのスタートを間近に控えた1月某日。編集部の応接室に現れた鈴木さんは上品かつシックなスーツを身にまとった、目鼻立ちのくっきりとした大人の美女という感じでした(顔写真を出せないのが本当に残念)。

当初は2〜3時間の予定でしたが、13時半からスタートしたインタビューは気がつけばお外は真っ暗。計5時間もお付き合いいただきました。

ここまで長くなってしまったのはひとえに鈴木さんのお話がおもしろすぎたからです。

ひとつの質問に対して、わかりやすく、詳しく、論理的に答えていただきました。

また、そこから派生するさまざまなエピソードも自ら話していただきました。

話し口調もさすがヘルプデスクとして長年務められた方だけあって、丁寧かつ上品、それでいて、熱いものでした。

その内容はインタビュー記事をお読みいただければお分かりでしょうが、非常に示唆に富むものでした。まるで私を通して転職に悩む多くの読者に語りかけているようでした。

話を聞いている最中に、何度も震えがきました。簡単に転職を成功させた人が高みからものを言うのではなく、かなり苦い思いをした上での内定獲得なので、その体験談には強い力があります。

転職は人を成長させることもあるのだなあとしみじみ思いました。

このインタビューを読むことで転職に行き詰っている人がひとつでも現状を打開するヒントを得てくれれば・・・・・・。鈴木さんと私の共通の願いです。


 

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