企業経営&IT戦略レポート

ITスタッフを守れ!

情報提供:株式会社アイ・ディ・ジー・ジャパン

米国CIOが取り組むストレス対策と組織運営
CIOらは今、ITスタッフの士気阻喪というリスクの真っただ中に立たされている。すなわち、企業において新規採用凍結やレイオフの動きが広がる一方で、IT部門に対する要求増大に拍車がかかるなか、雇用不安と仕事量の急増によるストレスが、IT要員の間でかつてないほど深刻化しているのだ。このような状況に対処するために、CIOはITスタッフに対して業務上の、あるいは精神的なサポートをいかに行えばいいのか。本稿では、米国企業のCIOの取り組みを紹介しながら、IT部門におけるスタッフの問題を整理し、CIOが組織運営に際して心がけるべき部下のサポートのあり方について考察する。
ステファニー・オーバビー text by Stephanie Overby

組織崩壊の危機

米国ペンシルベニア州フィラデルフィア市は2002年冬、1991年以来最悪の財政危機に見舞われた。それに伴い、同市のCIOであるダイアナ・ネフ氏は、早期退職者制度を適用してIT要員を1割削減することを余儀なくされた。併せて、同氏は新規プロジェクトに関し、コスト効率の面からアウトソーシングを拡大させる方針も打ち出した。

ちょうどそのころから、同市のIT部門のスタッフらは次々と体調を崩し始め、なかには長期にわたる病欠を申し出る者も出てきた。多くの人はその原因を記録的な寒波と豪雪によるものだと指摘したが、ネフ氏は、ITスタッフらの仕事の負荷が重くなりすぎているためだと考えた。というのも、同氏の部下である535人のITスタッフたちは、大勢の同僚が辞めたことによる精神的・物理的なストレスを盛んに訴えていたからである。「IT部門の問題がどれだけスタッフの身体・精神状態に影響しているのかを明確に示すことはできないが、彼らの間で不安が広まっているのは確かだ。レイオフに伴う仕事量の増加のストレスと必死で闘っている彼らに対し、何ら明るい見通しの持てない今の状況でどのように安心感を与えればいいのか、すっかり途方に暮れている」と、ネフ氏はため息をつく。

このネフ氏の悩みは、まさに今、多くのCIOの間で共有されている問題でもある。CIO Magazine米国版が米国企業のCIOを対象に実施した調査(2003年1月、有効回答数:290)では、ITスタッフに関する最大の懸念として、「仕事量の増大による“燃えつき症候群”」を挙げた人が全体の75%にも上った。また、部下のストレス・レベルについての問いでは、「非常に高い」、「高い」の合計が60%、「前年より高まった」との回答も43%に上る。

その背景には、財務状況の逼迫による厳しいコスト削減の要請から、人員削減に伴う仕事量の増大、アウトソーシングに伴う雇用不安、さらにはテロ事件やイラク戦争から続く国土安全に関する警戒ムードといった社会不安までをも原因とする、従業員らのストレスの高まりがある。IT組織運営の舵取りを担うCIOにとっては、まさに嵐の中の航海であり、一刻の予断も許さない状況にあると言っても過言ではない。「優秀なスタッフの多くが辞めてしまい、残ったスタッフで以前より多くの仕事をこなさなければならないとすれば、従業員の“反乱”が起こるのは時間の問題だ。組織の士気が下がり、生産性がガタ落ちする前に、CIOは部下のストレスや不安を和らげるための対策を講ずるべきだ」と、ガートナーのアナリスト、ダイアン・モレロ氏は主張する。

以下では、ITスタッフらの仕事量の適正化から優秀な人材の確保まで、IT部門のスタッフにまつわる問題の改善に取り組むCIOの姿を紹介する。

増えるストレス、減らない仕事

IT部門のスタッフにとって、強いストレスや膨大な仕事量といった問題は、今に始まったことでない。この“業界”では残業や休日出勤は何年も前から常態化しており、デッドラインのプレッシャーと闘うことが宿命づけられているとも言える。

全米に医療機関を展開するプロビデンス・ヘルス・システムのオレゴン支部CIO、リック・スキナー氏は、「IT部門は既存のシステム/ネットワークの運用に加えて、大量の新規プロジェクトも担当している。あらかじめスケジュールの決まっている仕事もあるが、予算や目的のはっきりしないプロジェクトが突然降ってわくことも多々ある。そんな見通しの立たない状況で仕事をするのは、それだけでも大変なストレスだ」と指摘する。

企業に比較的“余裕”のあった好景気のころでも、IT部門のこうした問題は指摘されていたが、予算が減らされ厳しい要求が日々突きつけられる今日、ITスタッフの労働状況はとその当時と比べてもはるかに厳しさを増している。医療機関ケア・ニューイングランドの取締役兼CIO、ブルース・レアデン氏も、スタッフらの労働環境の悪化にどう対処すべきか悩む1人だ。

「他社と同様、我々のIT部門でも、経営陣や事業部門から『サービスの質を上げろ』、『IT予算を減らせ』、『プロジェクトを立ち上げろ』と次々に厳しい要求を突きつけられ、四苦八苦している。CIOとしてITスタッフの仕事をこれ以上増やしたくないのはやまやまだが、そうも言っていられないのが現状だ。当社のITスタッフの平均労働時間は週70時間を超えている。仕事が常に雨のように降ってくるため、いくら予定を立てても長時間労働を避けられないのだ」(レアデン氏)

ガートナーの人材コンサルティング・グループであるピープル3のCEO、リンダ・ピッテンガー氏は、スタッフに過度な負担を与えるリスクを次のように指摘する。

「精神的ストレスが限界を超えれば、欠勤の増加や生産性の低下によって結局はコストが増えることになる。あるいは、一時的に生産性が向上しても、スタッフらが燃えつきてしまうおそれがある。また、こういう時代になると、リスクを避けたいがために、『どうせ予算がないのだから新しいアイデアを出しても意味がない』、『リーダー役を買って出て失敗するくらいなら何もしないほうがマシ』などと考える人が増え、その結果、組織の士気や生産性が下がってしまいがちだ」

こうした問題に対処するため、部下の仕事のプレッシャーを和らげようと、さまざまな工夫を凝らしているCIOもいる。例えば、年商17億ドルのコンピュータ・ゲーム会社エレクトロニック・アーツのCIO、マーク・ウェスト氏は、ITスタッフに週に1度、目先の仕事以外の戦略的な業務に従事する時間を持ってもらおうと、小規模な研究開発チームに参加するよう促している。「IT部門の状況は厳しく、仕事は増える一方だが、ITスタッフが多忙な中で時間をやり繰りして研究開発にかかわることで、会社の事業戦略についても幅広い理解が得られる。それにより、社内ITプロジェクトにうまく優先順位を付けられるといった効果もあるようだ」とウェスト氏は説明する。

プロジェクト管理の必要性

社内のITリソースがギリギリまで切り詰められたことで、明らかになったことがある。それは、CIOが担う役割のうち、ITプロジェクトの優先順位づけとプロジェクト・マネジメントがきわめて重要であるということだ。CIOが率先してこれらに取り組まなければ、IT部門の生産性や仕事の質の低下を食い止めることはできない。

フォレスター・リサーチのアナリスト、トム・ポールマン氏は、「IT部門は社内で最もプロジェクト指向の強い部署だが、いまだにプロジェクト管理に関するルールやノウハウがきちんと整理されていないようだ。CIOのプロジェクト・マネジメント・スキルが未熟だと、スタッフに過度な負担を与えることになり、IT部門の仕事の質に深刻な影響が出てくる」と指摘する。

教育サービス&コンサルティング会社のケラー・ウィリアムズ・リアルティ・インターナショナルでCIO兼COO(最高執行責任者)を務めるダレン・ビエン氏は、2001年にIT部門が20件抱えていた主要プロジェクトを1件も完遂することができなかったことから、IT部門にプロジェクト・マネジメント能力が欠如していたことを思い知った。ちなみに同社の2002年の売上げは5億3,000万ドルと前年の40%増を達成しているが、裏を返せば、そんな好調下でさえITプロジェクトが失敗する危険はつきまとっているのだ。「組織体制の整備と優先順位づけを行うなど、もっとプロジェクト・マネジメントに注力すべきだった」とビエン氏。同氏は現在、25人のITスタッフとともにプロジェクトを進行中だが、新たに組織したIT運営委員会での優先順位づけのプロセスにより、重要なプロジェクトに専念できる体制を整えたという。

プロジェクトの優先順位づけにあたっては、どれほどビジネス価値があるかという観点だけではなく、社内の人的リソースや期間の観点からも、適正な計画であるかどうかを評価しなければならない。プロジェクト・マネジメントを成功させるには、「人時」をきちんと管理する必要があるのだ。

プロビデンスのスキナー氏によると、同社のプロジェクト管理オフィスは、社内システムのメンテナンスにどれほどのリソースが必要か、現状で新規プロジェクトにどれくらいのリソースを使えるかといった点を大まかに把握しているという。また、プロジェクト・マネジメントのプロセスには常に微調整が必要であるが、プロビデンスでは週に1度、そうした調整を行う場を設けている。

同時に、スキナー氏は最近、部下らにより多くの権限を持たせるようにしている。ストレス要因が増える中でITスタッフの責任を重くするというのは、一見矛盾した方針であるように思えるが、「CIOは部下らに対して、明確な目標と利用可能なリソース、日々の意思決定を下すための判断力を与えることが大切だ。責任が増してもスタッフの裁量を増やしたほうが、彼らの仕事への意欲が高まり、結果的にストレスは減るはずだ」と同氏は訴える。例えば今年、従業員満足度調査の結果をレビューする役割を、スキナー氏の管理チームから、ITスタッフで組織される4つの作業グループに移管した。その結果、これまでよりもはるかに利用価値の高い調査報告書がまとめられたという。

ITスタッフの労働条件が厳しくなる中で、彼らのストレスを少しでも緩和しようと思うなら、CIOが“トンネルの出口に明かりをともしておく”ことも有効だ。「スタッフらは6カ月先、あるいは10カ月先であれ、将来楽になると分かっていれば、一時的なストレスには耐えられるものだ」と、ガートナーのモレロ氏は強調する。

アウトソーシングと雇用不安

増大する社内のITニーズにこたえるため、コストやスキル、戦略上の理由から、アウトソーシングの拡大を計画しているCIOも多い。前出のCIO Magazine米国版の調査によると、過去1年間で社外のITサービス業者と臨時スタッフの利用を増やしたCIOは68%に上り、国内アウトソーシングを増やした企業が23%、海外のアウトソーシングを増やした企業が18%あった。また、今後1年間のうちに何らかのかたちで外部のITサービスの利用を増やす予定であると答えたCIOが全体の47%に達している。

「ギリギリの数のスタッフで切り盛りしながら、さらに10%の削減を迫られているようなCIOにとって、アウトソーシングは有効な選択肢だ。特に海外アウトソーシングを利用すれば、理論上30〜50%のコストを節約できると言われる」(モレロ氏)

一方で、アウトソーシングには、社内スタッフの不安を招くというマイナス面もある。今や有能なIT技術者でも、それ以外のスキル、例えばビジネス・プロセスやマネジメント・スキルがなければ職場での地位は危うい。だからこそ、ITスタッフらは、海外へのアウトソーシングによって自分の得意とする業務がなくなってしまうことを恐れる。

エレクトロニック・アーツのウェスト氏がこの問題に直面したのは、同社の開発業務の15%程度をインドの中堅ソフトウェア・ベンダー2社にアウトソーシングし始めたときだ。同氏は、社内開発者が不要になるのではないかという部下たちの不安を取り除き、アウトソーシングが“チャンス”であると考えてもらえるよう、組織体制を見直した。そして開発者の新規採用を中断する一方、スタッフにシステム解析の技術を学ばせ、市販ソフトウェアの評価作業を行うために事業部門の注文管理プロセスを理解させるなど、より戦略的なスキルを習得するよう奨励した。

「アウトソーシングは、社内スタッフの仕事を奪うものではなく、彼らがプロジェクト・マネジメントや分散型開発環境のマネジメント・スキルを身につける良い機会なのだ。新しい仕事に対する不安はあるだろうが、我々としては単に仕事を安く済ます手段としてではなく、IT部門全体として、より質の高い仕事を短期間でこなすための手段であるととらえている」(ウェスト氏)

心理的サポートで意欲を引き出す

ピープル3のピッテンガー氏は、CIOがアウトソーシングに際してスタッフ・サポートで“手抜き”をすることは許されないと訴える。

「CIOやITマネジャーたちからは、『アウトソーサーの選択とアウトソーシングの適用範囲の決定には時間とコストをかけるが、スタッフの労働環境や雇用の問題にはあまり時間を割く余裕がない』といった声をしばしば耳にする。だが、本当はスタッフの問題もベンダーの選定や業務の切り分けと同じくらい重要なプロセスなのだ。社内に残るスタッフも、アウトソーシング対象となった業務に従事していた同僚が冷たく処遇されるのを目にしたら、そんな会社にはいたくなくなるだろう」(同氏)

アウトソーシングに際してスタッフのサポートを行う必要があるのは、国内でアウトソーシングを行う場合も同じだ。ペンシルベニア大学ヘルス・システム(UPHS)のCIO、ジョージ・ブレンクル氏は、IT業務の大半を医療業界向けITサービス会社であるファースト・コンサルティング・グループに委託するという決断を下した。UPHSは2001年に2億ドルの赤字を計上したが、その直後にブレンクル氏のITスタッフのうち170人がファースト・コンサルティング・グループに移籍し、社内には30人を残すのみとなった。

従業員の反応を心配したブレンクル氏は、アウトソーシングの契約条項のうち25%をスタッフの問題に充て、少なくとも1年間はUPHSの従業員を1人も解雇しないこと、組織再編に伴う人事異動を2%未満とすることなどを条件に盛り込み、UPHSの従業員がそれまで享受していたいくつかの恩恵も引き継がれることが決まった。にもかかわらず、アウトソーサーは2回にわたり、2%を超える人事異動を伴う組織再編を行った。スタッフが移籍したときと、1年半後に一部の従業員がUPHSから完全に転籍したときだ。「だが、この程度で済んで良かったと思う。それ以外の契約は守られたし、移籍したスタッフもそれほど厳しい状況に立たされずに済んだ。社内に残ったスタッフは、マネジメント業務が中心となり、最初のうちこそ大きなストレスを抱えたようだが、最終的には新しい仕事に慣れくれた」とブレンクル氏。

一方、ケラー・ウィリアムズ・リアルティのビエン氏は、1年前に戦略開発をITコンサルティング・グループにアウトソーシングしたが、スタッフに対する配慮が足りなかったために失敗を喫したと認める。「開発業務にかかわる長期的なアウトソーシング契約を締結したところ、社内スタッフが高度な技術が必要な仕事をアウトソーサーに奪われ、代わりに外部スタッフの管理という“単純労働”に甘んじるという結果を招いてしまった」と同氏。そこで最近、方針を改め、戦略的な開発業務を社内に戻し、今後は作業的なIT業務に限り短期的にアウトソーシングを採用することにしたという。

「企業の独自性を決めるプラットフォームの開発については、従業員のやりがいという意味からも永久に社内にとどめたい。企業の戦略的ニーズをいちばん理解しているのは、その企業の成功に自分自身の運命を左右されるひとりひとりの従業員なのだから」(ビエン氏)

緊密なコミュニケーションを

では、厳しい予算削減の要求や、アウトソーシングによるコスト削減のプレッシャー、それらがもたらすITスタッフのストレス増大といった問題は、いつになったら軽減されるのだろうか。

この問いに対する明確な答えはないが、フォレスターのポールマン氏は、「予算に関しては、最近わずかながら増加傾向にあるが、IT部門における採用はまだ活発化の兆しを見せていない。つまり、投資に関しては徐々に増え始めているが、必ずしもそれがスタッフの新規採用には結びついてないのだ。そうした意味で、スタッフにまつわる問題は今後さらに悪化する可能性が高い」との見解を示す。

そんな状況でCIOがなすべきことは、スタッフのケアへの全力投球だ。UPHSのブレンクル氏は、アウトソーシング・プロジェクトの経験に基づき、部下とのコミュニケーションの大切さをこう訴える。

「組織再編などスタッフの仕事や労働環境に大きくかかわることでトップが隠し事をしていたのでは、部下の信頼は得られない。アウトソーシングの不安を100%解消することはできないが、私は何でもオープンにすることで、従業員たちに組織の現状を理解してもらおうと努めてきた」(ブレンクル氏)

冒頭で紹介したフィラデルフィア市のネフ氏も、部下たちと緊密なコミュニケーションを取り合いながら、組織運営に力を尽くしている。同氏は、市のIT理事会に対してIT部門の持つリソースに限りがあることを事あるごとに説明し、サポートと理解を求めている。ネフ氏が今、注目しているのは、少数のスタッフでより多くの仕事量をこなすための自動化ツールだ。根本的な問題が解決されないかぎりスタッフの負荷を軽減させるための特効薬にはならないが、ある程度は役に立つ可能性があるという。同氏はさまざまな悩みを口にしながらも、希望に満ちた表情でこんなせりふを残してくれた。

「部下たちとのコミュニケーションこそ、彼らのストレスを緩和するための最善の策だと痛感している。明るい見通しは立てにくいが、現状が分かれば、スタッフの気持ちも少しは楽になるようだ。CIOが無駄に不信感を抱かせないよう努めることで、スタッフは目前の仕事に専念できるようになる。そうして組織の士気が少しずつ高まってくれば、少ないリソースでより多くの仕事をこなすためのアイデアを見つけ出そうといった機運も生まれてくるはずだ」

ITスタッフのモチベーションを維持するための11のルール

(1) 何事もオープンに

レイオフからアウトソーシング契約、複雑なプロジェクトに至るまで、ITスタッフの不安を和らげる最善の策は、コミュニケーションだ。

「一般に、従業員は管理者に対して、不利益な情報も含めて、何でも包み隠さず話してほしいと考えている。成功しているCIOは、IT部門が抱えている問題を率直に伝えることによって、優秀な部下の信頼を勝ち得ている」と、ガートナー・グループのピープル3でCEOを務めるリンダ・ピッテンガー氏は指摘する。

(2) CIOが緩衝材になる

与えられた仕事に対してITリソースが不足している場合、経営陣にその旨を説明し、プロジェクトの優先順位を決めてもらうようにする。スタッフがこなしきれないほどの仕事は引き受けないことが肝心だ。「経営陣にIT部門の苦境を理解してもらえない、といった嘆きもしばしば耳にするが、具体的な数字を挙げたり、他の部門に当てはめたりするなどIT部門の仕事をきちんと説明すれば、彼らも理解してくれるはずだ」と、ペンシルベニア大学ヘルス・システムのCIO、ジョージ・ブレンクル氏。

(3) プロジェクト管理の手順を決める

どんな仕事にも忙しい時期というのは必ずある。しかし、「いくら多くの仕事を抱えていても、体系的に順序立てて進めることができれば、従業員らのストレスは少なくて済むのだ」と、弁護士事務所、カークパトリック&ロックハートのCIO、スティーブン W.アグノリ氏は訴える。

(4) スタッフの意思を尊重する

日常業務の意思決定について個人の裁量を増やせば、従業員の不満や不安は和らぐ。「スタッフらは、多少責任が重くなろうとも、自分の仕事の方向性は自分で決めたいと考えるものだ」と、プロビデンス・ヘルス・システムのオレゴン支部CIO、リック・スキナー氏は述べる。

(5) 危険水域にある個人を突き止める

過労状態にある従業員は、不満を言う気力さえなくなっている場合が多いため、CIOは日ごろから部下らの様子を気遣い、リスクを抱える従業員を自ら見つけ出すことが大切だ。

ケア・ニューイングランドのCIO、ブルース・レアデン氏は、部下らのストレスによる納期の遅れを発見した場合、一時的に追加のリソースを割り当て、納期を延ばして従業員のストレスの緩和に努めているという。

(6) 無能な人材は排除する

一般に、従業員のうち下位10%は、組織に貢献をしていない無能な人材であると言われる。

「能力的に厳しいと判断したスタッフには容赦なく出ていってもらっている。必死で頑張っているスタッフの隣で無能な人間が足を引っ張るような事態は是が非でも避ける必要があるからだ」と、通信機器メーカー、ハリス・コープの情報サービス担当取締役、ウィリアム H.ミラー氏は主張する。

(7) CIOが現場に出向く

スタッフらのモチベーションを上げるためには、CIOが彼らと同じ現場にいる時間を増やすことが非常に重要だ。

バンクーバー国際空港のCIO、ケビン・モロイ氏、「私は、できるだけ頻繁に現場に赴き、スタッフの仕事場で時間をともにしながら彼らのプレッシャーを肌で感じ、彼らに対するサポート姿勢を表すようにしている」と話す。

(8) 戦略的な仕事を用意する

週に1回程度は、目前に差し迫ったタスクワーク的な仕事とは別に、将来を見据えた戦略的な仕事を与えることも大切だ。そうした時間が少しでもあることで、スタッフらが燃えつき症候群に陥るのを避けられる。

(9) 教育を重視する

スタッフの仕事に十分なボーナスで報いることはできなくても、スキルアップの機会は必ず設けるべきだ。トレーニングには必ずしも多額の予算を用意する必要はない。例えば、レアデン氏は国が補助金を出しているIT教育助成金を申請することで予算を確保しており、一方、アグノリ氏は主要なITベンダーに最先端の教育を提供してもらえるよう依頼している。

(10) アウトソーシングのメリットを伝える

アウトソーシングを拡大する際には、それがレイオフ目的ではないことを従業員にきちんと伝える。また、アウトソーシングの採用は、より戦略的なスキル(ビジネス・プロセスの管理やシステム分析など)を身につけるチャンスだということも説明する。

(11) 成功に報いる

ITスタッフがプロジェクトに成功したら、社内ニュースレターに紹介したり、エレベーターの中で直接ほめたりなど、CIOが成果に対してきちんと報いる姿勢を見せることが大切だ。予算が許すのなら、報奨金を出すことができれば完璧だ。

記事提供/株式会社アイ・ディ・ジー・ジャパン (CIO Magazine 2003年11月号に掲載)
2004.05.13 update

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