経営課題のための人材・組織戦略

経営ソリューションツールとしての「人材モデル」・7/12

株式会社クイック ヒューマンキャピタル総合研究所

「人材モデル」の策定と活用の仕方〜「人材モデル」の活用事例

しかし「人材モデル」の真価はこれからです。これらの改善すべき6項目は全て改善できるのでしょうか。できるとしても、どのようなアプローチが効果的で、どの程度までの改善が可能なのでしょうか。

すべての人材には大きな可能性があるという、性善説的な考え方には同意したいものの、経営における人材マネジメントとしては、冷静にできることとできないこと、やるべきこととそうでないこと、さらにそれらの優先順位について冷徹なまでに現実を認識すべきです。 結論から申せば、D主任は「積極性」「自己信頼性」「感情安定性」に関しては、スムーズに高いレベルで発揮できるようになる可能性は高いですが、「協調性」「共感性」「モラトリアム傾向」に関しては、本人に改善に向けての継続的な努力を要請することとなります。なぜかと申しますと、それは「人材モデル」の基底構造にあたるパーソナリティ傾向に示されています。

D主任は「客観性」と「内閉性」が高く「身体性」は低いタイプです。[図4]をご覧ください。D主任と同じく“客観性”が高い場合の因子の相関関係が示されております。D主任本来のパーソナリティ傾向を見る限りは「積極性」「自己信頼性」「感情安定性」は高く発揮される可能性があるわけです。D主任のパーソナリティ傾向から相関の高い欲求傾向としては、「自律欲求」と「顕示欲求」に相関があります。

D主任の場合、これらの値も基準に比較して高くはありません(基準値が高いということもありますが)。これらから、本来発揮されてしかるべき行動が発揮されていないということで、D主任を取り巻く環境変数に着眼した結果、原因を発見しました。それは、この企業の仕事の進め方と評価のあり方でした。仕事の進め方はマニュアル主義、決められた事を厳格にやることを求められています(自律欲求への抑圧)。評価に関しては、目標は達成してあたりまえ、未達成でしかられることはあっても、賞賛を受けることはありませんでした(顕示欲求への抑圧)。

このように欲求が抑圧されると、短期的には反発してむしろ高くなりますが、長く続くと疲弊してしまい低くなってしまいます(諦め)。まさに、このような組織やマネジメントという環境がD主任本来の持ち味を活かしきれていないのです。

以上、経営側の体制政策課題として紹介しました。次に[図5]をご覧ください。D主任は全くこの逆のタイプです(親和欲求は決して低くありませんが)。すなわち、「協調性」「共感性」は低く表れ、「モラトリアム傾向」は高くなります。しかし「人材モデル」との比較によらないD主任自体の水準値は、「協調性」がほぼ標準の範囲、「共感性」はやや低めという程度ですから、彼自身の自己認知を高めることと、コミュニケーションに関するスキルを磨くことで改善は可能です。

すなわち、D主任の能力開発課題というものは、組織側の問題として解決すべき事柄(環境面)と、本人の改善努力を支援するために実施すべき項目(研修等)に峻別することで、本当に効果的の挙げることのできるデベロップメント(人材開発・組織開発)となります。このように、分析的なデータに基づき、本人と共に能力開発課題について考えるというプロセスからも、大きな効果が表れてくるものです。

株式会社クイック ヒューマンキャピタル総合研究所
人材・組織コンサルティング事業(人材開発・組織開発・人材課題・組織課題へのソリューション)、制度企画コンサルティング事業、各種組織管理制度の企画・策定・運営をメインに、人材採用から教育開発・最適配置、組織デザインなど人材と組織における経営課題へのトータルソリューションを展開。
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2002.05.20 update

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