経営課題のための人材・組織戦略

経営ソリューションツールとしての「人材モデル」・6/12

株式会社クイック ヒューマンキャピタル総合研究所

「人材モデル」の策定と活用の仕方

[3]「人材モデル」の活用事例

1−(3)で、経営として体制政策課題の中心テーマは「いかにやれることを増やすか」であり、そのために取り組むべきテーマは「人材の調達」、「能力開発と適性配置」、「組織デザインと人材の組み合わせ」であると申しました。そして、このテーマを機能させるために人事部門として実施すべき項目に「アセスメント(人材の評価)」、「デベロップメント(人材開発・組織開発)」、「リプレースメント(適正配置)」を挙げました。
「人材モデル」は、まさにこの3つのシーンで真価を発揮することができます。まずアセスメントですが、ここでは「採用」シーンにおける選考アセスメントの事例をあげます。「人材モデル」は、当社の「あるべき人材の基準」ですから、採用選考における採用基準としては最適なわけです。

被験者の方々には、アンケート形式の個人特性を明らかにする為につくられた設問に回答いただきます(この作業は「人材モデル」の活用全てに共通です)。そしてその回答結果を、前の「人材モデル」の完成例で示した、特定された因子([表3])に基づいて分析・評価し、「人材モデル」に近い人材から順に並び替えます([表4])。
事例は新卒の選考用ですので、特定の職種に絞り込まない「コアモデル」というものを二種類策定し、基準としています。当然、いずれかのモデルで高順位であるほど当社の求める人材に近いわけですから、採用に適した人材であるといえます。ここでは、新卒の採用選考アセスメントにおける「人材モデル」の実施例を示しましたが、経験者採用においても、適切な基準のモデルを用いることで同様に有効です。さらにアセスメントの実施活用シーンとしては、昇進・昇格の適性の検討や、今日的な活用としては、組織のダウンサイジングに伴う人員削減の対象者選定に用いられるケースも少なくはありません。

次はデベロップメントですが、対象者群ごとの「人材モデル」に基づき、各人個別に能力開発課題とその開発可能性を探ることができますので、効果的で無駄のない人材開発や、組織開発のプログラムが企画できます。具体的な事例で説明いたします([図6])。
この事例のD主任は、ある企業の営業部門のハイパフォーマーです。この度、マネジャー候補となっているのですが、経営トップとしては何か物足らなさを彼に感じています。それが何かが具体的にいえないために、「人材モデル」との比較を行いました。
折れ線グラフの太い線が「人材モデル」の基準値です。対して、細い線がD主任を示しています。項目は既に述べた「パーソナリティ傾向」「欲求傾向」「行動傾向」各10項目と、参考までに見ている価値観・関心事5項目の合計35項目です。下の棒グラフは人材モデルとD主任の偏差値の差ですが、棒グラフの上向き・下向きが改善の方向性を示しています。

具体的に見ていきますと、ポイントは棒グラフの大きな値が改善の優先度が高い事を示しています。しかし「パーソナリティ傾向」や「欲求傾向」というものは、本来内面的な事柄であり、企業側があれこれ申すべきことではありません。改善を要求できることは、ビジネスシーンにおける社会的な行動の側面だけと考えるべきです。
つまり、D主任に関しては、「行動傾向」の中で薄くアミをかけた項目ですが、棒グラフが上を向いた改善の方向性が「高める」ことを示している項目は「積極性」「協調性」「自己信頼性」「共感性」「感情安定性」であり、棒グラフが下を向いた改善の方向性が「低める」を示している項目は「モラトリアム傾向」です。コンピテンスで表現すれば「現在チームリーダー(主任)でありながら、チームのイニシアティブが握れず、メンバーに対する対人影響力や対人感受性が低い」といえます。この様に具体的に示されると、何となく物足らなさを感じていながら上手く表現できなかったことがらが明確に指摘されることとなり、大半のケースで上司や本人までもが納得され内容にも同意をされます。

株式会社クイック ヒューマンキャピタル総合研究所
人材・組織コンサルティング事業(人材開発・組織開発・人材課題・組織課題へのソリューション)、制度企画コンサルティング事業、各種組織管理制度の企画・策定・運営をメインに、人材採用から教育開発・最適配置、組織デザインなど人材と組織における経営課題へのトータルソリューションを展開。
URL:http://919.jp/  E-mail:info-jkai@919.jp
2002.05.20 update

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