経営課題のための人材・組織戦略

経営ソリューションツールとしての「人材モデル」・4/12

株式会社クイック ヒューマンキャピタル総合研究所

経営ツールとしての「人材モデル」

もう一つ、図5を用いて解説します。 [図5]のケースは、ある企業から社員(営業職)のやる気を引き出すとともに、営業のスキルをアップし、稼げる営業マンに育てて欲しいという研修企画の要請でした。そこで、現状把握の一環として実施したアセスメント(人材の評価)結果のBさんの結果を紹介します。

Bさんの「パーソナリティ傾向」は、「身体性」タイプが高く、「内閉性」タイプは低いという、非常に気軽に良く動く社交的な人材です。この「身体性」が高いと「欲求傾向」の「勤労欲求」が高くなるという正の相関があります。また、高い「勤労欲求」は「行動傾向」の「積極性」、「協調性」、「共感性」が高くなるという正の相関があります。同時に、低い「内閉性」は「勤労欲求」と「親和欲求」が高くなるという負の相関があり、「行動傾向」では「積極性」、「協調性」、「共感性」に正の相関があります。つまり、「勤労欲求」と「親和欲求」の二つの「欲求傾向」は、同じ「行動傾向」に対して正の相関があるために、これらの傾向はより強化されます。コンピテンスで表現すれば、「対人影響力」と「対人感受性」が高いという特徴があります。

Bさんの業績はまずまずでありながら、積極的に仕事に取り組もうという意欲が出ず転職を考えていました。Bさんの「パーソナリティ傾向」としては、本来仕事に対しての意欲が湧かなかったり、積極的に物事に取り組めないというような人材ではありません。Bさんは不動産会社の営業職なのですが、実は職場の風土と仕事の進め方が、彼には合っていませんでした。彼は、職場の仲間とともに協力し合って(親和欲求)、仕事を通して生きがいを見つけたい(勤労欲求)という欲求を強く持っています。

ところが、現在、この企業の仕事の進め方は、社員間で競争をさせながら、トータルな業績の向上を図ろうという方針であり、給与制度も業績の占める比率が高くなっています。そのために職場の雰囲気(組織風土)は、皆が顧客や物件情報を囲い込み、協力し合って仕事をしようなどという考えは通用せず、まったく個人事業主の集合というのが実体でした。最初は先輩などにも気遣い、手間な作業等を率先して手伝っていたのですが、誰にも感謝されない上に、業績が上がらない状態が続きました。上司の営業所長といっても名ばかりで何の指導もしてくれませんし、現実は一プレーヤにすぎませんが、営業所の業績責任となると誰彼かまわず怒鳴り散らすだけでした。

彼が今まで続いていたのは、お客様の気持ちを汲み大切にする姿勢が評判を呼び、次々とお客様からのご紹介を頂けているという充足感があったからでした。この場合、企業の要請の通りに研修を実施して、営業に関するジョブスキルを磨いたり、ましてや、やる気を高める事を意図した諸施策(給与等のインセンティブシステム)の変更も効果的ではありません。結果的にBさんは、新設された営業支援室という部署で、営業マンの役に立つ資料の企画や、様々なサポートツール、また顧客管理システムの構築という仕事に異動し、意欲を取り戻しています。


[図5]

株式会社クイック ヒューマンキャピタル総合研究所
人材・組織コンサルティング事業(人材開発・組織開発・人材課題・組織課題へのソリューション)、制度企画コンサルティング事業、各種組織管理制度の企画・策定・運営をメインに、人材採用から教育開発・最適配置、組織デザインなど人材と組織における経営課題へのトータルソリューションを展開。
URL:http://919.jp/  E-mail:info-jkai@919.jp
2002.05.20 update

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