経営課題のための人材・組織戦略

経営ソリューションツールとしての「人材モデル」・3/12

株式会社クイック ヒューマンキャピタル総合研究所

経営ツールとしての「人材モデル」

「パーソナリティ傾向」に根ざし、相関の強い「欲求傾向」や「行動傾向」の因子からなる一群のクラスター(塊)を、発揮可能性の高い潜在能力(コンピテンス)として、その特徴を表す象徴的なキーワードによりネーミングしています。[図4]

3−(1)で、行動には意識して行っていることと、意識せずに行っていることがあり、この意識していない大半の行動こそが、その人の個人的な特性(パーソナリティ傾向)を反映していると申しました。この意識せずとも行え、それが成果や成果を生むプロセスに好ましい影響を与える能力をコンピテンスというのです。対して、学習や繰り返しによる習熟で会得し、発揮が可能となる能力をジョブスキルといいます。

主としてトレーニングで効果的に開発できるのは、このジョブスキルの部分です。コンピテンスに関しては、「パーソナリティ傾向」として保有の可能性が高いにも関わらず発揮されていない場合、発揮を妨げているであろう環境変数への対処が大きなポイントとなります。

[図4]を用いて説明しますと、10ある「パーソナリティ傾向」の中で、「客観性」というタイプが他に比較して高い人は、「欲求傾向」の中で「自律欲求」と「顕示欲求」が高くなるという関係(正の相関)があります。そして、「自律欲求」は、「行動傾向」の「指導性」、「自己信頼性」、「感情安定性」に対して正の相関があるとともに、「従順性」は低くなるという負の相関があります。同時に「顕示欲求」も、「行動傾向」の「自己信頼性」と「感情安定性」に対して正の相関があります。さらに、「行動傾向」の因子間で正の相関が高い「自主性」・「積極性」という特徴も現れることを示しています。

ここで、「自主的」で「積極的」、さらに「指導性」が高いという行動の特徴に対して、リーダーシップというタイトルをつけるとします。これがコンピテンスという能力の項目名になるわけです。言い換えれば、「自主的」で「積極的」に部下や周囲に対して「指導性」を発揮できるリーダーシップの高い人材は、その「パーソナリティ傾向」の中でも、「客観性」がある程度高いことが推定できます。

ある企業で、実際に次のようなことがありました。Aさんは、当社による分析(アセスメント)では、この「客観性」の高いタイプの人材であるにも関わらず、部長の目には、彼の日常の職場での行動からは、「自主性」も「積極性」もうかがえないというのです。
そこで、発揮される可能性が高い行動であるにも関わらず、発揮されていないのは、環境変数の何かが影響しているのではないかと推論したのです。結論から申せば、入社当時からの上司である課長のマネジメントスタイルが、指示したことだけをやっていればよいというタイプで、部下である彼の意見具申や提案に耳を傾けるということをしなかったのです。
一度や二度ならともかく、入社以来3年間、この上司の下で仕事をしてきたのですから、今では何をいっても無駄と、ただひたすら指示されたことだけを無難にやるようになってしまっていました。この場合、「積極性」を引き出そうとして研修や意識改革を要請しても、まったく無駄なのです。


[図4]

株式会社クイック ヒューマンキャピタル総合研究所
人材・組織コンサルティング事業(人材開発・組織開発・人材課題・組織課題へのソリューション)、制度企画コンサルティング事業、各種組織管理制度の企画・策定・運営をメインに、人材採用から教育開発・最適配置、組織デザインなど人材と組織における経営課題へのトータルソリューションを展開。
URL:http://919.jp/  E-mail:info-jkai@919.jp
2002.05.20 update

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